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1話


「本当によろしいのですか?」


彼は本当に優秀だ。私の望む物を一年で作り上げた。

「ああ、これが我々の未来を明るく照らしてくれると私は信じている」

完成した物を前にした彼の顔には達成感よりも何故この様なものをと言う疑問の方が現れている…人族と魔族の争いが絶えない今の時代では誰もがこれの目的を聞くと不思議に思うだろう。

私の言葉に彼は少し俯き頭を振る。


「わかりました。それでは、実行作業に移ります」


彼の指示の下部下達が準備をを行い始める。

「3…2…1...開始!」


開始の合図と同時に魔法陣が何層にも展開される。

これがより良い未来に繋がると信じて、私は魔法陣から射出された物体を見上げるのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


魔族と人族による争いが絶えない世界。かつて人族に迫害された魔族は魔王を中心に魔族領を立ち上げ世界は人族領と魔族領に二分された。人族はその数と様々な技術、魔族はその豊富な魔力と身体能力で互いの戦力は拮抗し領域の奪い合いは一進一退を繰り返していた。だが、数百年続いたその拮抗は脆くも崩れ去ろうとしていた。



一面緑のとある森の中、不自然な赤色が広がる空間の中心に一人の男がいた。

「これで全員か?」

男が正面に座り込んでいる傷だらけの人物に黒塗りの剣を向けながら話しかける。

「そっ…そうだ!これで全員だ。もうこんな事はしない、お願いだ…許してくれ」


正面の人物の懇願を無視しさらに男は質問する。

「拠点としている場所は何処にある?」

「お、俺たちに拠点らしい場所はない…いく先々の小さな村で補給をしながら常にルートを決めて襲っていた。溜め込んだものはアイツの持っている袋に入っている!」


すでに倒れた仲間であろう一人を指差す。

「そうか…ならもう用はない」

何かが倒れる音とともに再び緑が赤に塗りつぶされていった。






「流石盗賊狩りだな。今回もよくやってくれた!」

盗賊狩りとは俺に付けられた呼称だ。盗賊とはいえ、どれだけ多くの数の人を殺しているかを揶揄するこの呼び名を気に入ってはいないのだが、いつの間にか街中に広まってしまっていた。

「俺の名前はディアだ、その呼び方をやめろ」


俺のことを盗賊狩りと呼ぶこの男は俺の拠点としている街、ホルンの門番。名前はトールだ。

この男は毎回わざと俺の名前を呼ばずにこう呼んでくる。何度このやり取りを繰り返したら気がすむのか…

「まぁいいじゃないか!カッコいいだろ、盗賊狩り!」


その後も最近の街の話題を話ながらもてきぱきと依頼の手続きを行う。こいつはいちいち無駄な会話は多いが仕事は早いから助かる。

「そういえば、近いうちに城からお偉いさんがホルンにやってくるらしいぞ」


「珍しいな…何かあったのか?」


「いや、なんでも腕利きを探して国中を周っているらしい。お前さんも声がかかるかもしれないぞ?なんてったって盗賊狩りなんて呼び名がついてるんだからな!」


「強いだけならそれこそ城の騎士に腐る程いるだろ」


「まぁそうなんだが、騎士ではダメな理由が何かあるんだろうよ」


一通り話し終わる頃には依頼完了の手続きも終わっていた。


「ほら、これが預かっていた今回の報酬だ。また盗賊の報告がきたらよろしく頼むぜ!」

「おう!ありがとよ門番さん」


「俺の名前はトールだ!門番さんじゃないぞ!」

後ろから何か聞こえた気がするが気のせいだろう。


街の中に入り真っ先に宿に向かう。宿の扉を開けると、受付にいる女の子に声をかけられた。


「ディアさんお帰りなさい!いつも通りそのままお食事ですか?」


この娘は宿の人気看板娘のサラ。暖かさを感じる赤い髪が印象的な女性だ。盗賊狩りなんて物騒な呼び名のせいで周囲から敬遠されがちな俺にも気さくに接してくれる。


「ああ、よろしく頼む。それとこの荷物を部屋まで」


俺は財布から銅貨を数枚取り出し、受付台の上に置く。

「かしこまりました!」


やっぱりこの宿はいい。周辺の宿よりはやや値段はするだけあって食事は美味いし、サービスも満足している。もちろん看板娘のサラも気に入っている。飯を食べ終わり自分の部屋に戻ると預けた荷物に問題が無いことを確認し今回の依頼で消費した物を買い足しに出かけることにした。


俺は基本的に一人で行動している。ギルドからの臨時依頼でパーティを組むこともあるが、それもその場限りだ。一人で盗賊を倒せる能力を持っていると自負しているし、とある理由からパーティを組む必要がある依頼はできる限り避けるようにしている。


盗賊狩りなんて呼ばれているが、別に盗賊を殺すような依頼だけじゃなく、薬草集めや魔物退治の依頼ももちろん受けている。ただ盗賊には思うところがあるから盗賊に関する依頼書があるとつい手にしてしまうのだ。


盗賊はそこらの魔物より頭も回るし、高確率で複数人との戦闘になるから不慮の事故も多い。普通の冒険者なら避ける危険度の高い依頼を数多く受ける姿が目立ったのかこんな呼び名がついてしまった。


「ありがとうございました!」

店員の声を背に店から出る。今回消費したナイフや臭い消し、その他消耗品を店で買い足し満足した俺は門番のトールとの会話をふと思い出した。


「一旦ギルドに行って情報を集めてみるか」



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