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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 第4章 LasVegas編

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第32話:8日目の夜、森を抜けて

 故郷オリジンを旅立った俺たちは候補勇者としての正式な出発地点である楔国トリガーへと向かうために北へ向かって歩き続けていた。


 というのも、レオが持っていた米国アメリカの地図によれば俺たちが暮らしていたオリジンのはるか北に基幹都市ラス・ベガスがあり、そのさらに北西の位置に楔国トリガーがあるらしいからだ。


 だから俺たちは楔国トリガーにたどり着くためにまずはと、とにかく北上している。


 方角に関しては迷うことはない。

 単純な話、太陽の出入りの位置で大体の方角は分かる。

 まぁ、レオの受け売りだけどな。


 もうかれこれ7日も歩き続けている。

 

 どれだけ歩いても終わりが見えないように見えた平和な草原だったけど、思いの外あっさりと草原の終わりはあった。

 半日歩き続けた辺りからだろうか、少しずつだけど視界の先に森が見えるようになった。

 そして、それに伴うようにゴブリンや大蜥蜴リザードなどの魔物が俺たちの前に姿を現すようになった。


 進めば進むほど魔物と遭遇する頻度は増えて行き、視界に森が映り込んでから歩を進める速度が一気に遅くなった。


 それでも魔物を倒しながらなんとか進んでいき、「あぁ。もうすぐで森に差し掛かるんだな」と自分を説得するように思い続けながら歩き続け、2日目の夜に森のすぐ目の前にまでたどり着くことができた。


 1日目は草原のど真ん中で、2日目は森の目の前で火を起こして夜を越した。


 そして3日目、俺たちはすでに少しだけ精神疲労を自覚しながらも、満を持してって感じの気持ちで森へと足を踏み入れた。


 半日後、俺たちは森に足を踏み入れたことを後悔した。


 森は森だ。

 草木が生い茂り、そこかしこから何かしらの動物やら魔物やらの鳴き声が聞こえる。

 足場が悪く一歩を進めるごとに足が沈むような感覚を覚える。


 まぁ、つまりは進めば進むほど体力的にも精神的にも疲労が蓄積しやすいということだ。

 森は足場が悪く、気を張って歩かないと転びかねない。

 だから無駄に体力を使うわけだし、更にはいつどこから魔物が飛び出してくるか分からないなんていう緊張感があるもんだから精神的にもかなり疲れる。


 それだけ磨耗しやすい空間である上に、俺たちには致命的な事象があった。

 俺たちは、旅立つ時に食料と呼ばれるものをほとんど持っていなかったのだ。


 どうして俺たちが皆、揃いもそろって食料を持たずに旅立ったかというと、別に「誰かが持ってくるだろう」なんてバカなことを考えていたわけじゃない。


 二つ理由があるわけだが、まず一つは単純に食料を持って旅に出るのは嵩張かさばって邪魔になるからだ。

 食べ物を荷物として持って行き、そのせいで嵩張った荷物が原因となって体がうまく動かなくて魔物に致命傷を負わされました。だから旅をリタイアします。

 なんてバカな話にならないために、俺たちは皆、自分の行動の妨げにならないように食料を持ってこなかった。


 もう一つの理由としては、肉だとか魚だとかの食料は旅の途中でその場その場で手に入れることができるだろうって浅はかな考えがあったからだ。


 だってそうだろう?


 昔から、こう言った冒険をするような物語では登場人物が野ウサギを捕まえたり魚を釣ったり木の実とかを採取したりと、旅をしながら食料を集めてそれで食いつないでいる描写が使われた。

 だからそんな情景を何度となく想像した俺たちなら‘それが普通なんだ’と勘違いして当然だ。


 そうして間違った常識を植え込まれていた俺たちは食料は現地調達をすればいいと考えていた。

 そして、その代わりとして現地調達した食材をおいしく食べるための調味料をそれぞれが持ってきていた。


 まぁ、それぞれが調味料を持ってきていたと言っても、皆が皆、塩やら胡椒やらの使用期限がほとんどないようなやつしか持ってきていない。

 つまりは誰も何も持ってこなかったと変わらない。


 ほとんど何も食べない状態で3日目の夜を迎え、1日3食の食事が当たり前となっていた俺たちはあっという間に空腹に耐えられなくなった。

 そこで俺たちが取ったのは国王に教えられた知識を活用しての行動だった。


 俺たちが取った行動は殺した魔物を調理して食べること。

 もっと分かりやすく言えば進めば進むほどかなりの頻度で束になって襲いかかってくるゴブリンを殺し、その皮を剥ぎ、肉を削ぎとって食べようと言うものだった。


 だからこそ、俺たちは3日目の夜からひたすら殺したゴブリンを剥ぎ取り解体して食べ物を手に入れ、それらを調理して空腹を満たしていた。


 そして、余った皮や骨はいい状態なら安価ではあるが街で買い取ってもらえると言う事がわかっているから、俺たちはゴブリンの死体から採取した皮や骨の中で状態がいいものを荷物鞄に入れて集めた。


 4日目からも同じようにして食いつなぎ、ゴブリンの皮や骨以外でも街で売れると思われるものを集めながら進んで行き、今に至るわけだが、ここにきて問題が発生した。


 5日目のあたりから、解体したゴブリンの中から毒素ガスが発生するようになったのだ。


 これが意味することは、森を歩き進んで次の街へと近づくに連れ、ゴブリンの体から有害なものが発生するようになったということだ。

 

 毒素に気づいたのはレオだった。

 レオがものすごい形相で、「コレは何があっても食うな」と俺たちに釘を刺した。


 こうして食べられない個体が増え続け、8日目の今に至る。

 もうここ2日は何も食べていないし、開けた場所がないからろくに休むこともできていない。


 俺たちは言葉通り、身も心もボロボロだった。


 頭の奥の方に重りでもつけられてるんじゃないかってくらい頭が重く感じたし、ぼーっとして視力は悪くないはずなのに視界が歪んだ。


 まっすぐに歩いているつもりが変にふらふらと歩いてしまっていたし、足を一歩前に踏み出したと思っていたら全然踏み出せてなくて、足がもつれて転んだりもした。

 

 その度に場にいる誰も悪くないのに「クソ!」なんて悪態をついたりして、泣きたい衝動にも襲われた。


 追い詰められていたと言えば追い詰められていた。

 もう少しでも気を抜いてしまえば涙が止まらなくなってしまい、そこから動き出すことなどはできなくなるだろう。

 そう思えるほどには消耗していた。


 けど、それだけ消耗していたとしても魔物が目の前に現れた時は全身全霊で討伐に当たった。

 そうしないと俺たちが殺されるってのもあるし、食料を確保したかったってのもあった。


 随分と前に限界なんて超えていて、もうこれ以上は体が動かないなんて思いながらなんとか歩き続け、もし街にたどり着けたら暫くは旅をしたくないななんて思いながら歩き続け、そうやって自分を鼓舞して騙し騙しで歩き続け、俺たちはようやく、8日目の夜に森を抜けた。


 木々の間を抜け、開けた空間に現れたのはそびえ立つ黒色の巨大な壁。

 それが街を取り囲む塀であることは一目見てわかった。


「あ…よかった……本当によかった」


 服が汚れるのも気にすることなく地面にへたり込み、ポーラが涙声で言う。


「あ〜っ! 死ぬかと思ったぁ!」


 と、とっくにそんな体力は残っていないだろうにレオが叫ぶ。

 カレンはレオの言葉に賛同するように激しく頷いた。


「本当、こんなところで脱落するなんてって考えたわよ」


「正直言って俺も少しだけ考えた」


「あら。レオらしくないわね」


 二人は笑い合いながらよかったよかったと言う。


 いつもなら二人の仲がいいやり取りを白い目で見ている俺だけど、この時ばかりは二人に「余所よそでやれよ」なんて視線を向けることなく、独り言のように「本当によかった」と溢した。


 眠さと空腹でろくに頭が回っていない状態で、霞む視界に3人の姿を映す。

 皆ボロボロだった。


 いつもギラギラと目を見開いているようなレオも半目になっているし、カレンは髪の毛を後ろでひとつに結んでいた紐が切れて髪を下ろした状態になっている。綺麗な黒髪からはツヤがなくなっていて、ボッサボサだ。

 ポーラもカレンと同じように髪の毛がボッサボサになっていて、心なしかゆるふわの軽い天然パーマも元気がなさそうだ。


 皆、身につけている衣服は所々が裂けていたり土や血でかなり汚れてしまっている。

 けど、幸いなことに誰の体にも傷は一つとして残っていない。

 ついていない訳ではなく、残っていない。


 ここにたどり着くまでに皆それなりに小さな怪我を負ったのだが、その全てをポーラが治療してくれた。

 よくわからない薬とかを使って、痕が残らないくらい綺麗に傷の治療をしてくれた。


 本当、ポーラ様々だよ。


「ところでさ、ここってどこの街だ?」


 そういえばといった様子で、レオが塀に近づく。


楔国トリガーかしら」


 レオに続き、カレンが塀に近づく。

 

「いや、オリジンとの位置関係的に楔国トリガーはありえない」


 そう言いながら、俺も二人に倣って塀へと近づいた。


「ああ。だろうな。俺たちは旅立ってからひたすら北上していたわけだが、あの地図でオリジンのすぐ北側には楔国トリガーは無かった」


「つまり?」


 言葉の先を促すようにカレンが聞く。


「つまりはな、ここは俺たちの目的地じゃないってことだ」


 と、レオが言ったところで「み、皆さん!」という慌てた調子のポーラの声が聞こえてきた。

 ポーラは気づけば俺たちよりも少し離れたところにいて、「来てください」と俺たちに小さく手招きをして見せた。


 俺たちは不思議に思いながらもポーラの元へ歩み寄る。


「どうしたんだ?」


 不思議そうに聞くレオに、ポーラは少しだけビクッと怯えた様子を見せる。

 いや、なんでだよ。

 もう一週間も一緒に旅してるんだからそんな怯える必要ねぇだろ。


「えと、えと…これ」


 と、控えめにポーラが塀を指差す。

 そこには巨大な鉄製の扉があり、扉の脇には表札ネームプレートが貼り付けられていた。


 扉に取り付けられた外灯に照らされ、表札ネームプレートに掘られた名前がハッキリと見える。



LasVegasラス・ベガス



 それが、俺たちが死に物狂いで歩き続けてようやくたどり着いた街の名前だった。


「基幹都市……ラス…ベガス」


 いぶかしむようなレオの声が、4月半ばの暗い夜へと吸い込まれた。


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