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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 第7章 円柱建造バベル攻略編

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第69話:謎の女性

「お前こんな所で何してんだよ」


 確認のために聞くと、女性は少し考える様な仕草を見せた後、すぐにまたニッと笑って見せてきた

 何かを誤魔化している。そんな笑みだ。


「誰だよテメェ」


 金髪のその女性のことを知らないレオは、強めの語調で聞く。

 疑っている、警戒している、そう言った心がわかりやすく染み出している。


 明確な敵意を向けられた女性は「うぇへへぇ〜」と気持ち悪く笑いながら体をくねらせて照れて見せ、俺も初めて聞く自己紹介を始めた。


「私の名前は……うん、そうだね。私の名前はアビゲイル・キャンベル。17年前に候補勇者として米国を旅立った当時は魔法使い役の現機巧技師だよ。いや、違うな」


 納得できないといった風に首をかしげると、自身をアビゲイル・キャンベルだと名乗った金髪の女性は手のひらで自身の胸元を力強くバンと叩き、格好をつけた声色で名乗り直した。


「私はアビゲイル・キャンベル。今この世界において、最も優秀な最高の武器職人ウェポンスミスさ!」


 自身に満ちたアビゲイルの声が教会に反響し、気持ち程度だが壁に取り付けられた蝋燭の火が揺らめく。

 だが、いい反応を期待していたアビゲイルの意思に皆が歯向い、教会内はアビゲイルの声の反響が収まったことで対照的な静寂が充満してしまった。

 そして、アビゲイルがその事実にわかりやすくつまらないといった表情をしたのを確認し、レオが聞いた。


「その優秀な武器職人ウェポンスミスさんとやらがこんな所で何してんだよ」


「それは言えないよ。企業秘密ってやつだからね」


 その返しに、レオがますます警戒する。

 何を警戒しているんだと思ったけれど、そういえばあの時のはぐれで魔王軍幹部のピース・ライアーがニコラウスを魔王軍に勧誘するのをレオは目にしている。

 だから人間が魔王軍にいてもおかしくないとレオを含めた俺たち全員が認識したわけで、その認識の上で今目の前には不自然な場所に不自然な人間がいる。

 疑わないわけがない。


「……こ……れ…………あな……た?」


 地面を指さしながら、シロは無表情のままアビゲイルに問う。

 だが、アビゲイルは「何言ってんのかわからない」と笑い混じりに言い、シロの問いを蹴飛ばした。

 自身の言葉を上手く汲み取ってもらえなかったことでシロが少しだけムッとした表情になる。

 だから……というわけではないが、シロの言いたいことをなんとなく汲み取ることができた俺が代わりにアビゲイルに聞く。


「この建物……バベルはお前が造ったのか?」


「バベル? 何それ」


 ダサい名前だねとアビゲイルは笑う。


「このダンジョンの名前だ。俺たちが今いるこのダンジョンはお前が造ったのか?」


「あぁ。これ、君たちはダンジョンって認識してたのか。ゲームのやりすぎだよまったく」


 あははははと楽しそうに笑ったアビゲイルは、その顔から突然笑みを消し、真剣な様子で俺の質問にしっかりと答えてくれた。


「違うよ。“コレ”は私が造ったわけじゃない。だからこそ私は今こうしてわざわざ調査に足を運んでいるんだよ」


「武装もせずにか?」


 間髪入れず、レオが言った。

 その時に初めて気がついた。

 レオの言った通りアビゲイルがまったく武装をしていないことに。

 強いて言うなら動きやすい運動用の服を着ているという程度で、とても危険度のわからない未知の場所の調査に行くという様相ではなかった。

 まるで、よく見知った近所の散歩に行く様な、そんな装備だ。


「私に武器は必要ないからねぇ。なにせ、私自身が武器だもの」


 うふふと笑いながら、アビゲイルは劇上の役者の様に大げさに手を広げてゆっくりと歩き出す。

 空気中の水分がさらに細かく飛散したような、空気の乾いたピリつきのようなものを感じる。

 ありとあらゆる方向から弱性のプレッシャーをかけられている様で、視線を向けられているよりも幾分か重い不快感がして、ただただ解消しようのない頭痛に襲われた。

 高い場所に行くと耳の奥がぼうっとして顎関節が軋み、耳の裏側の奥の方が鈍く痛い様な感覚に襲われることがよくあるだろう?

 あんな感じだ。


 同様の感覚を皆も感じているのか、レオとカレンとポーラはもちろん、ガレス以外のカローンナの部下も顔をしかめている。

 皆が緊張する中、アビゲイルは俺の正面にまで歩いてくると、またもやニッと笑顔を作って見せてきて、そのまま俺の両頬を左右の手でそれぞれグニっと引っ張ってきた。


「そんなに警戒しなくても大丈夫。お姫様がいる状況で下手なことはしないよ」


 アビゲイルのいうお姫様が誰なのかはすぐに分かった。

 その視線がハッキリとシロに向けられていたからだ。


「そういえば、上に登る方法を探しているんだけど、何か知らない?」


 知らねぇよと答えたかったが、両頬をつねられていて上手く口が動かない。

 結果、「ふごふご」という情けない声が出る。

 アホみたいにふごふご言う俺を見かねて、「私たちも知らないの」とカレンが言ってくれる。


 欲しい情報が手に入らないのだとわかった途端、アビゲイルは俺の頬をパッと離し、「あーあ」と言ってため息をついた。


「じゃあ自分で地道に探すしかないのかぁ」


「んなもん当たり前だろ。何甘えてんだよ殺すぞ」


 やけにアビゲイルを嫌うレオがかなりきつく言い捨てる。

 言われたアビゲイルはというと、「おー怖い怖い。ガラード家は血気盛んだねぇ」なんて言ってレオの言葉を軽く流す。


「まあいいや。私はもう行くよ」


 俺の背を軽く叩き、アビゲイルはそのまま教会から出て行った。


「じゃあねぇ〜。カレンちゃんもありがとう」


 教会から出て行く際、そんなことを言いながらアビゲイルは俺たちに向けて大きく手を振った。

 それにつられ、ポーラは半ば無意識でなぜか手を振り返していた。


「え、なんで手を振り返してんの?」


「え〜っと……なんとなく?」


 アビゲイルが出て行ったばかりの教会の入り口を眺めながら、ポーラとなんてことない会話をしていると、レオが深く息を吐きながら頭を抱えた。


「アイツ、確実に黒だぞ」


「そうね。むしろ黒なのに私達に手を出さなかったのが意外だわ」


 レオと同じ様にカレンも深く息を吐き、感情の整理をするためなのか刀を数センチだけ抜いてすぐに収め直す。

 カチンという刀が鞘に納まる音が鳴り、カレンは今一度だけ深く息を吐いた。


 2人の様子がおかしい事に気がつき、「あの……どうかしたんですか?」とポーラが控えめに聞く。


「彼女、名乗ってもいない私とレオの名前を確かに口にしていたのよ」


「「「「…………っ!!!」」」」


 俺とポーラだけじゃなく、小太りの男とメガネの男も息を飲んだ。

 確かに、言われてみれば彼女はレオの家名とカレンの名前を口にしていた。

 名乗ってもいないし、俺たちも2人の名前はくちに出していない。

 なのにどうして……


「とにかく、今は体を休めた方がいい」


 黙り込んだ皆を見かね、ガレスが呆れた様に言った。


「勇者様もあの女の事は気にしていないようです。それだけ警戒の必要性が薄い愛艇ということでしょう。だから、今はこの教会の設備を使って安心して体を休めた方がいい。その方が明日に響かずに済む」


 ガレスの言う通りだなと、俺たちはそれぞれがそれぞれ思う様に体を休めることにした。

 気づけば、教会の中からシロの姿はなくなっていた。


 小太りの男とメガネの男が無数に並べられた長椅子に寝転がって仮眠を取り始め、ガレスが教会の入り口で外敵の襲撃を警戒する中、俺たちはレオの提案で教会の探検をすることにした。

 まぁ、探検と言っても教会の奥に続く扉を見つけて、外から見た構造上どこかに寝泊まりするための部屋があるのだとわかりきっていたから、その部屋を探すだけだ。

 俺たちは正直言ってカローンナの部下達を信用していない。

 だから、貞操やプライバシーの保護のために距離を置いて休憩を取りたかった。

 

 翼廊の扉を開くと、そこにはずっと向こうまで続く長い廊下があった。

 光源となる蝋燭がかなり開けた感覚でしか壁に取り付けられていない、少し不気味な廊下だ。


 水道管が劣化しているのか、天井から水滴が垂れている箇所が何箇所かあり、垂れ落ちてくる汚らしい水を避けながら視界の悪い廊下を進んでいくと、その突き当たりに少し大きめの木製の引き戸があった。

 その引き戸はしばらく使われていなかったかの様に固まっていて、レオの力でようやく開けられるほど硬くなっていた。


 引き戸の先には過剰な広さのリビングがあり、何十人と席についても十分に広い様な大きなテーブルとそれを取り囲む無数の椅子があった。

 見ると、入って来た側の壁以外の三方の壁には扉がずらりと並んでいて、それらが寝泊まりするための個人スペースみたいなものなのだろうなと分かった。


「じゃあとりあえず適当に部屋選んで使うか」


「そうね」


「はい」


 レオの言葉を皮切りに、カレンとポーラも適当に部屋を選んで中に入っていく。 

 俺も疲れたからさっさと休もうと思い、ふと目に入った手近な位置の扉を開く。

 そして、言葉を失った。


 中に人が入ったことで何かが反応し、壁に取り付けられていた蝋燭がひとりでに火を灯したと思うと、数秒前までは真っ暗だった部屋の全貌が見えた。


 在ったのは本。本。本。

 たくさんの本棚にサイズを問わず押し込められた数え切れないほどの本。

 ジャンルも固定ではなく、物語を書き記した小説や伝記などがあれば、何かの研究について書かれた様な記録書もある。

 生活の知恵を書き記したものもあれば、通常生きているだけでは絶対に使わないであろう“魔術”について研究言及したものもある。


 そう。俺が選んで開けた扉は寝泊まりするための部屋の物じゃなく、いわゆる書庫。

 図書館の様な部屋の扉だった。


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