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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 第5章 はぐれ編

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第58話:楔国(トリガー)

「ほらほら、さっさと運べよ」


 パンパンと手を鳴らしながら、急かすように言う義足の女性。

 俺たちは、義足の女性に言われてバクとキャロル、それからホノカの遺体をはぐれの外へと運び出していた。

 過程はかなり省略して説明するが、魔王軍の気配がなくなるなり、義足の女性は俺たちに「時間がないから早くはぐれから出るぞ」と言った。

 そして、車をはぐれの外に置いてあるから、それで近くの安全な場所まで運んでやるとも言ってくれた。


 ただ、そんなありがたい言葉にニコラウスは首を横に振った。

 ニコラウス曰く、3人を置いてはぐれからは出ていけないそうだ。

 それを聞いた義足の女性は、3人の死体も一緒に運んでやると言った。

 ニコラウスはそれならばと納得した。


 そんな経緯をもって、俺たちは今回の戦いで命を落とした3人の死体を運んでいる。

 まぁ、俺たちとは言ったが正確には俺とレオがだ。


 ニコラウスにはこんなことさせられないし、ポーラは力が弱いから戦力外。で、そのポーラの護衛としてカレンも戦力外。

 当然のように義足の女性は手伝う気はないようだったし、シロもふらふらとどこかへ行ってしまって戦力外だ。

 だから俺とレオがやるしかなかった。


 俺たちはまず、バクとキャロルを運んだ。

 2人は脳漿が飛び散ってはいたがそれだけで済んでいたからだ。

 ホノカに比べてまだマシな方で、形も残っていたから運びやすいってのもあったけど、まだ運んでいて気持ちが楽だから先に運んだ。

 

 この数日。ニコラウスとその仲間達と共に旅をすることになり、少なくはあるが時間を確かに共有した。

 ただ、その中でもバクとキャロルの2人は割と無口な方で、摑みどころのなさも相まって特に関わりが浅かった。

 だからこそ、2人の遺体はこみ上げる特別な感情みたいなものもなく運ぶことができた。


 義足の女性だけが戦いのあったはぐれの広場に残り俺たちを見守る。

 シロを除いた他の奴らは皆、先にはぐれの外にあるという車のもとへと移動していた。


 バクとキャロルをはぐれの入り口からかかる橋の向こう側……堀の外側へと運び終え、最後に1人、ホノカを回収するために広場へと戻っていくと、義足の女性がどこから取り出したのかわからないような巨大な布でホノカの死体を包み込んでいた。


「何してんだ」


 義足の女性を警戒しているレオが強めの口調できく。

 すると、女性はレオの方を一瞥もせずに言った。


「こうでもしないと運んでいる最中にちぎれる」


 ホノカを包んだ布のあたりにはひしゃげた臓物のようなものと真っ赤な血のようなものが飛散しているが、それは赤い血を持つゴブリンのものと全くと言っていいほど見分けがつかなかった。

 それほどまでに、この場所にはゴブリンの死体が地面を埋め尽くす勢いで転がっている。

 

 転がるすべての死体は俺たちが斬り倒したもので、それらすべてから真赤もしくは茶褐色の血が流れ出ている。

 中でも深く斬ったやつからは腹の辺りから臓物がこぼれ出ていたりもする。


 故に、俺にはホノカだったものを包む布の周囲に飛散しているそれらがホノカのものなのかゴブリンのものなのかわからなかった。

 どちらの可能性もあり、両方が混ざっていると言う可能性もある。


 改めて見ると酷いものだった。


 時刻はすでに昼過ぎ。

 空に浮かぶ雲なんて数えきれるほどで、散歩日和と呼べるほどにいい天気だ。

 春と言う季節柄もあり、風も出ていて清々しい。

 けど、足元には踏み場がないほどに死体が転がっている。

 ゴブリンとオークの死体が、武装したそれらの死体が人間と同様の内容物を垂れ流しながら転がっている。


 どこを見ても死体。死体。

 どの死体を見ても顔に浮かぶのは無の表情が恐怖の表情の2択。


 鼻には鉄と砂が混ざったような香りがこびりついていて、感覚が鈍っている。

 けど、それを実感できている俺たちは生きている。

 生き残ることができてしまっている。


「何してんだよ早く運べ」


 義足の女性が再び急かしてくる。

 見ると、レオが複雑な表情をしていた。

 その表情の裏にどんな感情があるのか、俺には想像できない。

 俺は脇役まほうつかいでお前は主役ゆうしゃだからな。

 考え方とかものの捉え方が根本で違うんだ。


_______


 はぐれの外に3人の遺体を運び終えると、義足の女性の指示で止められていた車の荷台に遺体を積んだ。

 女性曰く、車はプレミアの付いているものらしくて、ランドクルーザー70系と言う西暦の中でもかなり古い方の車種だそうだ。

 興味はないけどな。


 ゴテゴテとしたフォルムのランドクルーザーの荷台に3人の遺体を積むと、ニコラウスは自分も一緒に荷台に乗ると言った。

 義足の女性はそれを否定しなかった。


 運転席に座った義足の女性の指示で、助手席にレオが座り、その後ろに俺。俺の隣にポーラ。その隣にカレンと言った配置でランドクルーザーに乗り込んだ。


 エンジンをかけ、女性はサイドブレーキをガチャガチャと動かしてアクセルを踏んだ。

 大きめのエンジン音を鳴らしながら走りだすランドクルーザー。

 そこでふと気がついた。


「あ、おい! シロはどうすんだよ!」


 俺が指摘すると、3馬鹿も思い出したように「あ!」と言った。

 いや、俺もだから人のこと言えないけどなんで気づかなかったんだ。

 いくらなんでもアホすぎるだろ。


 痛恨のミスに慌てふためく俺たちをバックミラーで冷めた目で見ながら、女性は左手親指で後方を指差す。

 

「居るだろ」

 

 突き放すような冷たい調子のハスキーボイス。

 それに促されるように荷台の方を見ると、ニコラウスと向かい合う位置にシロがちょこんと体操座りで座っていた。


「な、お前いつから居たんだよ」


 聞くと、シロはごくごくわずかに首をかしげて、何かを考えるような間を取った後に小さな口を開いた。


「…………最初……のほう……から?」


 まぁ、それを聞いて何がしたかったんだと言われると困る。

 現に、俺はシロの返答を聞いてどんなふうに会話を繋げばいいのかわからなくて、「まぁ……居たならいいや」ってよく分からない言葉を返して会話を終わらせてしまった。


 西の方角へと向けて車を走らせ、かなりの時間が経った。

 数時間とかそういうレベルじゃない。 

 もっとだ。


 義足の女性は止まることなくランドクルーザーを走らせ続け、日が落ち、夜が深くなり、そして夜が明けた。

 まる一晩以上。時間にして言うならば16時間が経過した。

 そこで一度、義足の女性は車を止めた。


 その頃には辺りが草原から荒地へと姿を変えていた。

 木々はなく、植物はあるもののその多くが枯れ果てている。

 地面は水分の不足によってひび割れ、生き物らしい生き物など見当たらない。


 女性はランドクルーザーから降りて伸びをすると、荷台からタンクを取り出して中に入っていたガソリンを給油口に注いだ。

 そして、携帯食料をほんの少し食べて水をひと口だけ口に含むと、再び運転席に座ってアクセルを踏んだ。

 義足の女性がランドクルーザーを走らせる中、俺たちは女性の勧めで荷台に積まれていた携帯食料や水を分けてもらった。


 再び日が空の一番高くにまで登り、沈み、夜が来て深まってゆき、夜が明けた。

 そのおよそ20時間の間、女性はアクセルを深く踏み続けた。


「ほら起きろ」


 ハスキーな声が耳に届いてきたと思った次の瞬間。

 頰にものすごい衝撃が走った。

 あまりの痛みに眠っていた思考は一気に覚醒し、目がさめる。

 瞼を持ち上げると、義足の女性がイラついた様子で俺の胸ぐらを掴んでいた。


(……え、なんで?)


 女性に叩かれたであろう痛む頬をさすっていると、女性は「降りろ」と命令してきた。

 急にどうしたんだと思って車内を見渡すと、すでに他の奴らは車の中からいなくなっていた。

 そこで自分がかなり深く寝てたことに気づき、そのせいで皆に迷惑をかけていることにも気がついた。


 慌ててランドクルーザーから降りると、目の前には巨大な屋敷があった。

 それはもう、スティーヴの屋敷とは比べものにならないほど大きな、物語に出てくるような屋敷だ。

 白を基調にした外壁と赤茶色の屋根が特徴的な屋敷。

 俺たちの目前にある屋敷の外観だ。

 屋敷の前部にある庭の部分を見回すと、手入れの行き届いた花壇や背丈の低い木々などがあり、一角には馬の石像みたいなものもあった。

 まさに、昔のゲームに出てくる貴族の屋敷みたいだ。


(ここはどこの街だ?)


 屋敷の周辺にヒントはないものかとあちこちへ視線を動かし、気がついた。

 視界のどこにも街を取り囲むはずの巨大な塀がないことに。


 屋敷の庭からは周辺の街並みが見え、その奥にはうっすらと山みたいなものが見える。

 その山があの戦いのあったはぐれから見えていたものと同じものなのかは分からない。

 けど、俺たちがたどり着いた街に塀がないのは確かだった。

 

 ならばきっと、街の周辺には代わりとなる深い堀があるのだろう。

 だとしたらこの街はまた別のはぐれなのか?


「なぁ、ここはどこだ」


 義足の女性に聞くと、女性は胸ポッケから取り出したタバコを1本くわえ、ライターで火をつけながら篭った声で言った。


「んあ? トリガーだ」


「ああ。なるほどな」


 ……………………は?


「と、楔国トリガー!? トリガーってあの楔国トリガーか!?」


 俺の声に義足の女性は顔をしかめる。

 まぁ、多分うるさいって思ったんだろうな。


 煙を吐きながら、義足の女性は冷めた口調で言う。


楔国トリガーなんて国は1箇所しか無いだろ。楔国トリガーは私が造ったこの国だけだ」


「まぁ、そうだよな」


 確かに、楔国トリガーは1つだけだよな。

 同じ名前の国が2つもあるはずないよな。

 そうだよな。そうだよな。


 …………は?


「ちょっ! お前今なんつった!?」


「お前って言うな。私は年上だ」


 義足の女性はムッとした表情でどついてきた。

 脳天を的確にグーで、しかも関節の骨ばった一番痛い場所で。


いってぇなお前! 何すんだぁ!?」


 またどつかれた。

 めちゃくちゃ痛い。


 脳天を両手でガードしながら義足の女性を睨みつけると、女性は思い出したとでも言うように「あっ」と声を零した。


「そういえば忘れてたな。まだお前たちに私が誰なのか名乗って無かった」


 タバコを足元に捨て、靴先でそれをグリグリと踏み潰した女性は腰に手を当て、胸を張って名乗りをあげる。


「私の名前はカローンナ。ここ……楔国トリガーの創設者で管理人だ」



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