第70話:再編プロジェクト
運命の意味を問うと、人によって違った答えが返ってくる。
決められた人生の道筋だと答える人もいれば、人の意思とは無関係に人間へと幸不幸を与える無形の何かだと答える人もいる。
だから当然、俺にも俺なりの運命の解釈がある。
運命とは、決められた結末へと当人を導く無意識にも偶然にも錯覚してしまう明確な無色透明の手引きを指す言葉だ。
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単なる興味で本棚に並べられた本たちを順に見て行き、惹かれる本を無意識に探してしまう。
人間が動物のでてくる夢を見るのなら人造的な人間もまた人造的な動物の出る夢を見るのかと問いかける哲学的な小説や、逆に仕事のできる人は排泄物のサイズが大きいなどというアホくさい啓発書が並ぶ本棚には、その他にも動物図鑑や植物図鑑が並べられていて、どれもこれもなかなかに面白そうだった。
これまでの人生を積み上げてきた故郷の家にも書庫はあったが、収められている本は全て祖父のもので、当然、ジャンルは祖父の好みに偏った本ばかりだった。
より具体的に言うのなら、魔法や魔術について記載された本やC-4などの武器を作る手段が記載された本、それから世界各地の伝承や神話について記載された本ばかりだった。
他にも魔物についてまとめられた本もたくさんあったが、このジャンルの本はまぁどの家庭にもあるはずの物だから、特に話に取り上げる必要はない。
とにかく、見慣れない系統の本が多い中でふと目に入ったものを手にとってページをめくってみる。
手にとった本はかつての偉人が記されたものらしく、見たことのない人々の写真が乱雑に貼られ、どういった人物なのかの簡素な説明が傍に記載されている。
見ると、『世界で一番背の高い人』や『世界で一番爪が長い人』などというくだらない成果で褒め称えられている。
最後のページを確認すると、出版年度は2032年と記載されている。
今現在、本に関わらず年度は必ず『皇帝期○○年』と表される。
その理由は単純で、再編の以前と以後、西暦と皇帝期の分別をつきやすくするためだ……と、思う。正確なことは知らない。
アホみたいな本を本棚に戻し、気になった別の本を手にとってみる。
タイトルは『錬金術』。
パラパラとページをめくり、気分で開いたページを読んでみると『ホムンクルス』という言葉が複数出てきていた。
だけど、俺にはあまりにも難しすぎる話で、読んでみても全くと言っていいほど話が頭に入ってこなかった。
再び本を棚へと戻し、次は裏側へと回って物色する。
そうして、俺は運命という見えない手引きにより出会ってしまう。
とある一冊の本に。
どうしてその本を手にとったのかと言われたら「わからない」としか答えられない。
ただ、なんとなくその本を手に取るべきだと思い、自分の趣味嗜好とは大きくそれた位置にあるそのレシピ本を手にとった。
なんのレシピ本なのかって?
当然、料理のレシピ本だ。
かなり薄めのその本を捲ると、中央辺りのページに黒のペンで擲り書くように『3-3-2-18』と書かれていた。
何かのメモかと一瞬思ったが、こんなにもわかりづらいメモがあるものかと、もしかして暗号ではないのかと考えた。
まさかそんな単純な暗号じゃあないよなと迷いながら、俺は部屋の入り口側から見て3つ目の本棚の3段目の2つ目の枠、その場所の入り口側……右側から18番目の本を棚から抜き取る。
それは、背表紙にも表紙にも何も書かれていないただの日記、正確には記録書だった。
表紙を捲るとそこには人の手で汚らしく『再編プロジェクト(仮称)』と書かれていた。
筆跡はついさっき見た料理本への擲り書きと類似していて、おそらく同一人物が描いたものなのだろうと推測できた。
記された再編という文字に心臓がドクリと脈打つのがわかる。
「再編って……あの再編か?」
俺たちのよく知る、天撃と魔王軍襲撃によって人類が壊滅状態に追い込まれた西暦終結の原因となった事象であるあの再編なのか?
何か、見つけてはいけない物を見つけてしまった気がしてブワッと腕に鳥肌がたった。
ダメだとわかっていて、なのに頁を捲ってしまう。
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『2032年5月7日/現在、先人たちの恐れていた出来事が起きようとしている。各国は互いに牽制し合っていたはずの核兵器の開発を急速に進め出し、合計5つの国々が主立って今すぐにでも第三次世界大戦が始まってしまいそうだ。おそらく、どこかの国が兵器を完成させた途端、すぐにでも泥仕合いのような醜い戦争が始まってしまうはずだ』
『2032年7月15日/観光で中国を訪れていたロシア人が、トラブルに巻き込まれた末に韓国人に射殺されてしまうという救いようのない事件が起きてしまった。政府が頑張って互いに手出ししないよう、互いに手を出させないよう努力しているというのに、その努力も知らずに国民たちは勝手なことをしてくれるものだ』
『2032年7月16日/前日の事件があっという間に世界中に広がってしまい、ロシア側と韓国側でそれぞれの国民が相手国を嫌悪する動きが見られた。中には政府に戦争を始めるよう声を荒げる人々もいるようで、これはもう時間の問題だとしか言えないだろう』
『2034年4月1日/韓国とロシアがそれぞれ戦争の準備を開始した事実を受け、2国を含めた合計5つの国で緊急だがトップの会談が行われる事が決まった。日付は2週間後の4月15日。それまで何事も起きなければいいのだが』
『2034年4月15日/恐れていた最悪の展開になることなく、無事に5カ国首脳会談は開かれた。ここで話し合われたのは戦争を是とするか非とするか。結果、5カ国すべてのトップが戦争を望まないという結論に至った』
『2035年4月15日/前年の結論により、同年から毎年4月15日に集まり国同士の戦争を無くす方法について5カ国で話し合うことが決まった。この会議には、戦争についての専門家や人類史の専門家、心理学の専門家などいわゆる有識者も参加することが決まった』
『2044年4月15日/5カ国のトップを含めた総勢100名にも昇る大人数で執り行われた戦争消滅のための会議だが、今年、1つの恐ろしい案が出されてしまった。提案をしたのは日本で精神科医をしている特殊病の専門家である80代の男性。彼が提案したのは人類の共通敵を作ることで人間の破壊衝動を人類の外側へと向けてはどうなのかという物だった。そして、各国のトップは彼の話を気に入ってしまった』
『2044年5月2日/人類共通の敵を作ることで人間同士の争いを抑止するという提案を発展させるため、各国のトップは男性医師を呼び出し、提案がプランとして形になるまで終わらないという超長期覚悟の終わりの見えない会議を開始した』
『2044年9月13日/人類の共通の敵を作り出し、国同士の戦争を抑止するというプランのおおよその概要が決まった。これは世界のこれまでのあり方を否定するものであり、根底から作り変えるものであることから企画名は“再編”という名称に決まった。世界を再編させるための再編プロジェクトだ』
『2045年1月1日/再編プロジェクトを進めるため、5カ国は管理部を作り、全世界の国々のトップを5つの箇所に集めてそれぞれでプレゼンテーションを行った。結果、同志は5カ国から24カ国に増えた』
『2047年10月6日/再編の実装に向け、ついにプロジェクトが進み出すこととなった。資金は主に中国が提供し、再編に必要となる共通の敵はロシアと米国が協力して開発することも決まった。開発の実験地には米国のエリア51と韓国の沿岸部を使用することとなった』
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手書きで書かれた文字たちが何を言っているのか、全くもってわからない。
ただ、知るべきでない情報を得てしまっている事だけはよくわかった。
それ以降も意味のわからない文章は続き、癖のついているページを最後に残りのページは白紙へと変わった。
文字の書かれた最後のページには、淡白にこう書き記されていた。
『2056年6月14日/とうとう再編の実行日が来た。今日、日本に超巨大非人道爆弾”天撃”が落とされることになる。天撃を発射するのは人工衛星“ラグナロク”。北欧神話における終末の日の名称だ。まさしく、今の世界の最後の日にふさわしいと言えるだろう……』




