第50話:はぐれの少女
「こっちだ!」
突然方向転換をして民家と民家の間へと入っていくレオ。
俺は広場の方から音がしていたと思っていたが、今はレオを信じる方がいいだろう。
おとなしくレオのあとを追うと、立ち並ぶ民家の裏手あった広い空間へと抜けた。
四方を建物に囲まれ、袋小路となっている部分だ。
端的に言うと、そこは地獄絵図と呼ぶにふさわしい場所と化していた。
地面に転がる武装した小鬼と武装した人間の死骸の数々。
そこかしこに飛び散る内臓と血。肉片。小鬼の血はみんな赤色で、袋小路は人と小鬼の血によって真赤に染まっている。
そして、そんな地獄の中で1人の小さな女の子が剣と防具で武装した小鬼の集団と戦闘を繰り広げている。
腰ほどまで伸びる黒い髪をなびかせるその女の子は年齢的には7歳前後。
戦うにはあまりに向いていない年齢だろう。
けれど、そんな当たり前なんてクソくらえとでも言うように、幼い女の子は自分の背丈ほどの大きな長剣を振り回し、およそ7体の小鬼と互角に戦闘を繰り広げる。
首を狙って振り抜かれた剣を長剣の腹で去なし、その剣の下をかいくぐって小鬼の腹を柄で殴る。その勢いのまま背後に迫ったゴブリンへと視線を向けることなく剣を突き刺す。
すぐに剣を抜き、逆手のまま横薙ぎを繰り広げ、剣を振りかぶったまま近づいてきた小鬼2体を威嚇する。
見ただけでわかる。
目の前で複数対の小鬼を相手取る幼い少女は明らかに俺よりも強かった。
ただ、いくら俺より強いとはいえ、限度がある。
少女は幼く、身体的に未成熟だ。体力的にかなりきつそうだ。
涼しそうな顔で戦ってはいるものの、その額には汗が滲んでいる。
それに敵は複数体だ。
どうしても、少しずつ着実に押され始めてしまう。
「レオ!」
「分かってる!」
その様子を見てられなかった俺は、レオをつれて少女のもとへと駆けた。
「みんな! 構えて!」
背後からニコラウスが仲間たちに指示を出す声が聞こえる。
よし、だったら俺とレオがするべきことは女の子の保護であとはニコラウスたちに任せよう。
その方が確実だ。
「……あっ」
小鬼によって振り下ろされた剣を真正面から受け止めて弾き返した少女だが、落ちていた内臓を踏んでしまい足を滑らせる。
それによって体勢が崩れ、つい剣を放してしまう少女。
まるでその瞬間を狙っていたとでも言うように、5体のゴブリンが少女を殺すために剣を振り上げる。
「ケイタ! 任せる!」
「分かった!」
まぁ、こんな会話をしてたら普通は俺に倒せって言ってるように感じるだろうが、俺たちの場合はそうじゃない。
レオが俺に任せるっていう時は、自分がメインで戦うからサポートを任せるっていう意味になる。
今回で言うと少女の保護をまかせるってことだ。
とりあえず持っていた短剣を小鬼たちへ向けて投擲する。
すると、何も考えずに投げた短剣は偶然だけど1体のゴブリンの目へと深く突き刺さった。
俺が攻撃した奴とは別の1体の首を刎ね、残りの個体の注目を集めるレオ。
「ほら。大丈夫か」
その隙に少女に駆け寄り、手を差し伸べる。
「あ、ありがとう……ございます」
返り血を浴びて血まみれになった少女は少しだけ悩むそうな仕草を見せた後、俺の差し伸べた手をしっかりと握り、立ち上がる。
「よし、後は他の奴らがどうにかしてくれる。邪魔にならないように退くぞ」
頷き返してくれる少女の手を引き、カレンたちのもとへと向かう。
「ケイタ! しゃがんで!」
カレンに指示を出されて反射的に体が動く。
慌てて姿勢を低くしたところで、俺のすぐ頭上をバクの撃ち放った銃弾が通り過ぎた。
あっぶね!
何してんだよ!
もっと別の狙い方あっただろアホじゃねぇの!?
バクの放った銃弾は振り下ろす最中のレオの剣に当たり、進路を変えてレオのすぐ脇にいた小鬼の額を撃ち抜く。
そして、銃弾をぶつけられたレオの剣もまた進路を変え、1体のゴブリンの頭を裂き割る。
「レオくん動かないように」
ニコラウスから警告の言葉が飛び、レオの反応を待つことなく‘ぱしゅん’と言う間の抜けた音がする。
ニコラウスとホノカの撃った銃弾は違うことなく残りの2体の額を真ん中で撃ち抜き、「グエッ」なんていう醜く短い悲鳴を残しながら小鬼たちは崩れ落ちる。
こうして無事に戦闘が終わったわけだけど、いやはや、ニコラウス達は勇者らしくない戦い方をするとはいえ、その実力は確かだ。エグいほどに。
確実に狙った敵を撃ち抜いたニコラウスやホノカもエグいけど、銃に関してはバクが異常すぎる。
あんな跳弾を利用しての攻撃なんか狙ってできるものじゃないだろ普通。
もしあれを狙ってやってたんならニコラウス達の中で一番強いのはバクってことになるだろう。
それくらいヤバイ。
レオが他に敵が隠れたりしていないか辺りを調べ始める中、俺は少女を連れてカレン達の元へ向かっていたのだが、途中で少女が足を止め、動こうとしなくなった。
「どうしたんだ?」
「……」
「黙ってちゃ何も分からないぞ」
口を開けたり閉じたり、まるで言うか言うまいか悩んでいるみたいな態度の少女。
その様子があまりにももどかしくて、「言いたいことがあるなら言え」と、少し強めに言ってしまう。
しまったな。小さな女の子相手にはちょっとキツすぎる言い方だったか?
ただ、少女は俺のキツい言い草にビビったりなどはせず、むしろ俺の言葉に背を押されたって感じで少しだけ明るい表情になる。
なんか、変わった子だな。
「どうした?」
俺を見上げる少女に、今一度聞く。
すると、少女は真顔のまま言った。
「ねぇ、お名前は何て言うの?」
「……俺のか?」
「そう」
何でそんなこと知りたがるんだよ。
子供はよく分からんな。
俺もまだまだ子供だけど。
「俺はケイタだ。ニシゾノケイタ」
「ケイタは勇者さまなの?」
呼び捨てかよ。
まぁ、俺たちもニコラウス達のことを呼び捨てで呼んでるから人のこと言えないけど。
「いいや。俺は魔法使いだ。勇者はあいつだ」
レオを指差しながら言う。
ホノカも一応は勇者だけどその辺りはいいだろ別に。
俺の勇者はレオだし。
「へー。そうなんだ」
聞いといてその態度かよ。
「ケイタは魔法使いなんだ」
「だからそう言ってるだろ」
「じゃあ、パパと一緒だね」
……どういうことだ?
「おい。どういうことだよそれ」
中腰になり、少女に目線を合わせて少女の肩を掴みながら問う。
教えてくれと。何の話をしているんだと問う。
けど、少女は年相応ににぱぁと笑うと、俺の問いを無視して言った。
「私、ユミ。ミカドユミっていうの」
痛いから離してと顔をしかめながら言う少女。いや、ユミ。
家名はミカドというらしい。
その家名に聞き覚えはない。
「ケイタ。さっきはありがとう」
「別に、俺は何もしてねぇよ」
「けどありがとう」
ユミは中腰の俺にハグをして、「またね」と笑顔で手を振りながらカレン達のいる方へと走り去っていく。
うまく理由は語れないけれど、こう……本能的に、彼女には話を聞かなきゃいけないと思った。
礼儀正しくカレンやニコラウス達に「ありがとうございました」と頭をさげると、ユミはカレン達の間を通り抜けて民家の隙間から大きな道へと戻っていく。
俺は慌ててその背を追って走った。
「待ってくれ! 聞きたいことがある!」
ユミが民家と民家の間に入って道へと抜けていったすぐ後に、俺も同様に民家と民家の間を通って道へと飛び出る。
けど、その先にユミの姿はなかった。
念のため周辺から順に街を探し回ったが、その後ユミを見つけることはできなかった。
いわゆる忽然と姿を消したっていうやつだ。
ふと、脳裏に魔王軍幹部のウィーク・ドミネーターの名前がチラついた。
【用語データ(1)】
『魔物』:××と××と××と×××と×××が××で××した××××。××などの××のものは××で××とか××なものは××だったり××だったりする。これらが××されて××の××が××ないよう。倒されたら××して×××××ように×××いる。
『魔族』:魔物全般の総称。知能の有無は関係なし。
『魔王軍』:魔族の中で、魔王が管轄する軍隊の中に属するものをそう呼称する。
検閲済 勇者認定課 勇者ルール管理担当 綾瀬優香




