第64話:クエスト(前編)
暖かな日差しの下、ぼうっと空を眺めていたら、知らないうちに寝てしまっていた。
しかも、俺が寝た後にポーラはわざわざ開けた距離を詰めてきていたみたいで、俺とポーラは公演のベンチで仲良く違いにもたれ合いながら寝ていた。
いや、マジで端から見たらカップルじゃねぇかよ。
そんな誤解されるような状態だったわけだが、ついさっき日が落ちた6時ごろに俺は目を覚まし、ポーラの髪の柔らかさだとか金木犀の香りだとかにドギマギしながらも、彼女を揺すり起こした。
起こされたポーラはテンパったように「え? あ、え? あ! すいません!」なんて言って謝ってきたが、別に怒るようなことでもないし、俺も謝られたいわけじゃないから「気にするな」と、正座で何度も頭を上げ下げするポーラの頭の動きを手で物理的に止めた。
「とりあえず、あまり遅くなるとレオが目を覚ましていた時に心配をかけるだろうからもう帰るか」
「その……用事はよかったんですか?」
「用事?」
「あれ、何か用事があったから街に出たんじゃないんですか?」
用事と言われても、一番の目的である素材の売却は終わっているわけだから他に特に思い当たるものはなかった。
まぁ、強いて言えば武器を少しだけ探したかったけど、まぁそれは無理だろう。
「もう時間が時間だから飲食店ぐらいしか店はやってないだろ? だから別にもういい」
「あぅ……そうですよね」
ポーラは何か名残惜しそうだったが、また来ればいいだろうと説得して俺たちはカローンナの屋敷へと戻っていった。
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途中で道に迷い、自分たちがどこに居るのかわからなくなりながらも何とか屋敷まで戻ると、どこかに出かけていたらしいカローンナが帰宅するのにちょうど遭遇してしまい、カローンナに「なんだ。朝まで帰らないと思ってたぞ」と嫌味を言われてしまった。
当然、面倒だから「はいはい」と適当に流した。
そしたらまた脳天をど突かれた。めっちゃ痛かった。
ズキズキと痛む頭をさすりながら階段を登り、ポーラと手を振り合って自分に割り振られた部屋の扉を開けると、
「よう。遅いお帰りじゃねぇかよ」
俺にあたえられた部屋に、レオがいた。
どうやら俺とポーラが街の散策をしている間に目覚めたようだ。
レオは少しだけ不貞腐れたような表情でベッドに腰掛けており、傍にはレオが最初から持っていた両刃の長剣、義剣が立てかけられていた。
「公園でちょっと寝てたんだよ」
「んだそれ」
「まんまの意味だって」
素材の売却金が入った布袋をレオに渡し、背もたれのある椅子にドカッと腰を下ろす。
さすが一国の主人の屋敷と言うべきだろうか。椅子は木製だったが、背もたれに背を預けると驚くほどしなって硬さを感じなかった。
つまり、座り心地がものすごくよかった。
「全部でいくらで売れた?」
「1300ドルだ」
「そんなに高く売れたのか」
「店主がいい奴だったんだ。次回からは適正価格で買い取るってさ。価格で言えば今回の1割前後になるっぽいぞ」
「まぁそんなもんか」
レオは素材の売却金への興味はもう無いとでも言うように布袋を傍に置き、「それよりもさ」と、俺の部屋に来た目的を果たそうと口を開いた。
「お前はどう思う?」
「どうって、何が?」
「あれだよ。あのカローンナの言っていたやつ」
多分、レオはカローンナが言っていたすぐに旅立つのか残って鍛えてもらうのかどちらがいいかを選べというあの話のことを言っているのだろう。
目が覚めてすぐにカレンから聞いたのか?
まぁ、どう言った経緯でレオがあのカローンナの話を聞いたかは別に気にする必要無い。
レオが自分が気絶している間の話を誰から聞いたかと俺の意見っていうのは関連しないわけだしな。
誰からレオが話を聞いたところで、俺の中でカローンナの話への返答は決まっている。
けど、生憎と俺は俺たちの勇者じゃあない。
だからとりあえずは勇者の意見を先に訊き出すべきだろう。
脇役の役割はそのあとの助言だ。
断じて自己を押し通して主張することでは無い。
「……お前はどう思うんだよレオ」
「そりゃああの女は胡散臭いからな。俺は信用していないし、すぐにでも魔王討伐のためにキノクニを目指して出発したいと考えてる」
「ならそれでいいじゃねぇかよ」
「いや、そうなんだけどな。さっきカレンにも同じように話して、怒られたんだよ」
そう言いながら、レオは手のひらを俺に見せてきた。
確かに、レオの手のひらにはくっきりと歯型がついている。
どんな怒られ方したんだよお前。
「なるほどね。カレンは残ってカローンナに鍛えてもらう派なのか。だから俺にも意見を仰いだってことな」
「そういうことだ。で、お前はどうするべきだと思う?」
聞いてくるあたり、レオは俺がカローンナに対して「お前は魔王軍なのか」と聞いたあたりの話は聞かされていないのだろう。
本当はレオにカローンナが疑わしい根拠みたいなものを話しておくべきなんだろうけど、今は少し厄介なことになりそうだからな。
そのあたりの話は伏せておくか。
「……俺は……すぐに旅立つのはどうかと思うが、カローンナに鍛えられるっていうのも違うと思っている」
「優柔不断だな。ハッキリさせろよ」
強い口調で言うレオは少しだけだが貧乏ゆすりを始めた。
なんでイライラしてるのかは……まぁ、コイツは単純だからわかるんだけどな。
こいつは良くも悪くも善悪をハッキリさせたいタイプなんだ。
と言うか、物事を濁すのがすごく嫌いなんだ。
だから今みたいに俺が濁したように感じられなくも無い回答をするとお前は自分の仲間のか敵なのかとイライラする。
全く。面倒臭い奴だよ。
「別にハッキリさせる必要は無いだろ。俺の考えはカローンナに従わない方がより安全っていう考えだ。だけど、すぐに旅立っても俺たちは死ぬだけだ。現に、お前はカローンナに負けたじゃねぇかよ。聞くところによると魔王っていうのはお前を秒でボコしたカローンナよりもはるかに強いらしいぞ」
「それは……気にする必要は無い。俺は負けないからな」
何言ってんだか。お前、つい数時間前にカローンナに負けたばかりだろ。
「そういうのはカローンナに勝ってから言えよ」
「お前が言えたことじゃあ無いけどな」
確かに!
うん。確かに!
俺が言えることじゃねぇや。
ごめんな!
「けどまぁ、お前の言う通りだ。俺はアイツに負けたわけだしな。だから俺が負けないだとか魔王を倒すだとか言っても信用できないのかもしれない」
……いや、誰もそこまで言ってないんだけど?
なんでそんなにネガティブになってんの?
怖いんだけど?
お前、そんなキャラじゃねぇだろ。
「でもな。俺を信じて欲しいんだ。今はまだ言えないけど、俺には秘策がある。絶対に負けない秘策が」
絶対に負けない秘策……。絶対に負けない秘策ね。
勝てる秘策じゃなくて、負けない秘策か。
単にレオが言葉選びを間違えただけのように感じるけれど、もしもそれが気のせいでレオが確かに選んだ言葉が「負けない秘策」というものだとしたら……。
……俺には思い当たるものがある。
あの故郷での戦いの時のことだ。
ウィークの指示で急速に動きを変えた邪竜事象に踏み潰され、肉塊となったレオは、戦闘の後に蘇生した。
飛び散った肉片や血液が肉塊の元へと勝手に集まっていき、ぐちゃぐちゃで形もなかった状態から人の形になり、最終的にはレオになった。
最後まで見ていないから正確にはよくわからないのだが、あの時、確かにレオは死んだはずなのに蘇生した。
レオはあれの事を言っているんじゃ無いだろうか。
死んでも蘇生する方法。もしくは死なない方法を持っていて、レオはそれを指して負けない秘策だと言っているんじゃ無いだろうか。
もしそうなら、かなり破綻した考え方だ。
勝つことはもしもの可能性にかけていて、負けなければ勝つまで戦い続けられる。
そんな泥臭い戦闘をするつもりなんじゃ無いだろうか。
「お前もしかして……」
どうやったかわからない蘇生を使って強引に魔王と戦おうとしているんじゃないか?
そう聞こうとした時−
−コンコンコン−
−と、扉が控えめにノックされた。
「入れよ」
レオが間髪入れずに言う。俺の部屋なのに。
すると、扉がゆっくりと開かれ、その先にポーラが立っていた。
カレンとカローンナを連れて。
「何の用だ?」
カローンナの顔を見た瞬間、レオはそっぽを向いた。
だから俺が場を引き継ぐことにして、聞いた。
「二人だけじゃなくてアンタもいるっていうことは、あの話についてなのか、カローンナ」
どうなんだ? と、視線を向けると、カローンナはポカンとした表情になり、
「あ、違う違う」
手の平を振り回して否定するジェスチャーをした。
いや、違うんかい!
また勝手に格好つけて勝手に恥かいてんじゃん俺!
「じゃ、じゃあ何の用なんだよ」
動揺を隠しながら聞くと、カローンナは一枚の紙を突き出してきた。
それを受け取ってみてみると、最上段には大きめの文字で『 作業依頼書 』と書かれていた。
カローンナは俺がその文字を見て目を見開くのを目ざとく観察し、ニヤリと笑ってドヤ顔で言った。
「お前たちに依頼を頼もうかと思っている」
渡された書類の文字を順に見ていくと、作業内容の部分には楔国付近に発生した不明建造物の調査および建造物内の生態調査と書かれていて、さらには報酬の欄に15000ドルと書かれていた。
「……は? なんだよコレ」
「だーかーら! 言ったろ? クエストだよクエスト。お前たちにはついさっきこの街の近くに存在が確認されたダンジョンの調査をしてもらいたい」




