第49話:はぐれ
「なぁ、ニコラウス。基幹都市から楔国は距離で言えばどのくらいだ?」
「そうだね。距離で言えばおよそ4,000㎞かな」
…………は?
何だそれ。4,000㎞?
バカにしてるのかよ。
んなもん甘人の足だと歩いて2ヶ月だろ。
車を使ったとしてもかなりかかるはず。
こいつ、本当に車で楔国まで輸送されたのか?
どうも話にズレがある気がするな。
「およそって何だよ。正確に言え」
「本当に正確な距離ってのはわからないけど、そうだね、言われているのは4,320㎞だね」
4,320㎞って、2ヶ月どころじゃねぇ。
下手したら3ヶ月くらい歩き続けても到着しないぞ。
「ハッ! じゃあやっぱり、ここから50キロほど先に進んだ場所にあるあの街は……塀に囲まれていないむき出しの街は楔国なんかじゃねぇんだな」
「うん。そうなるね」
もし、レオの言った事が嘘なんかじゃないなら、塀に囲まれていない街がこの先にあることになる。
地図的には存在しない場所に街が存在していて、国という括りの外部で成り立っていることになる。
ふつうに考えて、今の時世ではまずありえないことだ。
1国1都市制度があり、実質的に街と国は同義だ。
いくら米国が数少ない例外国であるとはいえ、今の国や街のあり方として塀で街を取り囲んで魔族から身を守るっていうのは基礎中の基礎の話だ。
塀で守らない街は街じゃないと考えていいほどに。
けど、この先にあるという地図に存在しない街はその基礎がなっていない。
まるで魔物に襲われても構わないとでも言うように、塀を持っていない。
……異常だな。
「答えろよニコラウス。あの街は何だ? そもそも、あれは街なのか?」
先輩風を吹かせられると思ったのか、ニコラウスは目に見えて嬉しそうな表情になる。
なんか、この人ズレてるよな。
どうせレオに頼られて嬉しいとか思ってんだろ?
アホくせぇ。
「そうだね。レオくんたちはまだアレを知らないよね」
ほら。嬉しそうに言いやがる。
いいから早く説明してくれよ。俺も気になってんだ。
「じゃあ、レオくんが見た街について説明をするためにもまずはそこまで進んでみようか。実際にそこまで行って説明したほうが早いしね」
いや、お預けかよふざけんな。
_____
休憩をすることなく多少の無理をしながら歩き続けた俺たちは、日が落ち始めた頃にレオが見たという塀のない街に辿り着いた。
遮蔽物のない草原に忽然と現れたあるはずのない街。
俺たちの故郷であるオリジンやラスベガスと比べるとかなり小さな街で、建物も全部で17個しかない。民家が10、協会が1、その他の建物が6といった感じだ。
よく見ると街の中央には噴水があるし、その周辺は広場みたいになってるな。
あ、あと隅の方に公園もある。
なんか、思っていたよりもちゃんと街だ。
この街に塀がないとかレオは言っていたが、それは完全な語弊と言うやつだった。
なにせ、その街には塀がない代わりに堀があった。
高くそびえる塀がない代わりに、街を取り囲むように底が見えないほど深く掘られた堀があった。
形は違えど用途は同じで、敵から身を守るためのものだ。
ただ、街を堀で守るなんて話は聞いたことがなくて、初めて見る光景に俺は開いた口が塞がらなかった。
「塀がなくても十分じゃねぇかよ」
何気なく呟くと、レオが睨みつけてきた。
「何だよ」
「いくら堀があるとはいえ塀と比べたら防御力が致命的に低い。こんなもの、竜種にでも狙ってくれって言ってるようなもんだろ」
そんなことも分からねぇのかと毒づいてくるレオ。
だから何でそんなに機嫌が悪いんだよコイツ。
「んなことは分かってるさ。けど、竜種はそんなに居るわけじゃないだろ。現に俺たちは襲撃事件で小竜の大群と邪竜事象を見ただけでそこからは一度も遭遇していない」
「だーかーら! ……ぁぁぁああああああもう! 知らねぇ!」
勝手に怒り、騒ぐレオ。
本当、何でコイツがこんなんなのかよく分からん。
機嫌が悪いのはいいけど俺に当たんなよ。
「で、ニコラウス。あの街は何なんだ?」
そっぽを向くレオを無視してニコラウスに問う。
「うん。あれはね、‘はぐれ’だよ」
「……はぐれ?」
うん。知らね。なにそれ。
どっかの大魔法使い様からも聞いたことないな。
「はぐれはね、どこの国にも属していない街とかそこに住む人々を指す言葉なんだ」
「あ、あそこに、人が住んでいるんですか?」
自分の親が統治する国の領土に存在しないはずの街があり、そこに人が暮らして居ると言われ、ポーラは食い気味に聞いた。
ニコラウスは一呼吸おいて心地よく感じる間で「うん」と返答をする。
その返答に、ポーラは少しだけ考えるような複雑な表情になる。
ポーラは国王の娘だからな。
きっと、これまでポーラは後継ぎのために色々と国の事情を教え込まれていたはずだ。
自分の統治する国はここからここまでを領土としていて、これだけの国民が生活をしている。
内在する5つの国はそれぞれがこんな特徴を持っていて、こう言った役割を国の中では果たしている。
まぁ、どうせそんな感じで色々と教え込まれたんだろ。詳しくは知らんけど。
けど、たった今ポーラがこれまで学んできた物事の信ぴょう性が薄れたのは確かだ。
地図に無く、一般的な教養でも教えられていない国の抱える街以外の街。
その存在のせいで、ポーラは教えられるべきことを教えられていないことになる。
さて。これは一体どういうことなのか。
単純にポーラの教育が追いついていないって事なのか、それとも情報制限がされているって事なのか。
もし後者なら……。
「レオくんも気になっていただろうから話させてもらうね」
「あ? なにがだよ」
「あの街の……はぐれの安全性についてだよ」
堀に沿って歩き出すニコラウス。
俺たちは、ニコラウスの話を聞くためにもそのあとを追う。
「はぐれっていうのはね、かつての候補勇者やその子孫が暮らす街なんだ。正確には、かつての候補勇者が魔王討伐を諦めて、安全な生活を望んで作った街なんだよ。だから、基本的に暮らす人々は全員戦う事ができる。で、全員戦うことができる以上はそれなりに安全ってことになる」
「あ? 戦う事ができるってどの程度だよ」
「そりゃあ、一番強い人たちだと魔王軍の幹部くらいかな。弱い方の人たちでも僕達よりは強いはずだよ」
「ハッ。そりゃ楽しみだな」
いつもよりつまらなさそうに犬歯をチラつかせて笑うレオ。
なんか、憂さ晴らしに潰してやろうって考えてる感じだな。
やめとけよ。お前は候補勇者だろ。
「せっかくだから今日はこのはぐれで夜を越えようか」
風呂にも入れるし飯も手に入ると言われ、俺たちはニコラウスの提案に安易に乗る事にした。
そして、塀の一部にかけられた橋を見つけて街の中へと入ろうとしたところで、カレンが何かに気づいた。
「待って。様子がおかしいわ」
そして、カレンの補足をするようにホノカが言う。
「人の姿が見えない」
なんか、この2人は結構息があうみたいだし、姉妹みたいに見えるな。
ともあれ、橋を渡ってすぐの街の入り口で立ち止まり、街を見回してみると確かにホノカの言う通り人の姿が全くと言っていいほど見当たらない。
少し、嫌な予感がする。
「なぁ。はぐれってこんなに人気がないものなのか?」
「いや、そんなハズはないよ。少なくとも民家1つに5人は住んでいるだろうし、民宿の運営をしている人もいるわけだからこの街には最低でも60人近くが住んでいるはずだ。それに今は夕暮れ時だから住んでいる人たちは外で呑んだり談笑したりしているハズだ」
「じゃあ、こんだけ静かで人気がないってのは異常って事か」
「いや、静かじゃねぇ」
ニコラウスに確認した俺を否定し、レオが喋るなと人差し指を自身の唇に当てる形で「静かにしろ」のジェスチャーをしてくる。
レオのその表情があまりにも真剣で、邪竜事象と戦った時と同じ顔をしていたものだから俺は素直に黙り、息を潜めた。
「剣戟の音だ」
それだけ言い残し、レオは腰に据えた支給品の剣を鞘から抜き取りながら走り出す。
俺たちも慌てて武器を手に取り、レオの後を追う。
堀に周囲を囲まれた円状の土地。
橋を渡ったすぐの位置から街の中央へと伸びる比較的に広い幅の道。
その道をまっすぐに駆けて行き、街の中央にある広場へと近づくにつれて剣戟の音は確かに聞こえ出し、大きなものへと変化していった。
【プロフィールファイル(4)】
【名前】ポーラ・アクター
【年齢】14歳
【身長】154センチ
【出身国】米国
【職業】××××と治療師
【趣味】×××集めと香水集めです。お気に入りはアリスに10歳の誕生日にもらった金木犀の香水です。
【特技】とくにないです。
【チャームポイント】とくにないです。
【将来の夢】普通の女の子みたいに素敵な恋をすること。
【勇者ルールに一言】語るべき時が来たら語ります。
検閲済 勇者認定課 勇者ルール管理担当 綾瀬優香




