第33話:白との邂逅
「これ、どうやって開けるのかしら」
黒色の塀に取り付けられた鉄製の扉、それを指先でなぞりながら、カレンが言う。
「ああ。それはな、俺たちが開けるんじゃなくて開けてもらうんだ」
カレンの疑問にレオが即答した。
「どうしてそんな事知ってるの?」
「どうしてって、あのひと月の間に付き人に教えてもらっただろ?」
当たり前だろといった様子のレオの言葉に、俺たち3人は揃って首を傾げた。
「あの…教えてもらってないです」
「は? 嘘だろ」
「そ、その、ごめんなさい」
「ちょっとレオ。ポーラをいじめないでよ」
「虐めてないだろ」
「声がポーラを威圧してるのよ。もう少し抑えて」
「…わかった」
レオが口を尖らせる。
なんでカレンの言う事は割と素直に聞くんだよこいつ。
「あと、ポーラが言った事は本当よ。私も付き人からそんな事は教えられなかったから」
「そうなのか?」
チラリと、レオが俺に目配せをしてくる。
俺は無言で頷いた。
「マジかよ。塀の内側に入る方法なんて基礎的な話じゃねぇかよ」
レオの言う通りだ。
今の時世、塀は人類の命の象徴だとでも言えるだろう。
塀の防備がそのまま人類の命に直結する。
守りがしっかりとしていれば内側に暮らす人々は生きる事ができ、守りが甘ければ内側に住む人々は死に逢い見える事になる。
何が言いたいかというと、それほどまでに塀の警備が厳重って事だ。
それはつまり、塀の内側には簡単には入れない事の裏返しになる。
それはつまり、レオの言う通り壁の内側に入る方法というのは候補勇者にとって必須の情報と言う事になる。
にもかかわらず、俺たち候補勇者にはその知識が与えられていない。
いや、より正確には勇者役以外には与えられていない?
一体、どんな意図があってそんな情報操作みたいな事を。
………いや、まさかな。
「なんで俺しか教えてもらえてないんだよ」
「多分だけど、付き人に教えられたってのが重要なんだろ」
「…あ、そういう事か」
「そういう事だ」
納得した様子のレオに向け、俺は不敵な笑みを作る。
まぁ、今なんとなく不敵な笑みをしてみたわけだけど、この笑み自体に意味なんてものはない。
「どういう事?」
と、カレンが聞いてくる。
なんか、カレンって見た目だけだとすごく頭が良さそうに見えるけど実際はそうじゃねぇんだよな。
脳筋てやつだな。
「そんな深い意味はねぇよ。役職に合わせたってだけの話だ」
俺は丁寧にそう言ったけど、カレンはイマイチ分からないと言う表情をしてきた。
なんでだよ。むしろなんで分かんねぇんだっつの。
「それよりも問題は…」
チラリと周りを見回す。
レオは確かに言った。
扉は開けるんじゃなくて開けてもらうのだと。
けど、周りには俺たち以外の人影はない。
誰が扉を開けてくれるって言うんだ?
「問題は誰が扉を開けてくれるのかってところだろ」
「そう。そこなんだよな」
パチンと、レオは指を鳴らす。
それ腹立つからやめろよ。
「俺が聞いてた話だと、塀の外側の扉の前には門番が2人立っていて、その人たちに声をかけて書類手続きをこなせば開けてもらえるって話だったんだ」
「でも門番なんて居ないじゃない」
「そうなんだよなぁ。どうしてだろ」
「えっと…その、夜だから営業時間外とか?」
「んなワケないだろ」
レオが鼻で笑い、それにポーラがなぜかビビった様子で肩を震わせる。
だからなんでだっつの。
確かにレオは図体がでかいしちょっとだけ目つきが悪いしで初対面なら怖いっていう印象を受けるかもしれないけど、俺たちはもうそれなりに時間を共にしたんだからビビるって事はないだろ。
「……じゃ…ま」
突然、俺たちの誰のものでもない声がかけられた。
声のする方向に振り返ったところで俺の体に衝撃が走る。
位置的には腹の辺りだ。
衝撃といっても心配するようなものじゃない。軽い衝撃だ。
まるで誰かに突き飛ばされたような衝撃。
両手で突き飛ばすような衝撃。
その衝撃はあまりにも弱いもので、言うなれば小さな子供がおふざけでトンっと押すような程度の強さのものだった。
衝撃の強さだけで言えば耐えられないほどのものじゃなかった。
けど、それがあまりにも突然の事で、身体的な疲労が蓄積していたってのもあって俺は足がもつれてバランスが取れずにそのまま地面に尻餅をついてしまう。
「な、何すんだ……よ」
俺を突き飛ばしたであろう犯人に向けて、まだその姿を視界にとらえていないにもかかわらず言葉を投げかけようとした。
そして、俺は静止した。
ブレた視界が収まり、犯人の姿を瞳に映す。
俺を突き飛ばした犯人を見て、俺たちの誰のものでもない声の主を見て、俺たち4人の候補勇者は皆が絶句した。
理由は至極単純だ。
その人物が…、俺を突き飛ばした人物が、俺たちの誰のものでもない声の主が異様な容姿を持っていたからだ。
俺たちの視線が集まる一点。
その場所には1人の少女が立っていた。
どうして今の今まで少女に気付けなかったのかと思った。
いや、もしかして少女は今この場所に着いただけかもしれない。
だからこそ俺たちはこの特異な容姿を持つ少女に気づく事ができなかったのかもしれない。
…そんな事はどうでもいい。
本当にどうでもいい。
「なんだよ…お前」
少女の姿を両目に映し、俺は声を震わせる。
其の少女は、闇夜の中でも輪郭がはっきりとわかってしまうほど……
全てが白だった。
とうとう来ましたね。
新しい登場人物です。
作者の一番のお気に入りです。




