第47話:先輩の昔話
大量のゴブリンの死体を1箇所にまとめて可能な限り積み重ね、俺たちは開けたその場所で少し早めの休憩を取ることにした。
出発からはまだそんなに経っていないし休憩をする必要はなかったのだが、ニコラウスの昔話を聞く為にこの場で休憩にしようという話になった。
赤や緑、茶褐色などの様々な血が背丈の低い雑草や地面に染みつき、鼻が曲がりそうなほど臭う森の中の開けた空間。
そこで話を始めるニコラウスを取り囲むように、俺たちは半円状に腰を下ろした。
「さて、じゃあ昔話をしようか」
これは俺が米国の候補勇者として旅立ってすぐの……2年前の話だ。
ニコラウスはそんな切り口で話を始めた。
「僕たちは恵まれていて、これといった問題が起きることなく、無事に門出の儀を終えたんだ。で、その翌日にはトリガーまで車で運んでもらえて、そこから通常通りのスタートを切ることができたんだ。あの頃はまだバクよりも髪の毛が長かったなぁ」
少し軽い調子で懐かしむような事を言っているが、それが強がりというか、気を紛らわせる為の声の調子であることはすぐに分かった。
なにせ、ニコラウスはその顔に笑顔を貼り付けたままでいるものの目が笑っていない。
「最初はすごく調子が良かったんだ。僕は魔法使い役だったけど、勇者役の男の子と剣士役の女の子がすごく強くてね。僕……あ、俺と治療師役の女の子は戦える2人に守られながら旅をしてたんだ」
……なんか、どこかで聞いたことあるような話だな。
「でもね、旅を進めるにつれて少しずつ強い敵が出てくるようになったんだ。それで、確か船で中国へと渡った頃だったかな。あぁそうだ。中国に渡ってモンゴルの都市に向かう途中の話だ。旅立ちからは実に2ヶ月くらいだったかな。そこで僕は2人の仲間を失った」
仲間を失ったという言葉に、3馬鹿が唾を飲む。
「まず失ったのは治療師の女の子だった。荒野で突然魔物の大群に遭遇して、迫り来る魔物にいつも通り戦える2人が前衛として立ち向かっていった。そして、俺と治療師の女の子は2人の戦いをただ何もできずに見守っていた。その時だった。背後から近寄ってきたゴブリンにあの子は槍で貫かれた。俺の真隣で、喉を後ろから突き刺された」
思わず、俺も唾を飲んでしまう。
自分がそれを実際に体験したわけでもないのに、喉の奥の方が、喉仏の裏あたりが常温よりも少しばかり高い熱を持っているように感じ、イガイガする。
その影響なのか喉のあたりに変に力が入り、顎関節のあたりの筋肉にまで緊張が伝播し、耳の付け根のあたりが攣ったように痛くなる。
「そのすぐ後、仲間が1人やられたと気付いた剣士の女の子が動揺し、その隙を狙われてゴブリンたちに取り押さえられ、嬲り殺された。服を剥がれ、武器を奪われ、俺と勇者の前でひたすら残虐に殺された。悔しいことに、僕も勇者役の男の子も剣士の女の子を助けられるほど強くはなかった。相手は大隊規模の数で、それらを相手に女の子を助け出し、生き延びることなんて出来そうにもなかった」
だから俺と勇者の男の子は2人で死に物狂いで逃げた。
その時はまだ剣士の女の子は生きていたけれど、そんなことに構うことなく俺たちは逃げた。
そうじゃなきゃ全滅していたから。
罪を吐き出すニコラウスに、レオが少しだけ顔に怒りを浮かべる。
多分、そんなのは勇者がとるべき選択じゃないとか思ってるんだろ。
わかる。わかるぞレオ。
けど、俺はニコラウスの側の気持ちもわかってしまう。
仲間が大切だけど死ぬのが怖い。このままだと自分まで死んでしまう。
けど、逃げればまだ助かるかもしれない。
だとしたら、逃げずに立ち向かうのはもう愚行というものだろう。
だからきっとニコラウスは逃げたんだ。
生き物としての正義である生存本能みたいなものに突き動かされ、助けなきゃとは思いつつも勇者の男と一緒に逃げたんだろう。
レオとニコラウス。どちらの考えも正解で人間なら抱いて当然な考えだと思う。
「それからモンゴルに行くことを諦めた俺と勇者の男の子は中国に向かい、新しい仲間を集めた」
「新しい仲間?」
怪訝な様子のレオの言葉にニコラウスは頷く。
「僕た……俺たちと同じように仲間を失った候補勇者を探したんだ」
「で、どうなったんだ?」
まぁどうせ仲間が見つかったんだろう。そうじゃないと今ここにはいないもんな。
そんな考察を胸の内に収めたまま、話のテンポを心地よくするために会話に合いの手をいれる。
「もちろん見つかったよ。俺たちと同じように仲間を魔族に殺された候補勇者がね。それもたくさんだ」
「具体的には?」
たくさんとかいうくらいなんだから10人とかそのくらいだろ。
単純計算だと全世界で毎年80人の候補勇者が旅に出ることになるんだから、その中でと考えたら10人がせいぜいだ。
「43人だった」
…………は?
「……は?」
また心の声が漏れ出ていた。
「そう驚くことでもないよ。ぼ……俺が聞いた限り、旅に出る候補勇者は毎年20の国でそれぞれ4人ずつの計80人だけど、その中のメンバー全員が生き残っている国は実に5つもないらしい。それも、旅立ってから1ヶ月後の話だ」
1年という単位になると、基本的にすべての国の候補勇者が誰かしら死んでいる。
全員が生きたまま1年が経過することは数年に1回あったらいい方だ。
そんな聞きたくもない補足をニコラウスがしてくれる。
もしニコラウスの話が正しいなら、俺たちの中の誰かしらはそう遠くないうちに死ぬことになる。
……もしかしたら、誰かなんて甘い話はなく全員かもしれない。
「それで、仲間が見つかって再びチームを結成して旅に出たんだけど、そのすぐひと月後には新しく仲間になったうちの片方が命を落とした。さらにそれから毎月に1人のペースで仲間を補充していったけど、それと同じように毎月1人のペースで誰かしらが脱落していった。幸いと言っていいのかはわからないけど、俺と勇者役の男の子だけは死なずに済んでいた」
自分と勇者役のやつだけは死なずに済んでいた……ね。
じゃあ、その勇者役の少年はどこに居るんだよ。
少なくとも俺たちの目の前にいるお前の仲間の中には勇者役の少年なんかいないじゃねぇかよ。
ふと、ニコラウスと目が合う。
限りなく黒に近いヴァイオレットが混ざったような色合いのニコラウスの瞳。
その瞳は静かに揺れている。
動揺している証拠だ。
「つい3ヶ月ほど前かな。いや、もう少し前か。ぼ……俺が楔国から旅立って1年と半年くらいが経った時、勇者役をやっていた同郷の少年は死んだ。俺をかばって死んだんだ」
死んだんだ。俺をかばって。死んだんだ。
そうやって何度も何度も尻すぼみになりながら呟くニコラウスにホノカが優しく声をかける。
「もういいから。座って。体力を回復しないと」
「……うん。そうだね」
ありがとうと言い足し、ニコラウスは腰を下ろす。
「今ここにいる私たち4人、ニコラ、私、バク、キャロルはみんな、それぞれ理由があって仲間を失っているの。それで、みんながみんな1人ぼっちになってたところで知り合って、仲間になったのよ」
だから、今のこの4人は誰1人として同じ国出身じゃないの。
と、しんみりとした様子でいうホノカの言葉をレオが「ハッ」と笑い飛ばす。
「お前らがみんな弱くて、全員仲間を失ってるのはわかった」
「ちょっとレオ!」
レオの頭に、カレンがすかさずゲンコツを落とす。
いつもならそこでギャーギャーと言い合いを始めるが、レオはカレンにゲンコツを落とされても気にすることなく話し続けた。
「そうやって仲間を失ったことと勇者の誇りを殺したような戦い方をすることに何の関係があんだよ。あんたは言ったよな? これがたどり着いた答えだって。その説明をしろよ」
あぁ。確かに言われてみれば。
ニコラウスはこれまでの話をしたものの、どうして冒険者みたいな戦い方をするようになったのかの説明をしてないな。
正直、予想はつくから話をしてもらわなくても大丈夫だけど。
「ごめんごめん。そういえばそんな話だったね」
「そんな話ってテメェ!」
カレンの制止を振り切ってニコラウスに掴みかかるレオ。
なんか、こいついつもよりも積極的に突っ掛かりに行ってるな。
レオが突然よくわからないタイミングでキレたことにニコラウスの仲間やカレン、ポーラが動揺する中、ニコラウスは作ったような気持ち悪い笑顔のまま、真面目な調子の声でレオに言う。
「もう誰も失わない為には、ああいう戦い方をするしかないんだ。殺傷力の高い武器に頼っただけの弱々しい戦い方をするしかないんだよ」
まぁ、どうせそんな事だろうと思ってた。
仲間を失わない為には仲間を危険から遠ざけて戦うのが手っ取り早いもんな。
ただ、レオは相変わらず納得できていないようで、
「……くそっ! そんなの……俺は認めねぇぞ」
それだけ吐き捨てて荷物を持ち、森の中へと入って行ってしまった。
まったく。何をそんなに怒っているんだか。
「じゃあ、もう十分休んだだろうし、僕たちも行こうか」
そんなに時間は経っていなかったが、そもそも休むほど疲れてもいなかった俺たちは素直にニコラウスの提案に賛成した。
そして、なんだかんだで目指すべき方角へ進んでいったレオの背を追うように、俺たちも開けた場所から再び森の中へと足を踏み入れた。
【プロフィールファイル(2)】
【名前】レオ・ガラード
【年齢】17歳
【身長】185センチ
【出身国】米国
【職業】勇者
【趣味】ゲーム(××××××)
【特技】体を動かす事
【チャームポイント】赤い髪
【将来の夢】××××××勇者
【勇者ルールに一言】よくわからないけど、××がかつて×××××から、俺も××する×××××な××になりたい。××は×××、これといって××がなかったけど××だけで××××××。けど、××はまだ×が×××に××になって家から出て行って、長い間帰ってくる事がなかった。×が少しだけ××した頃、××は××××を××て帰ってきた。それが何故なのか××は×××××××××けど、××は××が立派に××を××したと言っていた。その意味はわからなかった。そんな××が俺の×××に合わせて×××××を送ってくれた。それが俺の××になるはずだと、俺に×××××を送ってくれた。それと、1つの剣を与えてくれた。親父はそれを義剣だといった。その剣はかつて××が××になったときに使っていたものらしい。だから、俺もその剣を使って××と同じ××なる××になると決めた。
検閲済 勇者認定課 勇者ルール管理担当 綾瀬優香




