第55話:対魔王軍(3)
ホノカはニコラウスに何かを言い、ニコラウスは渋々といった様子で頷くとホノカと同じように剣の柄を捻って刀身に茶褐色の液体を行き渡らせ、その刀身に炎を纏った。
「ホノカとケイタ君が来てくれたし、敵の数も随分と減った。ここからは最初にいった通りの作戦で行こう。僕とホノカがオークの対処をするから、3人はゴブリンを掃討してくれ」
その言葉に、俺たち3人は返事をしない。
俺は単にゴブリンと戦うので精一杯だから返事が出来ないってだけだけど、多分2人がニコラウスに返事をしなかったのは俺とは違う理由なはずだ。
レオは多分、美味しいところを持ってかれるとかまだ思ってるんだろうけど、カレンはどうしてだ?
(全くもって想像できないな)
返事もせずにゴブリンと戦う俺たちの態度を無言の肯定だと受け取ったニコラウスは「頼もしいよ」と的外れな言葉を吐きこぼして手近なオークへ視線を向けた。
もう、ゴブリンの総数は俺にも数えられるほど少なくなっている。
俺とレオとカレン。それぞれが10前後倒せば終わりだ。
合計だと残り31体。
数え切れないほどゴブリンがいたことを考えると、随分と気の遠くなるような作業をしていたのだと思い出す。
日はすでにかなりの高さにまで登っていて、もうかれこれ4時間近くは戦闘が続いていたことがわかる。
太陽の光を存分に浴び、俺はこの街での最後の戦いに身を落とした。
もう残りの数が少なくなってきたと言うこともあり、ゴブリン達は仲間と連携をとって俺たちに攻撃を仕掛けてくるようになった。
同時に襲いかかり、頭部と足を狙って同時に左右から攻撃を仕掛け、それをしゃがみ気味でジャンプして避けると次は胸を狙って突きをかましてくるといったレベルの、かなりの連携具合だ。
まぁ、数が少なくなった途端にそれだけ連携が取れるようになったってことは、今までは数が多すぎて違いが邪魔になってたってことでもあるんだろうな。
いくら知性があるとはいえ、魔物は魔物だな。
(けど、連携攻撃が厄介なのは確かだ)
現に俺は攻めあぐねている。
さっきのニコラウスみたいに畳み掛けられる攻撃を剣で受け止めたり去なしたりとするばかりで、一向に反撃ができていない。
そんな状況の中、俺と戦う3体に他の個体5体が加勢しようとこちらに向かってくる。
(いい加減なんとかしないと……!)
膝を折り、低い姿勢で俺の足を切り落とそうと剣を振るってくるゴブリン。
その瞬間、別の個体が俺の額の高さあたりをめがけて剣を振ってくる。
もう、さっきから何度も繰り出された戦法だ。
足元の剣を避けるために飛ぶと頭部を狙った剣がちょうど首の高さに来てしまい、そのまま首がスパン。下手にしゃがんだ姿勢でジャンプをして避けようものなら胸部を狙って強烈な突きを寄越してくる。
本当に厄介だ。見ると同時攻撃を仕掛けてくる2体の奥では1体が剣を構えて突きの攻撃準備に入っているし、そのさらに奥ではゴブリンが5対駆け寄ってきている。
今すぐにでも目の前の3体を倒さなきゃならない。
だから俺は避けていたさっきまでとは少しだけ違う戦略をとることにした。
正直、うまくいくかはわからない一か八かの手だ。
俺の足を狙って右側から襲い来る剣。それを防ぐために、俺は自身の右側の地面に思い切り剣を突き立てた。
そして、剣の柄を力強く両手で握ったまま、俺は頭部を狙って迫る剣に背を向け、思い切りしゃがんだ。
形としては足元の攻撃をしゃがんだ状態で防ぎ、頭部の剣は当たらないことを前提に背を向けたって感じだ。
俺がしゃがんだことに頭を狙っていたゴブリンはすぐに反応し、剣の軌道をズラし、下げる。
地面から水平方向に繰り出されていた背の低いゴブリンのジャンプしながらの攻撃は、軌道を変えて斜め方向に切り落とす技へと変化する。
宙に浮くゴブリンが繰り出す斜めの剣撃は、俺の頭スレスレを髪をかすめて通り過ぎる。
空を切る剣の風圧を頭が感じると同時に、地面に突き立てた剣に攻撃がぶちあたる。
ズシンという重い衝撃が伝い、刀身に伝わったそれが柄の側と地面の側とで分散して不恰好に刀身が振動する。
けど、それだけだった。
足元を狙った攻撃は元々の繰り出す姿勢が悪かった故、踏ん張りがきかずに攻撃力がかなり低かった。
足元を狙ったものも頭部を狙ったものもどちらも囮としての攻撃だったっていうのもあるが、そのおかげもあり俺はなんとか足元への攻撃を受け止め、頭部への攻撃を避けた。
ここでラッキーが巻き起こった。
俺の避けた頭部への攻撃は俺の髪をかすめて後方から前方へと通過する。
すると、その攻撃は俺の足元を狙って攻撃してきていた個体の顔面に見事命中し、振り下ろす勢いのまま頭頂部から入った刃が右頬の辺りへと抜け、頭が一部ずり落ちた。
当然、脳も切られているんだから生きていられるはずもなく、切られた側のゴブリンが「グギィィィィィィィ」と泡を吹いて倒れる。
偶然はそれだけじゃあ終わらなかった。
突きの準備をしていた個体が、なぜか突然突きを繰り出した。
俺の頭上を剣がかすめるのとほぼ同時だ。
これによって、ジャンプした状態のまま剣を振るって仲間を切ってしまった個体の項の辺りへと強烈な突きが鋭く襲いかかる。
無意味に仲間に狙われた側のゴブリンはジャンプをした状態で、さらには剣を振り下ろしている真っ最中と言うこともあり、自身に襲いかかる突きに対応する術は持たない。
されるがままに、その個体は仲間にうなじを貫かれた。
「グァァァァァァァ! 痛ェ! 痛ェヨ! クソ! クソクソクソクソ! これだから俺は嫌だったんだ! 使いたくなんかなかったんだ!」
うなじを貫かれたゴブリンは人語で叫び、恨めしそうに自身のうなじを削った個体を睨んでその個体に襲いかかった。
つい一瞬前に自分も仲間の命を奪ってしまったはずなのに、その事実には目もくれず仲間を殺した剣でさらに別の仲間を殺そうと襲いかかる。
見ると、頭を切られた個体はずり落ちた頭部の切り口から茶褐色の刺激臭のする液体がドバドバと溢れ出ていて、うなじをえぐられた個体の傷口からは真っ赤な血が流れ出ている。
「クソ! よくも! 死ね!」
うなじを削られたゴブリンは真っ赤な血を傷口から流しながら目から涙を流している。
悔しそうに奥歯を噛み締めながら、何度もなんども、自分のうなじを削った相手に剣を振り下ろす。
相手が崩れ落ち、動かなくなっても何度もなんども剣を突きつける。
グチャグチャと言う気色の悪い音が辺りに響き、その音にスパイスを加えるようにゴブリンのしゃがれた人語が響く。
あまりにも奇妙な展開だが、俺はそれをチャンスだと思った。
ホノカが倒したオークの蛮刀の位置まで駆け寄り、その蛮刀を両手で持ち上げてみる。
バカほど重いが、持てないと言うわけじゃあなかった。
試しに刀身をノックするように叩いてみると、軽い音が返ってきた。
どうやら刀身の内部は空洞になっていて、それなりに重さを削ってあるようだ。
(ありがたい!)
持てないほど重くはないが、それを振り回して戦えと言われると無理だとしか答えられない蛮刀。
その柄の端を持ち、俺は体を回転させた。
ハンマー投げの要領で使ってやろうと思ったんだ。
1回転、2回転として3回転目に差し掛かったところで、これ以上やると自分に隙ができると思った。
だから、3回転目の途中で俺はこちらに駆け寄ってきていたゴブリンめがけて蛮刀を放り投げた。
正直、攻撃としてはガバガバで避けられないはずがない。
けど、ゴブリン達はなぜかうなじを削られて仲間を襲う個体の元で足を止め、その暴れるゴブリンを羽交い締めにするなどして押さえ込み始めた。
まぁ、単純に視野が狭すぎたってことだ。
目の前で仲間を襲う個体を止め、飛来する巨大な蛮刀に気づかないだなんて、視野が狭すぎるとしか言えないだろう。
念のため、俺は足元に置いていた長剣を拾い上げて蛮刀を追って走る。
取りこぼしがあった時、倒せなかった分を直接倒さなきゃならないからだ
俺が駆けてくることにゴブリン達は気づき視線を向けてくる。
その時、俺の投げた蛮刀の姿にもようやく気付いたようで、慌ててその場から離れようとしたが遅かった。
緩やかに回転しながら飛んだ蛮刀はゴブリン達の居た場所に狙った通りに落ちた。
重く鈍い音が轟き、土けむりが巻き上がる。
俺の投げた蛮刀はその場にいた6体のうち4体の体を裂き、潰した。
蛮刀に触れなかった2体のうち一方はうなじを仲間に削られた個体で、血をかなり失ったことでなのか、力つきるように勝手に倒れた。
たった一瞬の間に起きた理解できない展開に、目を剥いて口をあんぐりと開ける残された1体。
そいつはさっきの暴れてたやつを押さえる時に剣を鞘にしまっていて、完全な手ブラ状態だった。
だから俺はその呆然とする個体にすぐに駆け寄り、通り過ぎる際に首を切り落とした。
背後からドサリと言う頭の落ちる音がする。
けど、俺はその様を見なかった。
見たくなかった。
あたりを見渡すとゴブリンの死体だらけだった。
生きたゴブリンは1体たりとも見当たらなかった。
赤の液体や茶褐色の液体がそこらじゅうで流れ出ていて、刺激臭と鉄臭のせいで鼻が曲がってしまいそうだ。
レオとカレンが剣を鞘に収め、寄ってくる。
だから俺もゴブリンから奪った剣をゴブリンから奪った鞘に収め、二人に駆け寄った。




