第61話:新しい生活
レオとカローンナの戦いが終わり、カローンナから迫られた選択を俺たちは保留にした。
保留の理由はカローンナが信用できないが言っていることは間違ってないと思ったこと、それから俺たちの勇者であるレオが気絶していることだ。
リーダーの意思を確認せずして勝手な判断をしていいとは思えないし、なんなら信用できないやつから迫られた選択の責任を負いたく無い。
だから擦りつける形ではあるのだが、俺たちはレオが目を覚ましてから選択の判断を下すこととした。
「だとしたら、私はお前たちを候補勇者としてではなく客人として扱うことにする」
カローンナに突きつけられた選択に対しての俺たちの回答を聞き、カローンナはタバコを吹かしながら言った。
それにしても候補勇者としてじゃなく客人か。
俺としては明らかにそっちの方がいいように感じる。
勝手な印象だが、客人としての扱いの方がより丁寧に扱われるような気がする。
他人と友人の扱いの差ぐらいはありそうだ。
「何が違うんだ」
「私からお前たちに与える権限が違う」
なるほど。そういうことか。
候補勇者ならそれなりに好き勝手に動けるが、客人としての扱いってことは危険な目には合わせられないから行動を安全圏に制限する。そんなとこだろう。
…………え?
やっぱりそっちの方がよくね?
「えっと……俺たちとしてもその扱いの方が助かる」
俺の意見に賛同するように、ポーラとカレンは大きく頷く。
レオは相変わらず意識を失ったままだ。
「…………わかった。なら私はそういう扱いをするように心がけるだけだ」
限界まで吸いきったタバコを灰皿に押し付けて火を消すと、カローンナは身重に立ち上がった。
「今からお前たちに1人1室の客室を与える。禁止事項としては地下の階層には絶対に足を踏み入れない事。街の外には許可なく出ない事。それから、ニコラには接触しない事だ。いいな?」
地下に行くなっていうのは他人の家の話だからまぁ分かる。
ニコラウスに接触するなってのもまだ分かる。
あいつははぐれで3人の仲間を失っている訳だしな。心的にかなり参っているんだろう。
思えばあのはぐれを出てからずっと上の空だった。
そんな状態のニコラウスと接触するなんて、こっちとしても気が滅入る。
問題は街の外に許可なく出るなってとこだ。
許可があるなら街から出てもいいという話になる。
なら、その許可が出るのはどんな場合だ?
「街の外に出る許可ってのはどんな時に出されるんだ?」
「そうだな。止むを得ない事情がある時とだけ言っておこう」
えーっと……その止むを得ない事情っていうのに何が該当するかって聞いてるつもりだったんだけど……。
うん。まぁいいか。
高そうな壺だとか鎧だとか絵画だとかが飾られた赤絨毯の廊下を歩いて屋敷の2階に上がると、カローンナは一番手前にあった部屋の扉を指差して言った。
「手前からケイタ、レオ、カレン、ポーラの順で使え」
え、雑すぎない?
数え切れないレベルで部屋があるんだからもっとちゃんと配置してくれよ。
せめて男子と女子で両端に分けるとかさ。
わざわざ詰めて使わせる必要無いだろ。
そんな俺の心を読んでか、カローンナは忠告をしてきた。
「ああそうだ。エロいことは自制しろよ?」
何を言ってんのこのアホ。
「なに言ってんのこのアホ」
つい思ったことが口に出てしまった。
「誰がアホだ」
そしてど突かれた。
グーで力強く脳天をど突かれた。
めっちゃ痛かった。
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「じゃあ、あとは私が看ておくから」
目を覚ます様子が無いレオを割り振られた部屋に運び込んでベッドに寝かせると、カレンはそう言って俺たちをレオの部屋から追い出した。
追い出したっていうと人聞きが悪いかもしれないが、カレンは哀愁を漂わせており、明言はしていないが出て行って欲しいと願っているようだった。
だから、俺とポーラはカレンの望み通りレオの部屋から出て行くことにした。
「えっと……その、ケイタさん。この後はどうするつもりですか?」
「どうって?」
「いえ、少なくとも数日はこの街に滞在することになりそうですし、これからどうするのかなと」
どうと言われても困るな。
正直、この街には初めて来た訳だから勝手がわからない。
何かをしようにも、何ができるのかがわからないから何もできない。
「そうだな。まずは荷物を部屋に置いて街を散策しようかと思ってる。ここに来るまでに集めた素材も売りたいしな」
「あ、あの! 私も……一緒に行っていいですか?」
ずいっと背伸びして顔を寄せながら聞いてくるポーラ。
バカ! 近い近い近い! 顔が近い!
髪が揺れたことでポーラの金木犀の香りが鼻に触れる。
「ダメ……ですか?」
不安そうに首をかしげるポーラを可愛いと思ってしまい、ドキッとしている自分がいる。
たったそれだけの事で言葉にできない気まずさを感じ、俺はポーラから目を逸らしてしまう。
「す、好きにしろよ」
「はい! 好きにしますね!」
ウキウキとした様子で自身に割り当てられた部屋へと入っていくポーラの姿を見て、俺は彼女が分からなくなる。
故郷を旅立ってからかなりの時間を共有し、それなりに互いの性格や考えはわかってきたつもりだ。
レオなら感情的に動くことが多々あるが何よりも仲間を大切にする。仲間に危害を加える相手は敵と認識し、それなりの態度をとる。
カレンなら基本的な思考軸や価値観の最重要点がレオと同じく仲間であり、レオとは異なって理性的に思考する。感情のレオ、思考のカレンって感じだ。
ちなみに2人はものすごく負けず嫌いで、その点に関してはカレンも感情的になる。
前にちょっとした勝負をしたことがあり、2人が負けず嫌いであることはその時に証明された。
レオとカレンに関しては分かりやすいっていうのがあるだろう。
だからこそ俺は2人を理解することができた。それこそ、戦い方の癖もだ。
けど、ポーラに関しては全くもってわからない。
今のところは戦えなくて弱虫で、必要以上に怯えている。その程度の認識だ。
もういっその事、笑えてきてしまうほどに彼女の思考手順がわからない。
どういった価値観を持っていて、どのように思考を重ねて物事を判断するのか全くもってわからない。
良く言えば受動的であり、悪く言えば底が見えない。
まるで何かを隠すために外に出す情報を制限しているようだな。
…………。
「そんなこと、あるはず無いか」
あの鈍くさいポーラが俺たち全員に悟られないよう何かを隠しているなど、考えられなかった。
だから俺は胸中に湧き出た疑惑をさっと払いのけ、荷物を置くために自身に割り振られた部屋の扉を開けた。




