第41話:入浴
2段ベッドの下段で目が覚めると窓から差し込む陽の光は一層弱いものへと変わっていて、その色合いは黄色がかった白から朱になっていた。
俺たちがスティーヴの屋敷に案内されたのが午前の11時頃で、俺とレオは部屋に案内されるなりすぐに眠る事にした。
疲れがたまっていたから俺たちはとにかく疲れを取りたかった。
だから眠る事にしたんだ。
陽の色合いと沈み方から見ると、今は夕方の4時過ぎ頃だと思う。
……いや、普通に扉の近くに壁掛けの時計が取り付けられているな。
そんな事にも気付けないくらい疲れていたのか。
見ると、装飾の施されていない質素な壁掛け時計は4時半を示していた。当然夕方だ。
俺はどうやら5時間ほど眠っていたようだ。
レオはまだ寝ているのか?
2段ベッドの上段に上がる梯子に手をかけ、ふと思いとどまる。
変に寝ているか起きているかを確認してそれで起こしてしまったら申し訳ないな。
「風呂にでも行くか」
部屋の棚を幾つか漁り、見つけた大きめのタオルと部屋着みたいな奴を手に部屋を出る。
陽の差し込む位置に部屋があるからなのかもしれないけれど、屋敷の廊下に窓はほとんどなかった。
あっても外の景色が見えるだけで陽の光などほとんど射さない。
そのため、屋敷内は変に薄暗く、まだ夜ではないというのに室内灯が点けられていた。
「なんか嫌な感じがするな」
室内灯は暖色ではなく寒色のもので、その影響もあってなのか屋敷内はちょっと気味が悪かった。
別にビビる必要はないけど変にビビりながら恐る恐る廊下を進んで行き、一階に降りてリビングの向かい側にある風呂場へと入る。
そして、絶句した。
「マジかよ。男女共用かよ」
脱衣所から風呂場へ入るための扉が一つしかない。そう。男女共用なのだ。
秘書は間違いが起きないようにとか言って男女の部屋を分けてくれたのだが、風呂場はまさかの男女共用だった。
いや、そここそ男女分けろよって思ったけど、ここはスティーヴの屋敷だ。
言ってしまえば普通の民家なんだから、風呂場が男女で分けられているはずがない。
まぁ、仕方がないかと思い、脱衣所に入って女子が入ってこれないように部屋の鍵を閉める。
「あぁ〜。久しぶりの風呂だなぁ」
なんて呟きながら服を脱いだところで俺は固まった。
そういえば、脱衣所の室内灯が最初から点けられていたぞと気付いたからだ。
さらに見ると風呂の灯りも付いていて、中からパチャパチャと言う水の打つ音が聞こえてくる。
しまった。やってしまった。
風呂に入っているのが誰かわからないけど、もしも女子のどっちかだった場合は最悪だ。
よし、ここは一旦服を着て何事もなかったかのように脱衣所から出て行こう。
脱いだ服を慌てて着直し、脱衣所から出ようと鍵を開けた瞬間、‘ガチャリ’と、びっくりするくらい大きな音が響いた。
それに気づいたように、少し前まで聞こえてきていた水の打つ音が静かになる。
あーもうなんでだよ!
なんで鍵閉める時は音が全然鳴らなかったのに開ける時は鳴るんだ!
タイミングを考えろよ!
やり場のない怒りにイライラしていると、風呂の中から声がかけられた。
「誰だ」
威圧的ではあるが男らしいその声を聞いて安心した。
風呂に入っていたのはレオだった。
なんだよ。コイツもう起きてたのか。
「俺だ」
「なんだケイタかよ」
「俺で悪かったな」
「誰もそんな事言ってねぇだろ」
安心して服を脱ぎ、風呂場に入ると「おぉ〜」と言う感嘆の声を思わず零してしまった。
「スゲェよな。この屋敷、部屋とか普通だしサイズ自体も屋敷っていうには小さいくせに、風呂だけは立派なんだぜ?」
湯船に浸かったまま、客室よりも広い風呂場を見回しながらレオは「呆れるよな」と苦笑いした。
浴槽は一般民家にあるような浴槽と比べ物にならないほど大きく、それこそ10人近くが同時に入れるんじゃないかってほどだった。
嘘。盛った。多分10人で入ったらキツイ。
シャワーも3つ取り付けられていて、そんなに要らねぇだろって感じだ。
「言われてみれば、脱衣所とかも結構広かったよな」
「な! 普通の民家にしてはなんか不必要だろって思うよな」
「あんなに脱いだ服入れるカゴとか要らねぇだろ」
「それな。何人で同時に風呂はいるんだっつう話だ」
ケラケラと笑うレオに「確かになー」と適当な相槌を返し、頭や体をささっと洗って湯船に浸かる。
こう……上手く言えないけど久しぶりに入る風呂はものすごく気持ち良かった。
上手く言えないけど温かいし、上手く言えないけど凝り固まった筋肉が解れてるって感じがするし、上手く言えないけど血が巡って体が元気になってるって感じがするし、上手く言えないけど物凄く眠くなってきた。上手く言えないけど。
レオと向かい合うように湯に浸かり、口を開けて惚けるように天井を見る俺にレオが「なぁ」と声をかけてくる。
「なんだよ」
「正直なところさ、お前は魔王を倒せるって思ってんのか」
「思ってるわけないだろ。俺たち程度の強さで倒せるはずがない」
幹部を名乗るウィークにすら勝てなかったんだ。
あのケビンでさえウィークを倒すには至らなかった。
それはケビンでさえ魔王を倒せない事を意味するわけだし、だとしたらケビンよりもはるかに弱い俺たちが魔王を倒すなんて出来るはずがない。
そもそも……
「ケイタはさ、魔王ってどんな姿してると思う?」
「知らねぇよそんなの。見た事ないんだ」
「だよな」
そもそも俺たちは魔王がどんな存在なのか詳しい事は何も知らない。
かつて天撃があった後にハイエナのようにやってきて俺たち人類を壊滅に導いた。
そのくらいしか知らない。
どんな姿をしていて、どんな力でどうやって人類を追い込んだのか。
そういった重要な話を俺たちは知らない。
8年に及ぶ学校教育で学ぶのは魔王と言う最大の敵がいて、そいつのせいで俺たち人類が苦しめられている。だから魔王を倒さなければならない。魔王は魔族を統べる王で、中でも優れた魔族を魔王軍として手元に置いている。そんな程度の事だ。
詳しい事なんて何も教えられていない。
自分の意思で知ろうとしても、情報源が俺たちの身近には無かった。
だから魔王を倒そうにも、そもそも魔王の元にたどり着けない。
その過程の正解を知らないから魔王なんか倒せるはずがない。
「レオは魔王を倒せると思ってるのか」
何気なしに聞き返すと、レオは犬歯をチラつかせたいつもの獰猛な笑みで答えた。
「当たり前だろ。俺が魔王を倒せないわけがない」
まぁ、問題は魔王に会えるかどうかだけどなとレオは笑う。
本当、お前のその余裕と自信はどこから湧いてくるんだか。
……気になるな。どうしてそんなに自信があるのか、その根拠が気になる。
それに、同じ素人で同じ期間での訓練しかしてないのにどうして俺よりもずっと強いのか気になる。
どうしてそんなに差が出ているのか、どうして違いがあるのかを知りたい。
だから俺は意思を固めた。
「……レオ」
「なんだよ気持ち悪ぃな」
レオは少しだけ嫌そうな顔をして見せる。
「俺に戦い方を教えてくれないか?」
その言葉は俺の弱みを垂れ流すようなものだ。そんな事は重々承知だ。
けどほら、俺は弱いんだからもう形振り構ってはいられないだろう?
残念!サービス回じゃ無かったです!




