幕間の物語:今昔の勇者
「あ〜。またやっちまったのか私は……」
第35期の米国代表候補勇者たち4人をそれぞれ個別の客室に案内したあと、屋敷内の執務室に戻ったカローンナは椅子に腰掛け深いため息をこぼした。
そんなカローンナを見て、ソファに座って本を読んでいた少女が首をかしげる。
「…………どうした……の?」
顔に感情を示さずにほとんど抑揚のない声音で溶いてくる少女は見た目こそ14歳15歳ほどだが、実際のところは33歳のカローンナよりも年上だ。
カローンナは、再編の時から生きている見た目詐欺の少女へ弱音を吐く。
「いやな、素直な親切心で鍛えてやると言ったのに、それがどうもあいつらには伝わらなかったみたいなんだ。どうしてだろうな。私の言い方が悪いのか?」
「…………あい……つ……ら?」
「ああ。あの米国代表の子達だ」
「…………」
無表情な現役勇者の少女シロはどこか人間離れした印象を受ける。
それはきっと、シロの容姿が理由だ。
シロは再編を生き残って力を得た第一世代ということもあり、先天的な色素欠乏症だ。
いわゆるアルビノというやつである。
150センチあるかないかの背丈のシロは肌が真っ白だ。
よく、家にこもりがちな人間の肌が白いとかいうが、そんなのは比じゃない。
本当に真っ白で、雪を彷彿とさせる。
当然、髪も真っ白だ。
正確には真っ白ではなくわずかに黄色がかかった半透明な色合いなのだが、まぁ見た目はほとんどシロなのだから表現としては問題ない。
目にも色素はないわけで、ピンクがかった白金色をしている。
顔立ちも整っていることからパッと見は人形にしか見えず、だからこそ人間離れした印象を受ける。
きっと、その手の人間が彼女を見ようものなら興奮して襲いかかってしまうことだろう。と、タバコに火をつけながらカローンナは思う。
「私がこの国を完全中立国家として造ろうと考えてから実に7年と半年。実際に造り上げてからは6年が経つわけだが、世界はまだまだ変わりそうにないな」
「…………簡単……なら…………苦労……しない……」
だけど、少なからず変わったものはある。
そんなシロの言葉にカローンナは救われる。
自身が勇者をやっていた半年と、勇者を引退してからの7年半。
それが無駄ではなかったのだと自己暗示することができ、心が軽くなる。
これまで、カローンナは少しでも旅立つ候補勇者たちの生存率をあげようと努力をしてきた。
楔国を作り、勇者認定課のお偉いさんを説得して全ての候補勇者が統一して楔国から旅立つように勇者ルールを改変し、旅立たせる前にそれなりのレベルになるまで元勇者のカローンナが経験と知識をもって候補勇者を鍛える。
その結果、カローンナが楔国を造る以前よりも候補勇者たちの死亡率は格段に下がった。
とはいえ、生存率よりも死亡率の方がまだまだ高いのは変わらない。
だからこそカローンナは自身の過去に自信を持てない。
歴代最弱と言われてしまった自分自身を信じることができない。
「まぁ、自分で自分を信じられていないのに他人に信じれなんていうのはおかしいよな」
自嘲気味に言うと、シロからの反応は返ってこなかった。
見ると、シロはいつの間にか本を読むことに集中している。
本の表紙に書かれたタイトルは『聖剣伝説』。
かつてカローンナも読んだことがある本だ。
けど、内容はもう覚えていない。
アーサーがどうのウーサーがどうのみたいな話だったと思う。
「とりあえず、やれるだけやってみるか」
あの子達はどこまで強くなるのだろう。
どの程度使い物になる存在に変化するのだろう。
第35期の米国代表候補勇者の4人。
その姿を思い浮かべながら、カローンナはタバコの火を消し伸びをした。
元勇者の女性の口元には薄く笑みが滲んでいた。




