幕間の物語:迷推理
どう返すのが正解なのかと、カレンは悩んでいた。それは端から見てわかるほどだ。
カローンナに迫られた選択。いや、選択とは名ばかりだった。
きっと、真面目なカレンは今後を考えて楔国にしばらく滞在する事を選ぶだろう。
そうすれば仲間が死なずに済むのだと、それこそが選ぶべき選択だと考えるだろう。
けど、俺からすればどちらも正解じゃない。
と、言うのも、俺はカローンナを疑っている。
疑いの理由だが、カローンナの話は胡散臭く信頼の根拠がないからだ。
まず、俺たちが弱いのだとしてもカローンナが俺たちを鍛える道理がない。
何をもって、どんな狙いがあって俺たちを鍛える必要があるのか。
ここで一つ仮説をたててみよう。
カローンナは本気で魔王を倒したいと思っていて、そのためにも俺たちを鍛えたいと思っていると。
否、それこそ根拠として成り立たない。
もし魔王を倒したいと考えていたのだとしても、俺たちを鍛える必要はない。他にも候補勇者はいるわけだし、他の候補勇者も全員が一度はこの場所に来ているはずだ。
だから俺たちじゃなく別の人間を選ぶ事もできたはずだ。
なら、ここにきた候補勇者たちの中で俺たちが一番見込みがあったからとか?いや、それもないだろう。
カローンナがレオを倒した時点で、俺たちの実力は高くない事が証明されている。4人の中で一番強い奴が倒されたからだ。
だから、俺たちが一番マシだったのだとしても、彼女の言った通り俺たちが魔王を倒せるはずがない。だとしたら、今年度は切り捨てて次期以降で有望な候補勇者を探したほうがいい。
じゃあ、気まぐれで俺たちを鍛えると言っているとか?
それこそありえないだろう。そんな偶然があってたまるか。
そうなると考えられるのは気に入っている奴がいるから。
けど、それもありえないはずだ。
俺たちは出会って僅かな時間しか経っていないわけで、関係性としては気にいる気にいられるの段階には至っていない。
可能性があるとしたらレオが気に入られているとか? なんか、レオの父親のゲル・ガラードとかいう人が元勇者で有名らしいし。
……けど、俺はそんな話を知らない。
以上のことから、カローンナの言葉を疑う必要性が出てくる。
けど、それはあくまでも疑う必要性が出てくるだけの話で、信用ができないという思考に至るにはもう一段階別の事象がある。
ついさっき、カローンナが本気を出すと言った直後の話。
レオを倒すときの話。
彼女は瞬きの合間に移動をしていた。
確実に、否定のしようがないほどに、彼女は瞬間移動をしていた。
走ってとかじゃなく、コンマ1秒のにも満たない時間の間にA地点にいたハズのカローンナはB地点に姿を現した。
まさに瞬間移動だ。
そして、同じような事象を俺は知っている。
だからこそ、カローンナが……彼女の吐き出す言葉が、信用できない。
だからこそ、俺はカローンナを疑っている。
だけど、もし俺の疑いが明確な事柄として証明されてしまえばその他の部分でほころびが出てきてしまう。よって、俺の疑いは間違ったものであると証明される。
けど、俺の抱くカローンナへの疑いが間違ったものであるのだとしても、俺は聞かずにはいられなかった。
「なぁ、カローンナ」
カレンの肩を叩き、カローンナとは俺が話をすると合図をする。
今回はうまく俺の意図が伝わったようで、カレンは頷いて一度は開けた口をきゅっと結んだ。
「お前、魔王軍の人間だな?」
思わず、声が震えた。カローンナから目を逸らしてしまった。
情報と情報が噛み合う感覚に身震いがした。
もしも至った結論が事実なのだとしたらと考えると鳥肌がたった。
下手をしたら今この場で俺はたちは死にかねない。死んでも不思議じゃない。
空気が凍るのを感じる。皆の呼吸音が聞こえない。緊張が充満しているんだ。
風の音がやけに大きく聞こえる。布ずれの音が不自然にはっきりと聞こえる。
カローンナは今、何を考えているんだ? どんな表情をしているんだ?
一度は逸らした視線を再びカローンナへと向ける。
そうして動かした視線の先で、カローンナは……笑っていた。
獰猛な笑みとはまた別種の卑しい笑みだ。
「どうしてそう思った?」
「……先に魔王軍かどうかだけ答えろよ」
「嫌だね。正解を聞いてから回答する奴がどこにいんだよ。先に回答しろ。それから答えあわせだ」
あぁクソ。これダメな方じゃねぇかよ。
だって、違うんならさっさと否定すれば終わる話だろ?
ここで変にもったいぶって時間を使うあたり、やっぱり俺の推測は正しかった。
「まず、お前が俺たちを鍛える理由がわからない。次にお前は魔王軍の幹部ウィーク・ドミネーターが使っていた瞬間移動を使っていた。そして最後に、あの街で遭遇したピース・ライアーとかいう魔王軍幹部がニコラウスを魔王軍に勧誘していた。以上のことから俺はお前が魔王軍の人間じゃねぇかと推測した」
魔王軍に属する人間がいて、魔王軍もしくは魔族が使える瞬間移動がある。この2つからカローンナに魔王軍の疑惑が持ち上がる。
そして、目的の見えない俺たちへの貢献。これは遠回しに軟禁させろって言ってるようなものだ。
ただ、この軟禁はカローンナが魔王軍の人間であった場合は目的が生まれる。
俺たち候補勇者の幽閉と最終的な殺害だ。
この辺りまで考えるともうカローンナが魔王軍の人間だとしか思えない。
もうこれ絶対に確定だろ。
さっきすぐに答えなかった時もほぼ確定していたようなものだけど、今もう確定に確定が重なって疑いようがなくなったな。
こうなったら多分、すぐにでも俺たちを殺そうとしてくるだろうな。
逃げる準備しないと……。
「アッハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」
生唾を飲み込む俺と唖然とするカレンとポーラを順に見て、カローンナは高笑いをした。
楽しそうに高笑いをし、笑顔を見られまいてと手で顔を申し訳程度に隠す。
「何がおかしい」
「いやいやいや。随分と頑張って考えたんだって思ったんだ」
お前の推測を崩してやるとカローンナは前置く。
「お前たちを鍛えてやるというのは私なりの礼だ。ニコラは私の弟子みたいなものでね。その弟子はお前たちがいなかったらあのはぐれで死んでいただろう。それか、魔王軍に連れ去られていた」
はい、終わった〜。
俺の推測が間違っているってもう証明されちまった。
カローンナが俺たちを鍛えるのは俺たちへのお礼ってことでした!
これでカローンナの話の根拠が突きつけられちゃいました〜。
「あぁ、うん。そう言われたらなんとも……いえない」
ついつい言葉が尻すぼみになる。
「私を信用できないってのは仕方ない。私が同じシチュエーションに遭遇したら同じように疑うだろうからな」
笑いながらカローンナは歩み寄ってきて、自分よりも背が高い俺の頭を撫でてくる。
やめろや。恥ずかしいだろ。
すかさず俺はカローンナの手を払い退ける。
「まぁ、すぐに旅立つって言っても私は止めない。ただ、数日くらいはここに滞在して装備なりなんなり、準備を整えたりしたらどうだ?」
とりあえず屋敷の中に戻るぞ。寒いだろ? と、そんなことを言うカローンナに促されて俺たちは再び応接間に向かった。
ちなみに、嘔吐して気絶したレオは俺が背負って運んだ。
めっちゃ重かった。




