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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 第7章 円柱建造バベル攻略編

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第78話:バベル攻略(2)

 何かを知っている様子のシロに問い詰めると、シロは観念したように話した。

 つい数時間前、ガレスに怒られてシロは皆を巻き込まないようにしようとしたそうだ。

 巻き込まないと言っても置き去りにするというわけではなく、皆を休ませて一人で調査を続けようとしたということだ。


 俺たちを教会に送った後、シロはガレスにのみその旨を伝えてバベルの調査を一人で続行した。

 一通り目立つ建物を見てダメだったわけだから、次は目立たない建物を調べることにしようと、中でも商売を行っているであろう場所、武具店やら買取屋、飲食店やら宿屋などを順に見て回ったらしい。

 そして、バベルの入り口側から順に見て回り、教会を通り越したところにある宿屋で、シロは出会った。

 シロがゾンビパニックとか言った不思議な黒い箱に。


 その箱というのは、5センチ四方程度の小さな箱で、宿屋の受付カウンターにちょこんと置かれていたそうだ。

 シロはその箱に興味を持ち、近づいて指でちょんと少しだけ触ってみたらしい。

 そしたら次の瞬間には宿屋のエントランスが巨大な階段だけがある部屋へと変わっていたらしい。

 階段の先にはバベルの入り口と同じ扉があり、その扉がひとりでに開いたと思うと、開いた扉から大量の生屍体アンデッドが雪崩れるように飛び出してきた……と。

 後は俺たちの知るとおり、生屍体アンデッドを引き連れて教会へと逃げてきて、俺たちに擦りつけたというわけだ。


「じゃあその生屍体アンデッドが大量に出てきた扉に続いてた階段っていうのが第二階層への階段だっていうのか?」


「……た……ぶん」


 シロが小さく頷く見て、レオは「よし!」と手のひらに拳を撃った。


「じゃあその階段に向かうか」

 

 俺たちは皆、レオに無言の肯定を返してシロの案内のもと階段があるという宿屋へ向かった。

 途中で俺たちが爆破した教会を通りかかるということもあり、再び生屍体アンデッドたちと交戦することになるかもしれないと覚悟していたのだが、通りかかった教会跡では生屍体アンデッドの大量の破片がわなわなと蠢いているだけで全くと言っていいほど人の形に回復していなかった。

 もしかしたら、いくら強い回復力を持っているとは言っても一定以上細かくしてしまえば回復できないのかもしれない。


 気持ち悪い肉片たちに触れないよう、ささっと教会跡を通り過ぎると、民家に紛れて立つ少し大きめの3階建ての建物の前でシロが立ち止まった。

 見ると扉の上には看板が取り付けられていて、『永遠の時』と書かれている。


「ここか?」


「……ん」


 シロに確認をするなり、レオは宿屋の扉を勢い良く開いた。

 

 扉を開けた先には天井の高い玄関があり、その奥には確かに巨大な階段がある。

 レオが先頭を切って歩き出し、俺たちはただそれについていく。

 ちなみにだが、ガレスもついてきている。

 出ることができない以上、あの場所に残っているより俺たちと一緒に来た方が安全だと判断したのだ。


 ガレスは崩壊した教会とその場所に転がる蠢めく大量の肉片を見て愕然としたが、何があったのかと聞いてくることはしなかった。


 階段を登りきると巨大な両開きの扉があり、その扉はシロの証言通りすでに開け放たれていた。


「確かに入り口の扉に似ているわね」


 ここまで同じものを作れるのねと感嘆の声をこぼすカレンにつられ、つい扉へと視線が向く。

 確かに、第二階層への扉と思われる扉はバベルの入り口の扉に酷似していた。

 まぁ、入り口の扉を覚えていないから本当に似ているかはわからんけど。


 扉をくぐると、その先にはまた街があった。

 しかも、ついさっき俺たちがいた第一階層とほとんど同じ街並みだ。

 舗装された道路に煉瓦造りの家が建ちならぶ街並み。

 そんな街に足を踏み入れてまず目に入ってきたのは、入ってすぐの位置に大きく書かれた『2』という数字。

 書かれたというよりは道路にレンガを埋め込んで色を変えてあるのほうが正しい。

 ここが第二階層という目印か何かだろうか。


「なんか、人の気配がないくせにやけに人間臭いな」


 嫌そうにレオは言う。

 何を言っているのだろうとカレンとポーラが首を傾げているけれど、俺にはレオの言っている言葉の意味が良くわかる。

 第一階層は街灯やら大きな建物やらは明かりが灯っていたが、一般民家に明かりは灯っていなかった。

 そして、どの家も人が住まなくなってかなり時間が経ったという感じで、劣化していた。

 

 けれど第二階層はそうではなく、民家からもまばらに明かりが漏れ出ていて、どの家々もそれなりに古くはあるが崩れ落ちるなどの劣化は見られず、そして何より生活感があった。


 生活感という違和感を感じた決定的な出来事は、第二階層に入ってすぐ、レオが目の前にあった明かりの漏れる民家に近づき、何の断りもなくその扉を蹴破った出来事だ。

 扉が破壊されたというのに家の中から反応はなく、不審に思いながら中に入ってみると、その家の中には誰もいなかった。

 誰もいなかった……のに、リビングのテーブルには食べかけの料理が置かれていて、倒れたカップから飛び出したであろうスープはほんのりとだが湯気がたっていた。


「なに……これ……」


 怯えたように声を震わせるポーラの背を、シロは優しく一度だけ叩く。


「もった……いない……」


 そう言いながらまだ齧られていないパンに手を伸ばすシロを、


「触るな!!」

 

 と、レオは注意した。

 どうして怒られたのかわからないと言った様子で困惑するシロは、なぜか俺の方を見てくる。

 だから何で俺なんだよ。


「他の家も見るぞ」


 焦ったように家から出て行くレオを慌てて追いかけ、その後もいくつかの家に勝手に侵入した。

 どれもどれも、明かりの灯っている家に絞って。


 扉を蹴破るとレオは真っ先にリビングに行き、料理が置かれているかどうかを確認した。

 そして、料理があった場合は熱が残っているかどうかを確認し、確認したものはどれも熱が残っていた。

 ある程度見て回ったが、どの家も人がいた形跡はあるのに人の気配がなかった。


「レオ。どういうことか良い加減教えてくれ」


 そろそろレオがどういうつもりなのか知りたくなり、しびれを切らして聞いたのだが、レオは「まだだ」と言って教えてくれない。

 そして、次は明かりの灯っていない家の扉を蹴破り始めた


 さすがにもうついて行けないぞと俺たちが道端で待っていると、レオは青ざめた顔で家から出てきて、そのまま別の家へと入っていった。

 およそ20分ほどだろうか。

 レオはそれだけの間、ずっと民家に侵入しては顔を青ざめさせてを繰り返していた。

 

 何度もなんども家々の扉を蹴破り、中の様子を確認し、そして何かを確信したらしいレオは青ざめた顔でふらふらと俺たちの元に戻ってくると、いつもの元気をどこに置き忘れてきたのかと言いたくなるほどの小さな声でこう言った。


「俺たちが斬った生屍体アンデッドはここの住人だった人間たちだ」


 何を馬鹿なこと言ってんだと笑ってやりたかったがレオは真剣そのもので、下手に馬鹿にしようものなら俺が斬られてただの死体になって終わりだと思った。

 だから、俺はどう反応するべきかわからず、「本当なのか?」と神妙な声でそれっぽく雰囲気を作って聞き返すしかできなかった。


「確証はないが、どの家にもついさっきまで人がいた形跡があるのに人がいないんだ。そうとしか考えられないだろ」


「けど、もしアレらがこの町の住人だったとして、どうして生死体アンデッドなんかに……」


「……さいしょ……か……ら?」


「それこそありえねぇだろ」


 だって、もしシロの言っていることが本当なのだとしたら、この町で生死体アンデッドが暮らしていたということになる。

 それも人間の真似事をして。

 人間のように家を持ち、商売をして、教会で祈りを捧げていたことになる。

 そんなのありえないだろ。

 だって、生死体アンデッドは俺たち人間の体を使ってはいるが魔物なんだぞ?


 ……魔物。魔物だからなのか?

 ダメだな。あの書庫でみた本の生でどうにも魔物が人間に作られたものだっていう前提がこびりついている。

 そのせいで魔物らしさというか、魔物だからっていう考えができなくなった。

 

「もし、この町で暮らす人たちが最初から生屍体アンデッドで、普通の人間みたいに暮らすよう作られたのだとしたら……」


「お前……なに言って……」


 レオに言われてハッとした。

 つい、思っていたことが声に出てしまっていた。



_________



 シロの提案で俺たちは近くの宿屋へと侵入し、勝手に体を休めることにした。

 かつてあのはぐれでニコラウスがそうしたように、レオが現金を入れた布袋から人数分の宿泊費を取り出し、受付のカウンターへと置く。


「随分と律儀なんですね」


 感心した様子のガレスに、レオは「ああ」と生返事を返す。

 

「じゃあ、私たちはすぐに休むから」


 気まずそうに言い、カレンはポーラの程を引いて宿の二階へと上がっていった。


「俺ももう寝る」


 女子二人が階段を上っていくのを見送ると、レオは言葉少なに言い残して一階の客室を品定めし始めた。


「僕は皆さんから一番離れた位置の部屋にいた方が良いですね」


 俺たちから信用されていないことを悟っているのか、ガレスは自虐的に言い、迷わずに一階突き当たりの部屋へと入っていく。


 そうして、エントランスには俺とシロだけが残された。

 シロもさっさと適当な部屋を選んで入って行けば良いだろうに、なぜか俺の顔を見上げて突っ立っている。

 その顔はいつもよりも無表情で、シロが何を考えているのかわからない。

 

 俺は皆に感じていた気まずさとは別種の気まずさを感じ、シロが動かないならと自分が動くことにした。


「じ、じゃあ俺ももう休むから」


 だが、逃げようとした俺の袖を掴み、シロは俺を止めた。


「な、何だよ」


「はなし、しよ」


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