第35話:日記
「なるほどな。俺が聞かされてた書類手続きってのは街の管理人の承認が必要なんだけど、その管理人っていう奴が夕方5時には家に帰っちまうからそれ以降は翌朝の7時になるまで営業時間外ってことになるのか」
「…ん」
「で、俺たちは明日の朝まで街に入れないと?」
「…ん」
「マジか…あと9時間はあるぞ」
「まぁ、その間に色々とお話すればいいじゃない」
「もう結構話したけどな」
「でも…その、私もカレン…さんに賛成です。私もシロさんとお話がしたいです」
シロと話しながら盛り上がるレオとカレンとポーラ。
まぁ、三馬鹿としよう。
つーか、レオはいいとして、カレンとポーラはなんでそんなにお話が好きなんだよ。
やっぱり女子って分かんねぇな。
三馬鹿がシロとの会話を広げる中、俺は会話に混ざることなく荷物鞄から取り出した手帳を開いた。
『
旅立ってから8日目の夜、俺たちはようやく次の街へと到着した。
次の街っていう表現は間違っていて正確には目的地である楔国へと向かう際の中継地点、休憩地点である基幹都市へとに到着した。
ラス・ベガスは俺たちの故郷であるオリジンよりもはるか北部にある街で、オリジンと同じ米国の都市だ。
具体的にどれだけ離れているのかはわからないけど、徒歩をベースに途中で走ったりして7日と半日はかかるんだ。
実際、距離としては相当なものだと思う。
ここまでの8日間、俺たちはひたすら歩き続け、ゴブリンや大蜥蜴といった魔物と戦いながら旅をした。
その過程で、幾つか気づいた事がある。
と言っても俺が気づいた事ばかりじゃ無いんだけど、それはまぁいいだろ。
まず、草原のど真ん中よりも森の周辺だとか森の中だとかの方が魔物が多い。
それはまぁ当たり前だろう。
遮蔽物が無い草原のど真ん中よりも森の方が身を隠す事ができて安全なんだから、生物として繁殖するには森の方が都合がいい。
だからこそ、草原のど真ん中よりも森の周辺の方が、森の周辺よりも森の中の方が魔物が多く生息する。
あと、それに関係するのかどうかはわからないけど、森の中よりも森の周辺、森の周辺よりも草原のど真ん中って形で魔物以外の生物の数は多かった。
具体的には鳥だとか野ウサギだとか、後は鹿だとかまぁそう言った食料になり得る動物だ。
だからこそ、俺たちは進むにつれて食料になり得るまともな動物と会う機会が減って行き、食料問題に行き着いたわけだ。
まぁ、魔物が多く生息している地域では力関係の都合だとか、そんな感じの理由でうまく繁殖できないんだろう。
それか、繁殖しても魔物が多くいる地域では魔物に襲われて死んでしまうんだろう。
多分そんなあたりの理由で、魔物では無い生物は森の中心部よりも遮蔽物の無い草原のど真ん中の方が生息数が多くなっている。
次に、俺たちは同じ種類の魔物でも個体によって差がある事を知った。
考えてみればウィークと出会った時点でゴブリンの中にも人語を話す個体とそうじゃ無い個体がいる事がわかっていたんだけど、そういう事じゃ無い。
もっと別側面での話だ。
俺たちが気づいたのは、同じ種の魔物であっても、身体の内部構造には差があると言うものだ。
そんな事を言ったら人間とか家畜とかだって生活だとか食べるものだとかで体の中身の状態が変わるだろうとか思う人がいるかもしれないけど、決してそういう話じゃ無い。
もっと、人間が通常に想像する差異を大きく飛び出た差異がある。
俺たちがこの数日間で主として戦った魔物はゴブリンだからゴブリンを使って説明しよう。
確認できた限り、ゴブリンには少なくとも5種類はいる事になる。
今の所は…だけどな。
まず、大きなくくりで言えばゴブリンは2種類だ。
人語を話す個体と話さない個体。
これはあくまでも俺の推測だけど、人語を話すゴブリンは知性があるからこそ人語を理解し、把握しているわけだ。
だから、つまりはゴブリンには知性の有無という分け方で二種に分けられる。
次に知性が無い方のゴブリンはさらに細かく種類が分けられる。
血が緑色の個体と赤色の個体、茶褐色の個体と青紫の個体だ。
前者2種の個体は体の内部構造が大体一緒で、むかし学校の授業で習った人体の構造とかなり似ている。内臓の配置だったりとか、骨の構造だったりとかだ。
この2種類の肉はちゃんと食べる事ができる。
ちょっとだけ臭いがきついが、それはまぁ調理すれば問題無い。
あと、血が赤色と緑色の個体は金の稼ぎ口としても有能で、肝臓や心臓は薬品の材料として売れるし、脳は精力剤として売れる。
あと、骨は小筒みたいな小さい器の材料に使えるからと結構な値段で売れる。
まぁ全部それなりに状態が良かったらの話だけど。
けど、後者の2種は前者とは違う。
血が茶褐色の個体は体の内部から時折だけど金属片が見つかる。
内臓と呼ばれるような内臓が体の中には無くて、流れ出る血は灯油のような香りがする。
血が青紫の個体はもうよく分からない。
人間の内部構造と同じような内部構造をしているけど、ほとんどの確率でなぜか内臓が腐っている。
肉も皮も質が悪く、とても食えたもんじゃ無いし売れるようなもんでも無い。
けど、血が青紫の個体からは稀に透明で硬い石みたいなものが採取できる。
位置的には膵臓やら肝臓の位置だけど、レオはその石を見て希少鉱物だと言った。
俺はよく分からないけど、サイズが大きければかなりの値段で売れるらしい。
ざっと言い上げればゴブリンの種類と詳細はこんなものだ。
補足をするなら、めんどくさい事にこれらの個体はパッと見が全く同じだ。
実際に殺して血を流させなければどの個体かは分からない。
今の所、旅立ってから人語を話すゴブリンには遭遇していない。
それがどういった意味を持つのか、俺たちには分からない。
あと、これは進む中で分かっていった事だけど、血が緑色のゴブリンは主に草原に生息していて、茶褐色のものと赤色のものは森に生息していた。
そして、森の奥に進めば進むほど、街の塀に近づけば近づくほど、茶褐色の血を持つ個体の数は増えていった。
青紫の血の奴はよく分からん。
どこにでもいる。
これらの情報はあくまでも俺たちの経験に基づいたものだから、どれだけ正確なのかとか、それぞれの情報がどんな意味を持つのかとかは分からん。
それに、まだ俺たちはオリジンとラス・ベガスの間の道程しか旅していないわけだし、これはゴブリンの情報だけなわけだから他の魔物も同じように同種でありながら複数の種類を持っているとは言い切れない。
だからこれはあくまでもメモだ。
信じちゃいけないし、信じられない。
けど、全てが紛れもない事実だ。
』
_________
「…ふぅ」
文字を書く手を止め、ため息をついた。
「何してんだ?」
俺の手帳を覗き込みながら、レオが聞いてくる。
「日記書いてんだよ」
「へぇ。なんか意外」
感心したと言う様子でカレンが言う。
「なんでまた日記なんか書いてんだよ」
「もしもの時のためだよ」
「なんだ。もしもの時が来るって思ってるのかよ」
「勘違いするなよ。もしもの時っていうのは最悪な結末の話じゃねぇ。俺が言うもしもの話ってのはな、旅が終わって安全に暮らせるようになった時の話だ」
「へぇ」
「俺、全部終わったら旅の思い出を本として出そうと思う」
レオ、カレン、ポーラの3人が感嘆の声を漏らす。
「良いじゃねぇかよソレ。売れるぜ」
「そうね。面白い考えね」
「私も…その、良いと思います」
「……き」
シロも何か言ったけどあまりにも声が小さすぎて聞き取れなかった。
抑揚は浅いし声も小さいしでシロの声って聞き取りづらいんだよな。
せめてどっちかだけでも改善されればいいんだけど。
…まぁ、シロはこの場だけの関係なんだから別に問題ないか。
「……お前ら…からかうなよ」
「からかってねぇっての。希望を持つ事は良い事だ。その気持ちを忘れるんじゃねぇよ」
…いや、どの気持ちやねん。
また変な言葉遣いになった。
心の中だけだけど。
「忘れねぇよ。絶対にな」
なんとなく、そう返しておくのが正解な気がした。
少しだけ恥ずかしくなって三馬鹿から目を逸らす。
すると、視線を逸らした先にシロが居て、シロはなぜか俺をジッと見つめてきていた。
「なんだよ」
「……べつ…に」
そう答えると、シロは無表情のまま視線を焚き火へと向けた。
本当、女子って意味が分かんねぇな。
カレンとポーラもだけどシロは段違いでよく分からない。
ケイタが聞き取れなかったシロの言葉は三文字です。




