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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 第7章 円柱建造バベル攻略編

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第82話:バベル攻略(5)

「ガレスは……カローンナの部下は、どんな最後だったんだ?」


「シロさんを庇って、その……あの怪物に……」


「……踏み潰されたのか?」


 ポーラは目を伏せて頷いた。

 どんな状況でガレスがシロをかばう事になったのかは分からない。

 俺は見ていなかったわけだから。

 けどまぁ、シロはよくぼうっとしているから、相手の攻撃を見ていなかったんだろう。

 それで、シロが踏み潰されそうになってガレスがシロを助けたんだろう。

 多分……そうだと思う。


「本当、最後までよく分からないやつだよお前は」


 青空を見上げながら、ガレスに向けて「お前はよく分からない」と言い零す。

 その言葉はガレスに届く事はない。

 距離的にもだし、そもそも死んだ人間に言葉など届かない。


「その……どうしますか?」


 どうしますかというのは、これからどうするのかという話だろうか。

 そうだな。レオ達と再び合流できたらいいのだが、レオ達の方へと向かうのは怖い。

 せっかく逃げたのに、もしもレオ達が牛人間を倒せていなかったのだとしたら、再び身を危険に置きに行く事になるからな。

 だから、今とるべき選択は安全な状態でレオ達が俺とポーラの元へ来てくれるのを待つ事だ。


「ここで待とう」


「けど……」


「いや、いい。アイツらは来てくれる」


 レオ達が牛人間を倒している事を前提に話をするが、きっとレオとカレン、シロは俺たちの元へとたどり着いてくれるはずだ。

 俺はポーラを背負って一度走り始めてからずっとまっすぐに走り続けてきた。 

 あたりが草原で隠れられる場所がないってのがその理由でもあるが、まっすぐに走り続けたのにはもう一つだけ理由がある。

 変に方角を変えて逃げるよりもまっすぐに逃げたほうがレオ達にとってもあとで合流する際にわかりやすいからだ。


 だから俺は、レオ達が俺とポーラの逃げた方角へと、まっすぐに追いかけてくれる事を信じてまっすぐに逃げ続けた。

 あたりに遮蔽物がないから多少は逸れるかもしれないが、それでも大まかな方向さえ合っていればちゃんと合流できるように、まっすぐに逃げた。


 レオはなんだかんだ言って俺よりも頭がキレる。

 シロもカレンもいるし、それなりに冷静に物事が考えられるはずだ。

 だから、きっと俺と同じ考えにたどり着く。

 だからこそ、俺たちの元にレオ達はたどり着いてくれるはずだ。


「心配いらない。ここで3人を待とう」


 ごり押しをすると、ポーラは押し負けたという様子で、渋々だが「わかりました」と頷いてくれた。

 

 呼吸が整うと、寝転がったままもどうかと思い、身を起こそうとした。

 けど、仰向けで倒れた俺の体は驚くほど重く、顔を持ち上げる事はできたが手なんて指先をわずかに動かす事しかできず、足に関しては動かそうと思っているのに微塵も動かなかった。

 というか、感覚がなかった。


「ヤバ……体が……動かない」


 思わず、焦った調子で言ってしまった。

 ポーラは俺の言葉を聞いて一瞬キョトンとすると、すぐに荷物鞄を漁り始めた。


「仕方がないですよ。だって、自分の荷物もあるのに私を背負って1時間以上も走り続けていたんですから。ほら、これを飲んでください」


 ポーラが荷物鞄から取り出した錠剤を手渡してくる。

 渡された錠剤は3粒だったが、さすがに水がないと厳しいなぁと思っていると、「それ、噛んで大丈夫なやつです」とポーラに言われた。

 お言葉に甘えて、錠剤を口に放り込んでボリボリと嚙み砕く。

 

「なんだこれ。酸っぱいな」


 渡された錠剤はなんと言えばいいのか、レモンの皮をかじっているみたいな酸っぱい味がした。

 けど、ただ酸っぱいだけじゃなくてほのかにヨーグルトっぽい甘みもある。


「特製のビタミン剤です。すぐに回復するわけではないですが、普通に体を休めるよりは疲労が回復すると思います」


 確かに、言われてみると少しだけ早く疲労が取れている気がする。

 ……うん。気がするだけだ。

 プラシーボ効果ってやつだ。


「その……ありがとう」


「……いえ」


「……」


「……」


(うっわ! 気まずい!!)


 あまりにも体が重くて俺が話す気が起きないってのもあるが、それ以上にポーラがずっともじもじしていて喋らない。

 だから必然的に俺たちの間に会話が生まれず、対照的に沈黙が生まれる。

 沈黙が大丈夫なタイプの人間なら気にならないのだろうが、残念な事に俺は沈黙が苦手なタイプだ。

 しかも、自分が話す事はあまり好きじゃないのに沈黙が苦手とかいうクソみたいに面倒臭い難儀な性格をしている。


「あ〜っ。え〜っと……」


 俺が空を見上げながらそう言い、


「……はい」


 ポーラが相槌を打つ。

 そんな意味のない会話でもなんでもないやりとりが何度か続くうちに、俺は強烈な眠気に襲われた。

 昨日はなんだかんだで3時間前後は寝れたはずだからそれなりに休めていたと思っていたのだが、実際はそうじゃなかったらしい。


 目を擦ろうにも手を持ち上げるのすら億劫に感じるほど、頭が鈍くなっている。

 だから代わりに瞬きを繰り返して眠気を堪える。


「その……寝ててもいいですよ」


「……え?」


 あまりに眠そうな俺を見かねてか、ポーラは寝ててもいいのだと言ってきた。

 その口調は優しくて、柔らかい声にまた眠気が助長される。

 

 俺を見て微笑むと、ポーラは視線を俺から外した。

 何を見ているのかと思い、顔を持ち上げて向きを変える。


「なっ……」


 さっきまでポーラの方へと向けていた顔の向きを変え、真逆の方向をみると、ポーラが何を見ていたのかがよくわかった。


「ようボウズ。久しぶりだな」


 そこには、武装した小鬼ゴブリンの大群を従える、防具のみを身につけた小鬼ゴブリンが腕組みをして立っていた。


「ウィーク……ドミネーター……」


 その名を呼ぶと、先頭に立つ防具のみ身につけた小鬼ゴブリンがニヤリと笑い、両手を広げて空を仰いで見せた。


「あー!あー!あー! 覚えててもらえて嬉しいね。お前たちは相変わらずお熱いことで」


 ウィークが何体の小鬼ゴブリンを従えているのか、俺はレオみたいに瞬時の把握能力を持っているわけではないからわからない。

 けど、幸いと言っていいのかわからないが、ウィークが従えているのは大量の小鬼ゴブリンだけで他の魔物……竜種ドラゴン大蜥蜴リザード小巨人オークなんかの姿はない。


 俺が無理をして死に物狂いで体を動かせばワンチャン……無いか。


「お前こんなとこに何しに来たん……ら……よ」


 今はとりあえず時間稼ぎをするべきだと思いウィークに声をかけるのだが、いかんせん頭が回らない。

 呂律も回らずに、自分が何を話しているのかもわからない。


「俺たちはこの変な塔の調査に来たんだよ。俺たち魔王軍が関わってないってのに、勝手に出現して魔物を吐き出してるなんて言うからな」


 魔王軍が……関わっていない?

 勝手に魔物を吐き出してる?

 どういう……事だ……。

 バベルは……一体誰が……。


「だからお前たちと戦いに来たわけじゃあ無いんだけど……そうだな。うちのボスがお前を欲しがっているから、お前を貰っていくのはアリかもしれないな……ニシゾノケイタ。大魔法使いの遺物」


 ニッと笑うウィークの雰囲気がガラリと変わったのがわかった。

 うまく言えないが、殺気というやつだろう。

 現に、ウィークの背後にいる小鬼ゴブリンたちが長剣やら弓やらを構え始めている。

 いつでもウィークの指示通りに動き出せるようにという事だろう。


「お前……くそ……」


 さすがにこのまま寝ているのは危険だと思い、体を動かそうと力を入れるが……


(クソッ……さっきよりも……体が…………重い……)


 びっくりするほど、体の重さが増している。


「ハハハハハハハ! お前、女の前で格好もつけられないとかダセ……え……な?」


 高笑いをするウィークは不思議そうに首を傾げた。

 

「お前。まさか俺と戦おうってのか?」


 冷めた表情で問うウィークに、俺を守るように立ちはだかるポーラは「はい」と震える声で返した。


「あーあ。俺、お前みたいな弱い女と戦う趣味は無いんだけど」


 ポーラの戦いを見た事が無いはずのウィークは、ポーラが弱いのだとあっさり見破ってしまう。

 まぁ、声が震えるほどビビってるんだから弱いって事はバレバレなんだろうけど。

 けど、そんな弱いポーラが俺を守るように、俺とウィークの間に立って両手に短剣を握って構えているのが信じられない。


「おま……なに……て」


 もう呂律が回らないどころじゃなく、視界まで歪む。

 まともに喋れやしない俺を見る事はなく、ウィークを睨みつけたまま、瞳に涙を浮かべて震える声でポーラは言う。


「ごめんなさい」


「な……が……」


「さっきケイタさんに渡したの、ビタミン剤なんかじゃなくて眠くなる薬なんです」


 ポーラの言葉を、よく理解できない。

 どうしてそんな必要があるのか、そう疑問に思ったが、理由を考えられるほど頭が稼働していない。


「だからどうか……そのまま寝てしまってください。大丈夫です。あとは私に任せてください」


 ずっとずっと、ポーラの声は震えたままだ。


「次に目が覚めた時には、すべてが終わっていますから」


 投げかけられたその言葉を最後に、俺の意識は途絶えた。



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