第66話:円柱建造バベル
楔国に滞在を開始してから10日ほどが経ち、とうとう依頼をこなす時がやってきた。
つまり、楔国付近に突如出現したという不明建造物の攻略……いや、調査か。
調査を実行する日がやってきた。
時刻は午前4時。
まだ日も昇り始めていない時間帯に、俺たち4人と名前も知らないカローンナの部下3人、シロは武装した状態でカローンナの屋敷にある彼女の執務室へと集められた。
最初に通された応接間とは別の、合計9人で入るにはかなり手狭な執務室だ。
シロは初めて会った時と同じ装備で、カローンナの部下たちは3人とも甲冑に長剣の 装備をしている。
ちなみに、俺はもう杖なんて持たずにあの時にゴブリンから拝借した長剣と支給品の短剣のみを武器として装備している。防具は初期のままだ。
「さて、それじゃあ改めて今回のダンジョン調査の説明をさせてもらう」
そう言いながら、椅子に腰掛けるカローンナは作業デスクの引き出しから幾つかの写真を取り出し、デスク上へと放り投げた。
「それはつい先日、私とシロが調査に向かった米国基幹都市ラスベガス北東部に出現したというダンジョンの写真だ。直径20メートルほどの穴が空いていて、深さはほんの2メートルほどだった」
見ると、確かに幅の広い大きな穴が写された写真があった。そして、指摘の通りその穴の深さはわずかなもので、とてもダンジョンと呼べるようなものには見えない。
不思議な点といえば、周辺は背丈の低い草類が自生しているにもかかわらず、その穴の場所にだけは何も生えていないと言う点だ。
まぁ、だからこそその場所をくぼみではなく穴だと表現したのだろうが。
「一見、何かの事情があってくぼみが出来た場所にしか観えないわけだが、その浅い大穴の底は異常なほどに綺麗に平らだった。だから怪しいと思い、私は大穴の底を消した。するとどうだ、大穴の底に見えた部分は底じゃなく、地下に広がる巨大空間の天井だったじゃないか」
驚いたよと語るカローンナに、レオが舌打ちをしながら「もっと簡潔にまとめろ」と言う。
「私たちが調査したのは地下に広がる空間だ。実際に降りてみると、その場所には巨大な都市が広がっていた。地下都市と言うやつだった。人の気配はなく、魔物の気配もない。そんな空間をしばらく探索したのち、私とシロは諦めて退散した」
「どうして諦めたんだよ」
ダッセェなと吐き捨てるレオをカローンナは鼻で笑って流す。
「私たちが調査をしたその地下空間……地下都市は、あまりにも広すぎたんだ。どこまで行こうと終わりが見えず、どこまでいってもただの街が広がるだけ。だから、また機会を見つけて準備を整えて行こうと言う話になった」
カローンナの話を聞きながら、デスクの上に出された写真の数々を見る。
地下に広がる巨大空間。
天井部には小さな光源が無数にあり、さながら星空のようだ。
都市と呼ばれるだけあって無数の家々があり、それらはどれも泥砂凝固硬化物で作られていて、今の時代の技術には見えない。
おそらく、西暦の時代の技術だ。
街には家いえだけでなく、広場のような場所や教会も見られた。
「そして、こっちが10日ほど前にこの国の近くに突如出現したという不明建造物だ」
再び引き出しから写真を数枚取り出し、地下都市の写真にかぶせるように放り投げる。
見ると、巨大な円柱のようなものが写されていた。
その円柱の手前には一人の男性が直立している。ただ、かなり引きで撮ったのか、男性は豆粒のようにしか写っていない。
対照的に、円柱のようなものはいっぱいに写されていて、それだけでその円柱の何かが異常なほどの大きさであることがわかる。
「地下都市と不明建造物。どちらも突然出現した出現原因不明の建造物。もしくは建造物群だ。それらを勇者ルールを管理する勇者認定課に確認したところ、何も知らないとぬかしやがった。よって、それら二つを私は暫定的にだがダンジョンと呼ぶことにした」
実は、地下都市の周辺は魔物の生息率が異常に高く、円柱の建造物の方は建造物から魔物が何体も出てくるのが確認されたんだ。
そう付け足されたカローンナの言葉で、地下都市と不明建造物がダンジョンと呼ばれるに相応しいものであることが証明されてしまった。
「そして、二つのダンジョンは仮にだが名称付けさせてもらった。地下都市の方はアガルタだ。昔話の地底都市から取った。そして、円柱状の不明建造物はバベル。こちらも西暦のおとぎ話から取らせてもらった」
地底都市アガルタ。
円柱建造バベル。
うん。なんか、ますます西暦時代の勇者譚みたいになってきたな。
かなり怖いけれど、それと同程度には楽しみだ
「お前たちには今からバベルの調査に出向いてもらう。必要な調査内容は内部環境と生息生物についてだ。今わかっているのはその建造物には幾つか階層があることと、その階層は建造物の規模からみて100階まであると推測されること。そして、内部にはゴブリンをはじめとした魔物が生息していると言うことだ。環境としてはとても危険な環境だと言えるだろう。だから、身の危険があった場合はすぐに逃げてくれ。そして、シロは私に連絡しろ。すぐに助けに行く」
「……ん」
小さく頷き、シロは返事をする。
わずかだが手が震えているのが見えた。
……怖いのか?
現役勇者なのに。
いや、多分だけど、第一世代の症状で常に体に激痛が走っているからその痛みのせいで手が痙攣しているんだろう。
勇者になるような強い人間がダンジョンの調査でビビるはずないもんな。
「それじゃあ頼んだぞ。行ってくれ」
「ああ」
「ええ」
「は、はい」
「わかった」
「「「はい!!」」」
思い調子のカローンナの言葉にシロを除いた俺たち全員が思い思いのままに返事をした。
こうして、俺たちのダンジョン“攻略”は始まってしまった。
最悪に次ぐ最悪で多くを失った、これから先も忘れられるハズがないような悪夢のような時間が始まってしまった。




