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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 第4章 LasVegas編

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第43話:主人公と脇役


 レオを待っていると扉の外側から言い争うような声が聞こえてきた。

 耳を澄ませて聞いてみると、言い争うような声はレオとカレンのものだった。


「……めずらしいな」


 あの2人はかなり仲がいい。だからいちゃつく事はあっても言い争う事はまずない。

 多分、何かがあったんだろう。


 様子を見に行こうとソファから立ち上がったところで、部屋の扉が勢い良く開かれた。


「あ? どうしたんだよ。トイレか?」


 少しだけむすっとした表情で、扉を開けるために使ったであろう持ち上げた状態の足を下ろすレオ。

 レオは右手に氷の入ったグラスを2つ持っていて、左手には抱えるようにホットドックだとかチーズだとかの食べ物をたくさん持っている。


 こいつ、多分だけどキッチンにあった食材の3割くらいは持ってきたんじゃ無いか?


「違ぇよ。廊下からお前とカレンが言い争う声が聞こえてきたから様子を見に行こうと思っただけだ」


「別に言い争ってねぇよ」


 レオは吐き捨てるように言うと、向かい合う1人掛けソファの間に置かれた丸テーブルへと持ってきた食べ物を置き、最後に2つのグラスを叩きつけるように置いた。

 よくわかんないけど機嫌が悪いんだな。


「何があった?」


 ソファに座りなおしながら何てことなしに聞く。


「いや、あいつ等にも食べ物を持って行ってやったんだよ」


「それだけで言い争いになったのか?」


「だから言い争ってねぇって。両手が塞がってたからノックもできなくて、まぁいいかって思ってそのまま足であいつ等の部屋の扉を開けたんだよ。そしたらタイミングが悪くてさ、2人がちょうど着替えをしてたんだ」


「あー。そりゃ怒られるな」


 つーか、何でそんなラッキースケベに遭遇してんだよお前。


「そうそう。で、俺はカレンに怒られたわけだ。ノックもできないのかってな」


「両手が塞がってたって説明したのか?」


「もちろんしたさ。そしたら、両手が塞がってても足があるだろって頬をつねられた」


 下を出して少しだけ変顔をしながら、レオはわざとらしく頬をさすってみせる。

 しかも両頬だ。


「両方の頬をつねられたのか?」


「ああ。俺の両手が塞がってるのをいいことに両頬をつねって怒鳴ってきやがった」


「まぁ、仕方ないな」


 そのくせしっかりと食べ物だけは貰って行きやがったなんて愚痴を零しながら、部屋の奥にある瓶が並べられた棚へ歩み寄るレオ。

 レオはジロジロと棚に置かれたビン達を眺め、その中の一つを手に取るとドサッと勢い良く俺の向かい側にあるソファに腰掛けた。


「なんだよそれ」


 レオが棚から持ってきたビンを指差し、聞く。

 そのビンには7割ぐらいの位置まで琥珀色の液体が入っていた。


「知らね。でもまぁ酒だろ」


「…………は?! 酒?!」


「酒だ」


「酒だってお前……」


「いいじゃねぇかよ。スティーヴの秘書だって飲んでいいって言ってたろ」


 かつて西暦の時代では、酒を飲むのは大人だけみたいな決まりがあったそうだ。

 その詳しいルールは国によって違ったそうだが、大体の国が大人になるまでは酒を飲んだらダメだと定めていたらしい。

 ただ、今となってはそんなルールは存在しない。

 西暦が幕を閉じ、人類史が壊滅した今の時代には旧時代のルールなんて残ってはいない。

 それに大人の明確な区分なんてものもなくなったわけだし、今は具体的にどの年齢になるまで酒を飲んだらダメなんて決め事は無い。


 だから別に16歳の俺や17歳のレオが酒を飲んだところでなんの問題も無い。

 けど、なんかよく分からないけど酒を飲むことは良く無いことだと感じてしまう。


「いや、そうは言ってたけどさ……飲むのか?」


「そのためにグラスを持ってきたんだ。ほら、お前も飲むぞ」


 いやいやいや、勝手に決めるなよ。

 正直言ってあんまり飲みたく無いし。


 俺が他の同年代の奴らよりも旧時代の……西暦のものに触れる機会が多かったからこその感覚かもしれないが、どうしても16なんて大人になれていない年齢で酒を飲むことに抵抗がある。

 なんて俺が渋っている間に、


「ほら。飲め」


 レオは2つのグラスにビンの中に入っていた琥珀色の液体をドバドバを注ぎ込み、片方を渡してきた。


「けど……」


「いいから受け取れ。これからお前の聞きたがってた話をしてやるんだから」


 ……クソ。そんなこと言われたら受け取らないわけにはいかないじゃないかよ。 

 レオが言う俺の聞きたがってた話って絶対にあれだろ……強くなる方法についてだろ。


「……わかったよ。飲めばいいんだろ」


「ああそうだ。飲めよ。それを一気にグイッと飲め」


 レオからグラスを受け取り、揺れる琥珀色の液体を眺める。

 特になんの変哲も無い変な液体だとしか思わなかった。


 グラスに鼻を近づけて匂いを嗅いでみると、どこかで嗅いだ気がするような、でもよく分からない感じの匂いがした。

 まぁつまりは嗅いだことが無いキツい香りがしたってことだ。


「ほら。早く」


 生唾を飲みながらグラスの中身を見つめ続ける俺をレオが急かしてくる。

 早く飲め早く飲めと、俺の背を変に押してくる。


「クソッ」


 もう、なるようになれ!

 

 そんなことを思いながら、グラスの中身を可能な限り多く口に含む。

 そして、味を感じようと味覚に思考を集中させたところで、俺は口に含んだ琥珀色の液体を吹き出しそうになってしまった。

 理由は単純で、ものすごく不味かったからだ。


 吹き出してしまわないように両手で口を押さえ、鼻で呼吸をしないようにして息を止めた状態のまま口の中に含んだ琥珀色の液体を少しずつ確実に喉に流し込んでいく。

 香木を齧ってるんじゃないかって錯覚をするほど独特な植物のキツい匂いが鼻の奥を撫でてきて、それに伴って樹液でも啜ってるのかって感じのイガイガした刺激が喉を襲う。


 不味い。端的に言って不味い。とにかく不味い。それに匂いもキツイ。


「どうだ?」


 悪い笑みを浮かべながら嬉しそうに聞いてくるレオ。

 つーかなんて表情してやがんだお前。嬉しそうに悪い笑みを浮かべるとかもう悪役にしかできない芸当だろそれ。

 お前まじで魔族なんじゃねぇの本当は。

 今だって絶対この液体が不味いってわかってて飲ませただろ。


「不味い」


 嘔吐えずきながら苦し紛れに言うと、レオは楽しそうにゲラゲラ笑ってきた。

 ほらやっぱり不味いってわかってて飲ませてきたんじゃねぇかよ。

 何なんお前。


「アッハハハハ! お前、それが旨いと思えねぇようじゃあまだまだガキだな」


 じゃあお前はどうなんだよって言おうとしてレオへと視線を向けると、レオはごくごく普通に、クソ不味い琥珀色の液体を飲んでいた。

 むしろ美味そうに飲んでるレベルだ。

 ……何でだよ。


「お前、よくそんなもの飲めるな」


「慣れだ慣れ。慣れれば美味く感じる」


「そういうものなのか」


「そういうものだ」


 それからしばらく、俺はレオが語る酒の話を聞かされた。

 どうやら俺が飲まされたのはウィスキーと言う酒らしい。

 俺は詳しく無いし興味も無いから全然話の内容が理解できなかったけど、何でも西暦の時代から残っているかなり古典的な酒だそうだ。


「つーか、何でお前は酒を飲み慣れてんだよ」


「んなもん慣れるくらい飲んだからに決まってんだろ」


「いや、そうだけど……」


 レオがバカだということを改めて認識したところで、俺は有耶無耶なまま無かったことにされないよう、話を自分の望む方向へと強引に引き寄せた。


「それよりも本題に入ろう」


「あ? 本題って何だよ」


「強くなる方法を教えてくれ」


 真面目な顔で話を切り出すと、レオはわかりやすく嫌そうな顔をしながらキッチンから持ってきたホットドックにかぶりついた。

 ホットドックに塗られたマスタードとケチャプの匂いがうっすらとだけど俺の元にまで届いてきて、俺の意思とは関係なく腹が鳴る。


 とりあえず手近な位置にあったハンバーガーを手に取り、レオを真似てかぶりつく。

 ウィスキーとは大違いでハンバーガーは旨かった。けど冷めてた。


「ケイタはさ、何でそんなに強くなりてぇんだよ」


「さっきも言ったろ。足手まといのままは嫌なんだ」


「違う違う、そうじゃねぇ」


 やれやれとわざとらしくアメリカンなジェスチャーを取りながら、レオは言った。


「お前は魔法使いとして強くなりてぇのか? それとも、人として強くなりてぇのか?」


「それは……」


 思わず、言葉が詰まってしまった。

 戦い方を知りたいとは思っているし、強くなりたいとも思っている。けど、どの立場としての戦い方を知りたいのか、どの立場としての強さを手に入れたいのか、俺はそれを自分で理解できていない。

 だからこそ言葉に詰まった。


 答えることもせず固まる俺を見てレオは鼻で笑う。


「じゃあいいや。お前が何としての強さを欲しがってるのかは分からねぇけど、全てにおいて共通して聞かなきゃならない質問があるからそれをするぜ」


「質問?」


「ああ。強さを欲しがる人間に絶対にしなきゃならない質問だ


「何だよそれ」


「お前は死にたいと思ってるのか? それとも、死にたくないと思ってるのか?」


「は?」


「いいから答えろよ」


 ホットドックを食べ終え、手近にあったチーズの塊を掴み取って齧りながら「早く言え」とレオが目配せをしてくる。


「死にたくないに決まってるだろ」


「何があってもか?」


「何があってもだ」


「じゃあ、魔王を倒したいって思いと死にたくないって思いはどっちが強い?」


「死にたくないって思いだ」


「そうか」


 なら大丈夫だとレオは言う。

 けど、俺は何が大丈夫なのかわからない。


「何が言いたいんだよレオ」


「別に。ただ、死にたくないっていう思いが強くなるには必要だから、それがお前にあるのかを確認したかっただけだ」


「……なんだよそれ」


 どういうことだよ。お前は何を言ってんだよ。

 なんで、お前はそんな答えを知っている感じなんだよ。

 お前は何を知ってるんだよ。俺は何も知らないというのに。


「そう睨むなよ」


 指摘されて初めて気がついた。

 俺は知らないうちにレオを睨みつけていたようだ。


「……すまん」


「気にすんな」


 ガツガツと食べ物を食べ、ガブガブとウィスキーを飲むレオ。

 俺はそんなレオの様子を眺めながら、レオの言葉の意味を考えることしかできなかった。

 けど、どれだけ考えてもレオが俺に向けて投げた言葉の意味なんかわかりやしない。


「お前は大丈夫だ」


 持ってきた食べ物を全て食べ終えると、レオが言い聞かせるように言ってきた。


「何が大丈夫なんだよ」


「お前は死にたくないっていう思いを持ってる。それはつまり、強くなる素質があるってことだ」


「……もっとわかりやすく言ってくれ」


「お前はすぐにでも強くなるって言ってんだよ」


 ニッと笑うレオの顔を見て、俺は思い出した。

 そういえばケビンにも同じようなことを言われていたんだと思い出した。


「生きることに執着するやつは強くなれる。だから生きることに執着しろ。醜く縋れ。依存しろ。そうすれば世界はお前の味方をしてくれる。お前は強くなれる。だから死にたくないって願って、その感情を信じろ」


 あのひと月の間にケビンが何度か俺に言っていた言葉だ。

 そのことを思い出し、俺は悟ってしまう。


 ああ。自分は主人公ゆうしゃにはなれないのか。

 

 そう気づいてしまう。



 どこまで進もうと、俺は物語の脇役まほうつかいのままのようだ。

 それすらも未熟ではあるけれど……。


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