第34話:シロ
土汚れが激しく、所々が裂けたりしているボロボロのローブに身を包んだその少女は、何かの比喩とかじゃなく、本当に真っ白だった。
パッと見の年齢は14か15に見える。
背丈はポーラよりも低く、多分だけど140cm半ばくらいじゃ無いだろうか。
肩下あたりまで伸びている髪の毛とかかなり長めのまつ毛なんかは純白に近いレベルの白色で、皮膚もその下で血が流れていることでほんのりピンクがかってはいるがほとんど白色だ。
弱い風に煽られるローブからチラリと見える手足は傷がなくキレイなもので、顔も人形みたいに整っている。
「うっわ、顔ちっさ」
「それにすごく美人さんです」
まぁ、カレンとポーラが驚いた顔でこんな反応をするほどには、俺たちの前に姿を現した少女は美しかった。
うーん。
なんか美しかったなんて言葉を使うとちょっと気取ってるみたいで恥ずかしいな。
でも仕方ない。
現にそうとしか表現のしようが無いし、他の言葉を使ってその少女を表現したら何かしっくりこないって感じがして首の辺りがむずむずする。
少女は正しく人形のような顔立ちをしていて、その表情には感情という類のものが一切浮き出ていなかった。
見ると、少女の瞳にも色と呼べるような色は存在していない。
ぱっと見は白金色の瞳孔だが、流れる体液の色が出ているのか白金色に混ざるように淡いピンクが時折姿を見せる。
まぁ言ってしまえばその少女の瞳は物凄く薄いピンク色をしていたわけだ。
そんな稀有というか特異というか、とにかく他の人とは異なる容姿を持つ少女を見て、俺の頭には一つの言葉が思い浮かんだ。
昔、祖父から聞いた言葉だった。
「先天性色素欠乏症って奴か」
感嘆の声を零し、俺は尻についた砂を払いながら立ち上がる。
「……だった…ら、な…に?」
不自然に言葉を区切り、抑揚の浅い声で少女は言った。
不快だとでも主張するようにほんの少しだけ眉をひそめながらだ。
「あ、いや…別に」
「……そ」
興味なさそうに言い置くと、少女はテクテクと歩いて俺の横を通り過ぎ、扉に触れた。
その様子を興味深く見ながらカレンとレオが聞いてくる。
「ねぇ。その先天性色素欠乏症ってのは何なの?」
「教えろよケイタ」
内緒話をするために二人が寄ってくる。
けど……
く、臭ぇ〜。
もう一週間も風呂に入ってないんだから当たり前だし、俺も人のことを言えたもんじゃねぇんだけど二人ともめっちゃ臭ぇ。
汗の匂いがすごい。
鼻が曲がりそう。
つか、もげそう。
「わ、わかったから。説明してやるから離れろ!」
二人の肩を押して俺から突き放すなり、俺は何度か深呼吸をして鼻の中の換気をした。
「あのな、先天性色素欠乏症っていうのは生まれつき体の色素が薄いっていう病気なんだ。詳しくはまた今度話すから」
「何でそんなこと知ってるんだ?」
何気無い調子のレオの言葉に俺の心臓はドクリと跳ねた。
もうしばらく会っていない祖父の顔が脳裏に浮かんだ。
「…じいちゃんが昔そうだったんだよ」
「へぇ。そうなんだ」
突然興味を失ったとでも言うように、レオが淡白に返してくる。
このやろう。
俺たちがそうやっていつもの調子で会話をしていると、扉を両手でペタペタと触っていた白い少女が‘コンコン’と扉をノックした。
そして、
「…い…いたい」
何て言いながら扉をノックした方の手を逆の手で押さえてしゃがみ込んだ。
いや、何してんだよ。
少女は相変わらず無表情なまま両目に涙を浮かべる。
「何してんだ?」
レオが少女の隣にしゃがみ込み聞く。
すると、少女はレオの方を見ずにハッキリと言った。
「……くさ…い」
「え、臭い?!」
わざとらしく、レオが大げさにショックを受ける。
何でショック受けてんだっつの。分かりきってたことだろ。
「…臭い…から、離れ…て」
「あ、お、おう」
…わざとらしくって言ったけど、こいつ普通にショック受けてんじゃねぇかよ。
レオの弄りネタを手に入れて俺がニヤニヤとしていると、少女は残念そうな声音で言った。
黒色の塀に取り付けられた鉄製の扉をその薄桃色の双眸に映しながら。
「間に…合わなか…た、かぁ」
「間に合わなかったってどういうことなの?」
教えてくれるかしらと言うカレンに、少女は可愛らしく首をかしげて見せながら、相変わらずの無表情で言葉を返した。
「営業…時間外?」
…は?
「「……は?」」
心の声が漏れてた。
しかもレオの声も重なってた。
お前!「は?」とか言うんじゃねぇよ!
相手は初対面だろ? 自制しろよ!
あ、俺もか。
「詳しく話を聞かせてもらえる?」
アホなことを考える俺とスッゲェ間抜けな面で驚きを表現し続けるレオを無視してカレンは少女への情報聴取を始めた。
いいぞカレン。俺たちと違って優秀じゃねぇかよ。
「……長く…なる」
「大丈夫よ。どうせ街の中には入れないんでしょ?」
少女は無言で頷く。
「なら大丈夫よ。ほら座って。すぐに火を起こすから火に当たりながらお話ししましょ」
「…ん」
短く答え、少女は自らの膝を抱える形でその場に腰を下ろした。
そして、少女が座り込むのとほとんど同時に‘ぐぅ〜’っと物凄く大きな音で誰かの腹がなった。
「えと…その、ごめんなさい」
恥ずかしそうにポーラが頬を染める。
「……おなか…へった…の?」
「あ、はい」
「……これ…食べていい…よ」
少女は手に持っていた荷物袋から包装された状態の固形型非常用乾燥式携帯食料を1つ取り出し、俺たちに一人一つずつ配った。
「いいのか?」と聞くと「ん」と短く返された。
助かるぜとレオが嬉しそうに言ったけど、全くもってその通りだ。
この白くて小さい少女が食べ物をわけてくれなかったら俺たちは空腹のまま扉が開くのを待ち続けなくちゃならなかったんだ。
本当にありがたい。
______
俺とレオの二人がかりで火を起こした後、俺たちは火を囲みながら円状に座り、少女にもらった固形型非常用乾燥式携帯食料をちびちびと食べた。
その間、俺たちはただ無言だった
「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はカレンよ。コノエカレン。カレンって呼んで」
食べ終わるなり、カレンは声を張り上げて自己紹介をした。
いやぁ。元気だなぁ。
「じゃあ次は俺だな。俺はレオだ。こいつらの勇者をやってる」
「あ、わ、私はポーラです。その…ポーラです」
うっわ。そういう流れかよ。
じゃあ俺も自己紹介しなきゃダメじゃねぇかよ。
「俺はケイ「その目つき悪いのはニシゾノケイタっていうの」」
名乗ろうとした俺の名前をカレンに名乗られた。
「おおおおい! お前このやろう!」
「いいじゃない別に」
「いや…まぁ、いいんだけど」
「それよりも」
それよりもって……。
「あなたの名前は?」
雪を彷彿とさせる白い少女にカレンは問いかけた。
少女は無表情のまま、抑揚のない声で答える。
「私…は、シロ…でいい」
「シロね?」
「ん」
「シロは候補勇者なのか?」
「違…う」
食い気味でレオが聞くが、レオの問いにシロは小さく首を横に振った。
「私……勇…者」
シロの言葉を聞き、レオが「ハハハハハ!」と高笑いをした。
「じゃあ一緒じゃねぇかよ」と笑った。




