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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 第5章 はぐれ編

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第59話:嫌だね

「……コーヒー…………もって……きた」


「ああ、ありがとう。トレーごと置いておいてくれ」


「……ん」


 シロは表情筋を動かすことなく最低限の返事をすると、人数分のコーヒーを載せてあるトレーを義足の女性カローンナの前に置いた。

 カローンナはトレーに載せられていたコーヒーを向い側のソファに座る俺たちの前へと順に置きながら、部屋から出て行こうと踵を返したシロに謝った。


「ごめんな。痛いだろうに」


「…………別……に」


 多分、別に良いとか気にしなくて良いとかそういう意味合いだろう。

 シロは相変わらずの無表情で最低限の言葉だけを置き、部屋から出て行った。


 今、俺たちはカローンナの屋敷の中にある応接間にいた。

 はぐれから出発し、近くの安全な場所まで送るとカローンナにいわれた俺たちはカローンナの運転でさらっと楔国トリガーへと輸送されていた。

 そして、自分が楔国トリガーの創設者であり管理者であるとドヤ顔で名乗ったカローンナに案内され、彼女の屋敷の中にある応接間に通されたわけだ。

 これが今この状況に至るまでの顛末だ。


 ガラス製のでっかいテーブルがあり、それを取り囲むように大きなソファが4面に並べられた応接間に、上座がカローンナ、それと向かい合うように俺たちと言う配置で向かい合う。

 ちなみに、俺たちは前にスティーヴと話をした時と同様の配置でレオ、カレン、ポーラ、俺の順に並んで座っていた。

 ニコラウスは精神的にかなり消耗していたからと別室に通された。


 前はソファにぎゅうぎゅう詰めで座っていたが、今回はソファが馬鹿でかい。

 そのおかげもあって俺たちは余裕を持って座ることができていて、前みたいに肩がぶつかることはない。

 

 うん。なんだかそれはそれで残念だな。


「あいつ。どこか怪我でもしてるのか?」


 シロが部屋から出ていったのを確認し、扉を見つめながらレオが聞く。

 すると、カローンナはコーヒーを口に含んで唇を濡らしたあと、言うかどうかを悩む素振りを見せながらもため息まじりにレオの問いに答えた。


「いや、そういうわけじゃない」


「じゃあ、痛いだろうにってどういうことだ?」


「……あいつは第一世代の人間だ」


「あ? んだよそれ」


 分からない言葉を使うなとレオは吐き捨てるが、カローンナの言葉を聞いて俺は瞬間的に思考が停止した。

 その理由は単純で、カローンナの言う第一世代と言う言葉を俺は知っていた。

 だからこそ、彼女シロがそうなのだと知って思考が止まった……ように感じた。


 知らないならそれで良いと、コーヒーを啜って会話を途切れさせようとするカローンナ。

 その態度にレオは少し腹を立てたようで、良いから教えろと噛み付く。

 お願いだからこれ以上変に噛み付くなよと思いながらレオに視線を向けると、その手前でポーラが両目を見開いているのがわかった。


 まぁ、ポーラは国王の娘だからな。

 普通の人間が知らないことを知っていてもおかしくはない。

 多分ポーラも俺と同じことを思っているだろう。

 シロは第一世代なのか。それはお気の毒に、と。


 正直、可能性は少なからずあると思っていた。

 彼女が先天性色素欠乏症アルビノだからだ。


 第1世代。

 

 それは、かつて天撃の際に被爆地の近くに居たにも関わらず、膨大な量の放射能を浴びたにも関わらず、何故か生き残ることができた人々を指す言葉だ。

 被爆地の周辺にいた人々がほとんど皆、溶けて形を失ったにも関わらず、不思議なことに形を保ったまま、さらには生き残ることができた人々。


 なんで俺がそんなことを知っているかって?

 簡単な話だ。

 あの大魔法使い様がそうだからだ。


 第1世代には共通点がある。

 それは、先天性色素欠乏症アルビノであることだ。

 かつて日本と呼ばれていた国が天撃によって崩壊した際、不思議なことに先天性色素欠乏症アルビノの人間だけは膨大な量の放射能を浴びたにも関わらず生き残ることができた。

 その理由ロジックは未だ解明されていない。

 ただ、被爆した先天性色素欠乏症アルビノの人々は人間の形を保ったまま、内側がぐちゃぐちゃになっていることだけは分かっている。


 筋細胞が溶け、脳も溶け、神経も溶け、骨も溶け、全てがぐちゃぐちゃになって混ざり、なおも生きている。

 だからとは言えないが、第1世代は身体中が骨であり、筋細胞であり、内臓であり、神経であり、脳である。

 それ故に、彼ら彼女らは通常の生活を送るだけでも身体中に激痛が走る。

 言ってしまえば脳や骨、神経や内臓なんていうデリケートな部位がむき出しの状態だ。

 普通に生きるだけでも身体に強い刺激が走るのは当然のことだ。


 ……ああ。だからなのか。

 あの時、基幹都市で塀の扉をノックしたシロが扉に触れた手をやけに痛がっていたのは通常の人よりも痛覚が鋭くなっている第1世代だからこそだったのか。


 本当にお気の毒だな。というか、可哀想だ。

 ただ生きているだけで痛覚を刺激され続け、脳を直接弄られるような感覚を味わい続けることになるだなんて。苦痛でしかないだろう。


「まぁ、この話に関しては機密事項に近い話だからな。不用意に教えることはできない」


「はぁ? んだよそれ」


 じゃあ話に出すなよとレオは言うが、全くの同感だ。

 第1世代の話は知っている人がごく一部だ、だから話をするなら相手が第1世代について知っているのだとわかりきっている場合だけにしとかなきゃならない。

 まぁ、これはあのクソジジイに教えられたことなんだけどな。


 とにかく、今回は完全にカローンナのミスだ。

 言葉を選ばなかったのが悪い。


 ただ、カローンナはニヤリと笑いながらレオに言った。


「まぁ、勇者になれば全部がわかる」


「あ? 俺は勇者だ」


「違う違う。そんなまがい物じゃなくて、正式な勇者にだ」


 つまりは魔王を倒したら知ることができる権利を得られると言うことか?

 

 カローンナの煽りに、レオは犬歯をチラつかせながら獰猛に笑う。


「ハッ! そういうことかよ。なら安心しろ。そう遠くないうちに俺が勇者になる」


「まぁ、期待しないで待っておくさ」


 満足げにコーヒーを啜るカローンナ。

 あぁ。なるほどな。こいつ狙ってやがったな。

 何が狙いなのか分からない以上は断言できないけど、カローンナはおそらく、わざと第1世代の話を持ち出した。

 何かしらの狙いがあって、俺たちに常識外の話をチラつかせた。

 ……うん。性格悪いなこいつ。


「さて。改めて自己紹介をさせてもらうとしよう。私の名前はカローンナ。特殊国家であるこの国を世界に打ち込む楔として造った張本人だ。君たちは第35期の米国代表候補勇者で間違いないな?」


「ああそうだ。俺はレオ。レオ・ガラードだ」


 レオの名前を聞き、カローンナは目を見開いた。


「君がそうなのか」


「あ? 何がだ」


「いや、こっちの話だ」


 気にしないでくれと言ったカローンナに、カレンとポーラが順に名乗る。

 けど、2人の名乗りにカローンナは無関心だった。

 流れに沿い、俺も名乗る。


「俺はニシゾノ・ケイタだ」


 俺の名乗りに、カローンナは「ふーん」程度の言葉しか返さなかった。

 けど、わずかに彼女の眉が動いたことに、俺は偶然だけど気がついた。


 まぁ気がついたからって指摘はしないんだけどな。

 みんなに話していない部分の俺の話を掘り下げかねないし。


「今回、君たちを助けるような形になったわけだが、あれは全くの偶然だ」


 カップを傾けて半分にまで減ったコーヒーを揺らし、その表面に揺らめく波紋を眺めながらカローンナは呟くようにいう。

 勘違いをしないでほしい、と。


 俺たちから言わせてもらったらカローンナは俺たちが何をどう勘違いしていると勘違いしているのかって感じだな。

 別に俺たちは勘違いなんかしてないさ。


 あの状況、カローンナがニコラウスと知り合いであるという事実。

 シロと一緒にはぐれに来たこと。

 それら全てを踏まえると、ニコラウスの保護か魔王軍の討伐が目的だったのだろう。

 そして、その時に偶然俺たちがいたからついでで保護をした。 

 きっとそんな感じだ。


「あの時、私とシロは米国国王の依頼を受けてラスベガスの北東部に出現したダンジョンの調査に向かっていた。そして、その調査の帰りにラスベガス西部に位置するあのはぐれを通りかかった。私たちは少し休憩していこうという話になり、車をはぐれの外に止めてはぐれの中に入っていった。するとどうだ。鉄同士の打ち合う音が聞こえるわ鼻をつくような血の匂いがするわ。まぁ、そこからはお前たちも知っての通りだ」


 いや、俺が思ってたよりも偶然だった。

 めっちゃ格好つけて考察とかして、その上で外してだっせぇ!

 恥っずかし!


 だから本当に偶然だった。

 お前たちは運が良かったんだ。

 そう言いながら再びコーヒーを口に含むカローンナに、レオが聞く。


「なぁ。ダンジョンって何なんだ? 初めて聞いた言葉なんだが」


 ……俺も少し気になったというか、引っかかりを覚えた点だ。

 ダンジョン……。

 ダンジョンってあれか?

 昔のゲームとか物語とかだと魔物の巣窟みたいな場所だったり、魔王軍の幹部が主人公を待ち構えている場所だったりするあれか?


「簡単に言うとな、ダンジョンっていうのは魔物が湧き出してくるスポットと言うか、エリアというか、まぁそんな感じのところだ。私たちが調査に行ったのは地面に開いた大穴だったな」


「ふーん。なるほどな」


 いや、「ふーん」じゃねぇだろアホ!

 もっと話を掘り下げさせろよ!

 絶対にあれじゃん。大穴に入ると下に地下都市みたいなのが広がっていて、そこで宝探しをしながら魔物と戦うって感じのやつじゃん!

 男のロマンじゃん!

 何でもっと興味を示さねぇんだ!


「なぁ、1つ聞いていいか?」


 そわそわとする俺を気にすることもなく、カローンナはレオに問いかける。


「もう薄々気づいてはいると思うけど、今期の候補勇者の中でもお前たち米国の代表が一番この街にたどり着くのが遅かった」


「ああ。だろうな」


「それについて聞きたいんだが、どうしてお前たちはスタート地点であるこの街に歩いて向かっていたんだ?」


 普通、国の人間に輸送してもらえるはずだろ。

 カローンナはそう指摘した。


「魔王軍による襲撃が原因で輸送する余裕がなくなった的なことを言ってたぞ?」


 レオの回答に、カローンナは顎をさすりながら考える仕草を見せる。

 視線はテーブルに置いたカップに向けられていて、相変わらず波紋の余韻を見つめ続けている。


「……まぁ、そういうことか」


 何だ? なんか、口を開いてから言葉を発するまでに微妙な間があったぞ?

 何かおかしな点でもあるのか?


「ともかく、無事にこの街にたどり着けたんだな」


「それについてはあんたの偶然に感謝だ」


「他の国の候補勇者たちはすでに旅立っている。あとはお前たちだけだ」


 と、そのタイミングでレオが思い出したように「あ!」と叫んだ。

 叫ぶな。耳が痛い。

 カレンも同じように思っていたようで、無言でレオにボディーブローをかます。


 くの字に折れ曲りながら、レオは言う。

 俺たちが特殊国家であるこの街を目指した目的を果たそうと、これからのために問うべき事象を問う。


「なぁ、カローンナ。俺たちに魔王城の場所を教えてくれ」


 獰猛な笑みを浮かべるレオに、カローンナは同じような笑みを浮かべて即答する。


「嫌だね」


 お〜っとぉ?

 何だか話が違くないかぁ?


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