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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 第7章 円柱建造バベル攻略編

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第79話:魔王の名前

 話をしようだなんて言い出したシロに連れられ、俺は宿屋近くのカフェへと足を運んだ。

 短針が2を指し示すという超深夜。

 当然、人がいた形跡どうこうじゃなく、そもそも店が開いていない。

 だから、俺たちは勝手にテラス部分に忍び込み、適当な位置の席に座って薄ぼんやりとした街灯の明かりを頼りに互いの存在を確かめ合いながら話をすることにした。


「紅茶……飲む?」


 落ちつかなくてそわそわしている俺を見て、シロはカバンから水筒を取り出して渡してきた。

 けど、状況が状況だけに数少ない信用できる飲食物を俺が貰う気にはなれなかった。

 だから「いや、いい」とシロの好意を断ったのだが、シロは悲しそうに「おいしぃ……のに」なんて言って、コップになる水筒の蓋に中身の紅茶を半分ぐらいまで注いでちょびちょびと飲み始めた。


「で、話って何の話をするんだよ」


 このままシロのペースに合わせていたら一向に話が進まず、どうしてここにいるのかわからない状態のまま時間が進んでしまうと思い、俺は自分から切り出してみることにした。


「バベルについての話をするのか? それとも、魔王の倒し方についての話でもするのか?」


 俺の言葉に、シロの眉が僅かに動く。

 瞳に……動揺の揺れはない。

 

「どこまで……知ってる……の?」


 どこまで知ってる?

 何の話だ?

 ……もしかして、再編についての話か?

 

 あの話は多分、俺たち人類のほとんどが知らない話だ。

 そもそもあの話が真実である確証もない。

 けど、もしもあの再編についての話が真実であるのだとして、シロがその話を知っているのだとしても違和感はない。

 何せ、シロは勇者だ。

 その根拠は未だに得られていないが、シロ本人が自分を勇者だと言い、カローンナやガレスもシロを勇者だと言った。

 なら、シロは勇者だと認識するのが正しいだろう。

 そして、その勇者なら俺たち一般市民よりも物事を知る機会が多いはずだ。

 再編プロジェクトとかいうクソみたいな企画の話を知っていてもおかしくはない。


「……再編計画」


「……っ!!」


 シロがポツリと言った言葉に、体がびくりと反応してしまう。

 鳥肌が立ち、額に粘着質の嫌な汗がにじむ。

 

「……勇者ルール」


 勇者ルールだと?

 もしかして、再編プロジェクトに勇者ルールが関わっているのか?

 それとも、俺が気づいた勇者ルールに終わりがないって話のことを言っているのか?


「……犠牲ぎせい……儀式……イケニエ……」


 次々と単語を言ってくるが、それらがどう結びついているのかどうもわからない。

 ただ1つ分かるのは、シロは何かを探っているということだ。

 探るように、確認をするように、1つ1つの言葉を選んで俺に投げかけてきている。


「聖剣……魔道書……魔法……アベハルアキ……安倍晴明あべのせいめい


「お前…………どこでそれを」


 シロの口から出た言葉で、シロが普通は知りえない情報を、絶対に手にいれることができない情報を手にしていることを分からされた。

 安倍というのは、俺の祖父クソジジイである晴明はるあきが西園家に婿養子に来る前の旧姓で、そのことを知るのは俺たち家族と数少ないクソジジイの旧友だけだ。

 そして、安倍晴明あべのせいめい

 それは、かつてクソジジイが詐欺師をしていた時に使っていた名前だ。


 クソジジイは脳神経科医として45まで働いた後、一人の少女との出会いをきっかけに信仰宗教にのめり込んでいった。

 仕事もしなくなり、けれど探究心だけは有り余るといった状況だったクソジジイは、医者時代に独学で身につけた口先の術で人間を誑かし、金を巻き上げた。

 名前の一致を良いことに、キノクニの西暦時代の偉人、安倍晴明の名前を使い、自身はその生まれ変わりなのだと豪語し、一つの宗教を作り上げた……らしい。


 その話を知るのは今となっては俺たち家族だけ。

 他の人間が知っているはずがない。


「お前こそどこまで知ってるんだ! どこで聞いた誰から聞いた!」


 頭の中が真っ白になり、ついシロの肩を掴んでまくし立てるように聞いてしまう。


「……痛っ……」


 歪むシロの顔を見て、正気に戻る。

 そういえばシロは第一世代なのだと。

 天撃の際に被爆地の近くにいたことで、身体の中身がぐちゃぐちゃになっていて、普通に生きるだけでも頭がおかしくなりそうなほどの痛みに襲われ続けているのだと。


「あ……わりぃ」


「……ん」


 それからしばらく、居心地の悪い沈黙が続いた。

 風すら吹かない屋内都市で、宙を舞う真新しい細かなホコリを目で追うシロは、面白くもない光景をつまみにちびちびと紅茶を飲み続ける。

 その一連の様子を俺は頬杖をついて眺め続けているわけだが、


(本当、こうして改めて見ると本当に綺麗だな)


 人形のようなシロの顔立ちに改めて感心する。

 きっと、先天性色素欠乏症アルビノで肌が雪のように白いのも、シロに神秘的な印象を与えてある種の神々しさ、美しさというのを演出しているのだろう。


 そんな美しいシロの瞳は、これまた美しいピンクがかった白金色。

 色素のないシロだからこその、血の色が淡く浮き出た瞳だ。

 揺れる白金色は目の前の俺をふと捉えるが、どうも俺を見ている様子はない。

 俺を見ているわけではないのだと分かってはいるが、それでもシロの視線は俺へと向いている。

 だから、その視線が恥ずかしくて、俺は逃げるように視線を外してしまう。


(気まずい……それに……すごく眠い)


 バベル突入からもうかなり時間が経っているが、その間、俺たちはずっと街の探索を続けていて、いざ休めると思ったところで生屍体アンデッドとの戦闘があった。

 結局、まともに休めやしないままで再び歩き続け、第二階層にたどり着いてまた歩いた。

 休めた時間なんて全部を総合して一時間あれば良いほうだろう。

 だからもうかなり疲れている。

 またすぐに戦闘するなんて言われたら体が動く気がしない。


 疲労を自覚した途端、より一層体が重くなったように感じる。

 眠気もどっと押し寄せてくるし、何より目を開けているのが辛い。


(さっさと話を終わらせて宿で寝るのが得策だな……)  


「俺が……、俺が知っているのは再編が戦争抑止のために人類が計画したプロジェクトの名前であること、そして、魔王と魔物が人間によって作られたということだけだ」


「まおー、とは?」


「そこまでは知らねぇよ。魔王の姿なんて世に出回ってもいないわけだし、魔王がどんな見た目をしているかなんて俺は知らない」


「案外……つま……らない」


 注いだ分の紅茶を全て飲み終え、水筒を仕舞うと、シロは語り出した。

 これまでのような不自然な間のある話し方ではなく、ごく普通の話し方で。

 とはいえ、声のトーンは低くてアクセントも弱々しかったから話を聞いている上での印象はいつもと変わらない。


「魔王は、代替わりをする……の」


「台替り?」


 初めて聞くなめらかなシロのしゃべりに少し動揺するが、その動揺を見せないように言葉を返す。


「……ん。候補勇者が魔王を倒すとわずかな期間の後にすぐに新しい魔王が出てくる。けして、同じ期間に2人の魔王が存在することはない。だから代替わり」


 それは俺が前に抱いていた魔王を倒した人間がいるのにどうしてまだ魔王がいるのだという疑問への答えだった。

 そして、あの本を読んで俺が得た仮定の答え合わせでもあった。


 となると、魔王は常に予備が用意されていて、俺たち候補勇者に倒されると強さの修正をして魔王として配置されるのか?

 もしそうなのだとしたら、魔王を倒した勇者が新しい魔王を倒せないことにも、魔王の代替わりにわずかばかりの期間が空くことにも納得出来る。


「代替わりすると、魔王は強くなるのか?」


 俺の問いに、シロは迷いながらも頷く。


(やっぱりそうだったのか!!)


 なら、俺たちが戦う魔王はシロが倒したという魔王よりも強いということになる。

 俺たち4人だけで倒せるのか?

 ……きっと、シロに手伝ってもらうことになるだろうな。


 シロに聞きたいことは実を言うと山ほどあった。

 というよりは、たった今できた。


(けど、何よりもずっと聞きたかったことをまずは聞くことにするか)


「なぁ。シロは本当に魔王を倒したのか?」


「うん」


「どうやって?」


「これで」


 シロは腰に据えてあった短剣を鞘に収まった状態のままテーブルへと置いた。

 柄の部分に牡丹の装飾が付いていて、刃の中央には大きな穴がずらりと並んでいるすぐにでも多れてしまいそうな短剣。

 カレンの刀に形が似ているから、俺は勝手に小刀と呼んでいる。

 シロは、その柄と刃が同じ長さの小刀で先代の魔王を倒したのだという。

 どうも信じられない。


「なぁ、シロが倒した魔王ってどんなのだった?」


「ふつー」


「いや、普通って」


「皆が考えてるようなのじゃない」


 なるほど。

 皆が考える魔王っていうのは、ものすごく体が大きくて、化物みたいな力を持っていて、顔が怖くて人語が通じない。

 まぁ、単純に言うとただ化物っていうイメージだ。あと、強い。

 そういうのじゃないということは何だろう。

 体が小さいとか人語が通じるとかかな?

 人語はまぁ、魔王を作ったのが人間なんだから話せてもおかしくはないな。


「強いのか?」


「私が倒した魔王は魔法を使った」


「魔法?」


 そんなわけがない。 

 だって、魔王は俺たち人間によって作り出された存在なんだろ?

 なら、俺たち人間が魔法を使うことができないのに、魔王が魔法を使うことができるなんてありえない。


「魔術じゃないのか?」


 重ねた俺の問いに、シロは「ちがう」と即答した。


「魔王、私の仲間の首、動かずに折った」


(淡々とした調子で言ってるけど、それってかなりエグい事なんじゃ……)


 シロの話が本当なら、魔王は不動のまま戦える力を持っていることになる。

 確かにそれは魔法を使ったと捉えない限り説明できない出来事だろう。

 

 思考がパンク寸前の俺を他所に、シロは語る。


「魔王は、その特徴に応じて名前が与えられる。その名前を、勇者認定課は魔王名と呼んでる」


「魔王名?」


「初代魔王、魔王名“オーディン”。2代目、“ブレイブジャイアント”。3代目、“サムライ”。4代目、“ミラーズ”。5代目、“フェイカー”。6代目、“ヘプァイストス”」


 年頃の男子が考えたような小っ恥ずかしい名前を、シロは淡々と述べていく。


「10代目、“ペンドラゴン”。11代目、“フラッシュ”。12代目、“ノクターン”」


 ノクターン。その名前は知っている。

 9年前に333革命未遂事件を引き起こした奴だ。


「そして先代。第13代目魔王“ウィッチクラフト”。彼だけは魔王名が2つある。2つ目の魔王名は“エンペラー”」


「どうしてその魔王だけ魔王名が2つもあったんだ?」


「特徴が2つあったから。魔法を使えるからウィッチクラフト。多くの使い魔を使役していたからその頂点という意味で皇帝エンペラー


 なるほど。そういうことなら納得だ。

 特徴で魔王名を定めるというのに、特徴が2つあるのなら魔王名を一つにしておくことはできない。

 俺たち候補勇者がその名前を聞いた時、誤解をしかねないからだ。

 それはそのまま候補勇者たちの命取りとなる。 

 つまり、安全確保のためにもわざわざ魔王名を2つ付けたということだろう。


 けど、俺からしたらそんなことはどうでもよかった。

 正確には“俺たち”からしたらどうでもよかった。

 だって、俺たちの相手は先代までの魔王じゃなく、今の魔王なのだから。

 だから、俺たちが知りたいのは今の魔王についてだ。


「今の魔王は……なんていう魔王名なんだ?」


「シロガネ」


「しろ……がね?」


「そう。 “白”という字に“銀”という字でシロガネ」


 魔王“白銀シロガネ”。

 それが、俺たちの戦う事になる相手の……倒すべき敵の名前だった。


「そういえば私、ちゃんと自己紹介したことなかった」


 そう言うと、倒すべき敵の名を聞いて奮い立つ俺へとシロは手を差し出してきた。


「私、マシロ。八条はちじょう真白ましろ握手よろしく


 今一度手を突き出してくるシロに、俺はわけがわからないまま自己紹介をした。

 すでに一度自己紹介をしているというのに。


「俺は西園啓太だ」


 ほとんど無意識で白の手を握り、握手をしようとしてしまい、止まる。


「そういえば、お前、第一世代……」


 俺の言葉に被せるように、シロは……いや、八条真白は「それちがう」と言ってくる。

 何が違うというのか。


「私、お前じゃない。真白」


「あ、ああ。ごめん。真白」


「……ん」


 シロは満足げに頷くと、てくてくとテーブルを周って俺の横にまで来た。

 そして、行き場を失って垂れている俺の手に強引に握手してきた。

「痛くないのか」と聞くと、「もう慣れた」と返された。


 ブンブンと腕を振り、固く握手をすると、シロはふいを突くように言った。


「よろしく。ケイタ」


 シロに名前を呼ばれたのは何気に初めてのことで、俺は思わずドキッとしてしまう。

 何よりも良くないのはその時のシロの表情だった。


 シロはいつもほとんど無表情で何を考えているのかわからないのだが、この時だけは感情のこもった見た目の年相応の笑顔で俺を見上げてきたのだ。

 ギャップ萌えとかいう奴だろうか。

 変にときめく俺がいた。

 人形のように整っているシロの顔立ちのせいもあって、やけにシロが可愛く見えてしまった。というのは、誰かに話そうものなら弄られそうだから墓場まで吐くことなく持って行こう。


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