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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 第5章 はぐれ編

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第52話:再会と喪失

うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 って、叫びそうになった俺の口をレオが手で塞ぐ。


「大丈夫だ。向こうからこっちは見えてない。外の方が月明かりで明るいわけだし、月の出る方角から考えてもあいつらの方から俺たちの側は真っ暗で見えない。だから大丈夫だ」


 囁き聞かせてくるレオに頷きを返し、放してもらう。

 視界に入らないレオへ向けようとしていた視線を再び窓の外へ向けて、俺は目を見開く。


「な……なんだよあれ」


「うん。魔王軍だろうね」


 俺の視線の先には。

 窓の向こう側にある広場には。

 武装をした小鬼ゴブリンの大群と、頭絡をつけられた竜種ドラゴンが複数体、さらに……


「あれは……ゴブリンなのか?」


 他の小鬼ゴブリンよりもかなり大きな体を持つ小鬼ゴブリンによく似た魔物。

 遠目だから正確な大きさはわからないけれど、レオと同じかそれ以上の大きさだろう。

 俺はその魔物を指差し、ニコラウスに「あれはなんだ」と確認をする

 すると、ニコラウスは「違うよ」と言って首を横に振った。


「あれはオークだ。ゴブリンじゃない」


「オーク……」


 正直、事前知識の想像だけではオークはもっと巨大な生き物なのだと思っていた。

 現にオークは巨人と呼ばれる魔物だとも言われていて、俺たちはそう学んだ。

 そして、俺が……俺たち学んだ情報によると、オークは体長4メートル前後で人間の成人男性平均身長の倍以上の背丈がある。そういうものだ。故の巨人オーク。そう聞かされていた。


 だから俺は視界に映る巨大なゴブリンがオークであるなど分かりもしなかった。


 当然、オークも小鬼ゴブリン同様に胸当などの防具を身に付けていて、手には大剣サイズの蛮刀を持っている。

 あんなもの、振り下ろされたら受け止めることはできないだろう。

 多分、下手に受け止めようとすればこっち側の剣が砕かれて体も真っ二つになるはずだ。


「いい機会だから教えておくけれど、ゴブリンは特定の条件を満たすとオークへと進化をする。あそこにいるのはゴブリンからオークへと進化をする途中の個体だ」


 だそうだ。

 ゴブリンとオークの中間の存在。

 言うなれば、ホブゴブリンってとこか。


「じゃあホブゴブリンってことか?」


 同じようなことを考えていたレオがニコラウスに確認する。


「いや、それは違う」


 違うそうだ。

 じゃもうオークでいいや。

 

 武装したオークの数は17。多分、それだけ希少性の高い魔物っていうことだろう。

 ゴブリンやスライムと同じ程度にはどこでも姿を見れるって話を聞いてたんだけどな。

 

「あれを見て」


 ニコラウスが広場の奥、教会の扉の前を指差す。

 言われた通りにその場所を見ると、そこには防具を身に付けただけのゴブリンが1体いて、そいつは他のゴブリンやオークたちにいろいろな場所を指差しながら何かを言っていた。


「多分、あれはドミネーターだね」


「ウィークを知ってるのか?」


 聞くと、ニコラウスは「もちろん」と頷いた。

 当然か、旅立って2年も経つんだから一度くらいは魔王軍の幹部と遭遇していてもおかしくはないよな。


「で、どうすんだよニコラ」


 戦うのか、息を潜めるのか。どちらかを選べ。

 レオはニコラウスに判断を促す。

 なんだかんだレオはニコラウスを先輩として認めているようだな。


「そうだね。じゃあ、日の出までに彼らがいなくならないのなら戦おう。向こうにも僕たちの姿が見えてしまうんだから、仕方がない」


 それまでの2時間近くをここで隠れて様子を見ていよう。

 それが、ニコラウスの判断だった。


 一旦部屋に戻って候補勇者の衣装に身を包み、火炎瓶などの道具が入った荷物鞄を持ち、短剣を手にみんなのいる食堂へと戻る。

 

 俺が食堂に戻るとすぐに作戦会議が始まった。

 レオですら数えられない量のゴブリンと17体ものオーク。それから頭絡をつけられた朱の皮膚を持つ竜種ドラゴンが10体。

 おそらく一部隊だと考えられる魔王の軍。

 それらとどう戦うかの作戦会議だ。


 作戦会議をしてしまうほど、外にいる魔王軍はこのはぐれから出て行くことはないんだろうと俺たちは皆がどこかで感じ取っていた。


 だから、ほぼ確実に来るその時に備えて俺たちは作戦会議をした。

 

 作戦会議の内容を端的に述べると、ニコラウスたちと俺たちで二手に分かれて戦おうという話になった。

 俺たちがゴブリンを、ニコラウスたちがオークをそれぞれ相手する。

 今回、ニコラウスたちは銃じゃなく剣で戦うそうだ。


 数が多すぎてさすがに銃でどうこうできないっていうのと、銃をここで使うと楔国トリガーまでの道のりを軽装で乗り越えなきゃならなくなるっていうのが理由としてあり、それ故の決定だった。

 そして、さらに細かい計画では、まずは初撃でバクが司令塔と思われる魔王軍幹部ウィーク・ドミネーターを銃で撃ち殺し、それを合図に俺たちがゴブリン、ニコラウスたちがオークを倒す。

 竜種は邪魔になる雑魚を全て倒し終えるまでは放置で、状況が整ってからニコラウスとホノカが囮として多くを引きつけ、その他の奴らで1体ずつ撃破をする。

 そういった作戦に決まった。

 

 

__________



 あっという間に時間は経ち、空が白み始めた6時頃。

 広場で雑談をしていたゴブリンのうちの一体が、ふと、食堂にいる俺たちに気がついた。


 窓越しに俺たちを見つめ、俺たちは窓越しにゴブリンを見つめる。

 そして次の瞬間。


「テ、テキ シュウダァァァァァァァァァァァ!」


 ぎこちない様子で、錆びれた声でゴブリンは人語を叫んだ。


「ッヤバ!」


 数分前からテーブルを利用して銃を構えていたバクが、すぐさま引き金を引く。

 間の抜けたような銃声を伴って発射された銃弾はすぐ目の前の窓を割り、まっすぐに逸れることなくウィークの元へと飛んでいった。

 が、


「やったか!」


 レオがそう口にした時には、いたはずの場所からウィークの姿がなくなっていた。

 それがいったい何を意味するのか、俺は知っている。


「バク!危ない!」


 慌てて俺が叫んだ時にはもう遅かった。

 バクに視線を向けた瞬間、つい瞬きをしてしまう。

 そして、瞬きが終わる頃にはバクが銃を構えるテーブルに魔王軍幹部ウィークが立っていた。


「ギヒッ! ざ〜んね〜んで〜し……」


 煽るように言いながら、呆然とするバクの顔を蹴飛ばし、のけぞったところでバクの銃を奪い取るウィーク。

 バクは抵抗しなかったわけじゃないが、抵抗するよりも先にウィークが行動を完了させていた。


「たぁ〜ン!」

 

 奪い取った銃をバクへと向け、迷うことなく引き金を引くウィーク。 

 放たれた銃弾は銃口が向いていたバクの額へとまっすぐに飛び、それこそ瞬きの間に額を撃ち抜いてしまう。

 食堂に間の抜けたような銃声が響き、何度か銃弾が地面や机にぶつかって跳ねるような音がする。


 ワンテンポ遅れ、'ドサッ’とバクの崩れ落ちる音がする。


「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


 甲高いポーラの悲鳴が聞こえ、その悲鳴にウィークは眉をひそめる。


「ウルサイ ナ」


 毛の生えていない頭をかきながら、気だるそうにウィークは言う。

 その光景に俺は見覚えがあった。


「ポーラ! しゃがめ!」 


 慌ててポーラの元へ駆け寄り、ポーラを守るように抱きかかえてウィークに背をむける。


「死ねよ」


 そんなウィークの冷めた声が耳に届いてきて、「あぁ、今度こそ死んだな」と覚悟を決めた。

 思わずつぶやく程度で声に出していたほどに。

 

 けど、俺の覚悟は不必要だった。


 ウィークに向けた背の側から銃声が鳴り、伴う形で金属同士が打ち合う重い音がした。

 恐る恐る顔を上げて振り返ると、カレンが刀を振り切った状態で静止していた。


「ぶっつけだけど上手くいくものね」


 剣を構え直しながら得意げにいう。


 どうやらカレンはウィークが撃った銃の弾を刀で斬ったか打ち返したかをしたようだ。

 化け物かよ。器用とかそういう話じゃねぇぞ。

 いや、でも助かった。

 ありがたい。

 

 涼しい顔に獰猛さを滲ませるカレンの表情を見て、ウィークは拍手をする。


「イイネ。 ヤッパリ アンタ ハ イイ オンナ ダ」


「そう。ありがとう」


「セッカク ダケド オマエ タチ ノ アイ テ ハ……」


 わずか一瞬の間で、ポーラを抱きかかえる俺の目の前にウィークは移動してみせる。

 本当、何度みてもどんな仕組みかがわからない。

 素早く動いているんじゃなく、空間を移動しているようにしか見えない。


「してやれないんだよなぁ」


 残念残念と、いつかのようになめらかな人語を話すウィーク。

 その吐息は下水のような香りがしてものすごく臭い。


「よぉ。また会ったな小僧」


 ニタリと人間味を出しながら笑うウィーク。

 あまりにも醜い笑みで、俺は一瞬だけ言葉を失う。

 けど、自分が危険な状況にあることを思い出し、すぐに言葉を選んで紡いだ。


「おま……」


 ただ、俺が言葉を発した時には食堂内からウィークの姿はなくなっていた。


「まずい! 外に出よう!」


 ニコラウスは焦ったように叫び、縦長の大きめの窓を鞘に収まった状態の長剣で叩き割ってすぐさま外に出た。

 みんなもニコラウスに続き、武器を握る手に力を込めたまま次々と外に出て行く。


「おい、行くぞ!」


「あ、はい!」


 俺も慌てて立ち上がり、ポーラの手を引いて外に出た。

 すると、ついさっきまで食堂にいたはずのウィークは並ぶ竜種ドラゴンのうち、他と比べて若干だけ小さめの個体の背にまたがっていた。


「後は任せたぞ」


 竜種ドラゴンにまたがって他のゴブリンやオークに言うと、ウィークは竜種ドラゴンの手綱を握って「飛べ!」と指示を出す。


「させない!」


 翼を羽ばたかせ、飛翔しようと試みる竜種ドラゴン

 その背に乗るウィークへ向けて、キャロルは非常事態ということもあって使わないと決めていたはずの銃を向けた。


「キヒッ! ソン ナニ 死ニ イソグ ナヨ」


 間の抜けたような銃声がした。

 一拍遅れ、キャロルが崩れ落ちる。


「は?」


 何が起きたのかわからないと言った様子でニコラウスが崩れ落ちたキャロルへと視線をむける。

 俺たちも、思わずキャロルへと視線を向けてしまう。


「うっ……」


 思わず、吐いてしまいそうになった。

 キャロルは眉間を撃ち抜かれ、血を垂れ流しながら白目を剥いて倒れていた。

 そして、キャロルの後ろには脳片のようなものが飛び散っている。


 あまりにショッキングな光景だ。

 

「お前……お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!!!!!!」


 殺してやると鬼の形相で叫びながら銃を構えるホノカ。

 だけど、その頃にはもうウィークを乗せた竜種ドラゴンは空高くに飛び上がっていて、ホノカはそれでも構わないと引き金を引いたがその銃弾がウィークやウィークが乗る竜種ドラゴンを打ち抜くことはなかった。


「どうして! うぅ……どうして」


 感情の処理ができず、泣き崩れてしまうホノカ。

 ポーラはそんなホノカに何か声をかけようと言葉を選ぶように口をパクパクとさせていたが、俺は「やめておけ」とポーラを止めた。


 多分、今はどんな言葉をかけても間違いになる。

 それだけは俺にもわかった。


「大丈夫かニコラ」


 仲間を短時間で2人も失い、それなりのショックを受けているであろうニコラウスにレオが確認するが、ニコラウスはいつもの笑顔のまま「うん」と返した。


「大丈夫。慣れているから」


 その言葉に、俺たちは誰1人として言葉を返せなかった。

 言葉の重みを感じたし、経験の差を実感させられた。

 それと覚悟の差も……


「とりあえず、この場にはまだ魔物がたくさんいる。みんな今は僕たちを警戒しているようだけど、すぐにでも攻撃を仕掛けてくるはずだよ。だからまずは……」


 この状況を生きて乗り越えよう。

 それが2人の為にもなるはずだ。


 ニコラウスは作った笑顔のまま、腰に据えてあった長剣を鞘から抜き取った。


【プロフィールファイル(5)】


【名前】ニコラ・スミス

【年齢】21歳

【身長】187センチ

【出身国】米国アメリカ

【職業】候補勇者 魔法使い役

【趣味】武器の開発と製造。仲間の武器も全部手作りなんだ。

【特技】想像。そのおかげで武器の開発ができているとも言えるね。

【チャームポイント】背の高さかな。

【将来の夢】武器職人ウェポンスミスに成ること

【勇者ルールに一言】俺は勇者ルールが憎くてたまらないよ。だって、勇者ルールさえなければみんなは死ななかったし、俺も悲しい思いをすることがなかったんだから。けど、勇者ルールがあったからこその出会いもあって、俺はその点では勇者ルールに感謝しているよ。勇者ルールは僕をアイツに合わせてくれた。それがあるからこそ今の俺がいるんだ。



検閲済  勇者認定課 勇者ルール管理担当 綾瀬優香

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