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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 幕間の章 後日譚編

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幕間の物語:おやすみ



「ぁぁぅ……ぃぃぁぅぁ」


 ポーラの部屋に行くと、ポーラは既に目を覚ましていた。

 寒さに目を覚ましたのかと思ったが、ポーラの部屋はちゃんと暖房が効いているから、そういうワケでもないみたいだ。

 男女では男の方が寒さに鈍感である事を踏まえても、問題ないくらいにはポーラの部屋の中は温かい。


「おはようポーラ。今日はやけに早起きだな」


 時刻は朝の6時だ。ポーラがいつも目を覚ますのは、朝の10時ごろだから、いつもよりもかなり早く目が覚めていると言える。


 まぁ、人間なのだから毎日同じ時間に目を覚ますことが出来るわけもない。

 寝坊する事もあれば、ものすごく早く目が覚めてしまう事もあるだろう。

 きっと、今日は早く目が覚めてしまう日だったのだ。


「ぃぁぁぅ…………ぁぁ」


 声をかけてもかけなくても、ポーラは声を零す。

 言葉の形を為さない、意味を持たない声を零す。

 虚ろな瞳で天井をぼうっと見上げたまま、人ではない生き物のように声を零す。


 もうずっとそうだ。体の傷が癒えてからも、ずっと。

 何日も、何カ月も。ずっとずっと変わりがない。

 ポーラはロウが完治診断を下してから、ずっとこのままだ。


 俺の言葉に正しく反応してくれる事は無い。俺の名前を呼んでくれることは無い。

 この調子から悪くなることも無ければ、良くなることも無い。

 ずっと、ポーラの時は止まったままになっている。


 目の前で眠る少女には、俺の知るポーラ・アクターの面影は殆ど残っていない。

 俺の知るポーラ・アクターはもう1年も前に命を落とし、過去に置き去りにされている。

 いま俺が声をかけている少女は、ポーラと同じ容姿を持っただけの別人の状態だ。


 今日も寒いなと声をかけても、ポーラは言葉を返してくれない。

 ポーラは寒くないかと声をかけても、ポーラは言葉を返してくれない。

 それでも俺は、ポーラに言葉を投げかける。


 いつかふとした瞬間に、言葉の形を為した声を返してくれるのではないかと、そんな淡い希望を抱きながら。



 ………………いつか…………いつか……いつかって、いつだ?



 ロウは未だサルキュニュウムへの接触を果たすことが出来ていない。

 一体いつになればその目的を果たすことが出来るのか、目途も立っていない。


 そもそも、ロウがサルキュニュウムへ接触を図る目的は、死者の正しい蘇生方法の確認の為だ。

 今のポーラを元のポーラに戻す方法を確認する為ではない。


 ロウも言っていたじゃないか。

 ポーラは今のこの状態が完治状態なのだ。

 癒える傷そのものが無いのだから、これ以上は癒えることが無い。

 つまり、ずっとポーラはこのままだ。


「じゃあ……俺はどうして毎日ポーラに会っているんだ?」


 俺は何を信じていて、何を待っているんだ?

 何となく、信じてポーラに声を掛け続ければいつか元のポーラが戻ってくるのではないかと思っていたが、俺はどうしてそう思った?

 そう考えるキッカケがどこにあった?


 考えて考えて考えて考えて。

 それでもやっぱり、自分がどうして“その選択”をしたのか、信じてポーラに声を掛け続ければ良いという認識をしたのか、その理由が、根拠が見当たらなかった。


「俺、何を信じてるんだろうな」


 その問いは誰かに向けたモノではない。

 ましてや誰かの回答を待つモノでもない。

 当然、ポーラが答えを示してくれる事も、俺自身が答えに辿り着く事もない。


「ぁぁぁぅぁ。ぁぁぁぁぁ。ぅぅぁぅぃ」


「ご飯はまた後で持ってくるからな」


 そう言って、ベッドのサイドテーブルに置いてあったタオルでポーラの口から垂れている涎を拭き取る。

 少し力を入れて拭いたが、ポーラは痛がる素ぶりを見せる事は無い。

 以前は少し体に触れただけで物凄く痛がったものだが、今は普通に接する分には問題がなくなっている。


「ぅぅぅぅぁ」


 体に触れているというのに、ポーラは俺に視線を向ける事は無い。

 いつも通り、ぼうっと天井を見上げ続けたままだ。

 今のポーラに世界はどう見えているのだろうか。

 今、ポーラは何を考えているのだろうか。

 

 それが何も分からない。

 何も見えてこない。

 だから俺は分からなくなる。


 目の前に居る少女が、本当にポーラ・アクターなのか。


「ぅぁぅぁぅ。ぁぁぅぁぃ」



 ふと、考えてしまった。



 今の状態が完治状態なら、いくら人体蘇生の魔法を使うことが出来るサルキュニュウムでも、今の状態から元の状態に……俺の知るポーラに戻す事なんて、できないのではないだろうか?

 何せ、治す傷が無いのだから、治しようなんてある筈がない。

 

 だとしたら、サルキュニュウムに接触しても意味がないのではないだろうか?

 

 いや…………それは違う。

 サルキュニュウムは人を蘇生させる事が出来ると思われる人物だ。

 だったら、サルキュニュウムに接触できれば、彼女に正しい手順で死者を蘇生して貰える。


「……あれ?」


 もしそうなら、サルキュニュウムに接触した時点で、ポーラが生きている必要は無いんじゃないか?

 むしろ、サルキュニュウムに正しく蘇生してもらう事を前提とするなら、ポーラは”死んでいた方が都合が良いんじゃないか”?


「そうだよ…………そうだよな」


 死者を蘇生させる事ができる人間なら、治す傷が無い状態から治癒するより、死んだ状態から蘇生させた方がきっと簡単な筈だ。


 なら、サルキュニュウムの為にも”そう”するのが一番だろう。




 何より、”俺がこれ以上、今のポーラを見続けたくない”。







 だからひとまず__________ポーラを殺そう。







「ごめんポーラ。今の俺は凄く無力だからさ、手伝ってくれる人を探すよ。だから、もう少しだけ待ってほしい。必ず……必ず迎えに来るからさ」




 俺はベッドに乗り、ポーラに跨る。

 人の体温を正しく保っている細い首に震える両手を添える。

 何だか、体が思うように動いてくれない感じがした。



「………………ごめん。今は少しだけ……おやすみ」



 細い首に添えた両手にゆっくりと力を込める。

 気道を塞ぐ様に、血の流れを止めるように、ゆっくりとゆっくりとポーラの首を絞めて行く。

 体重を掛けて、命の線を断ち切る様に。


 こんな状態でも、ポーラはぼうっと天井を見上げたままだ。

 口から零れ出る声はさっきよりも歪なモノになっているが、未だ言葉の形を為していない。


 手に力を込めるたびに、手のひらにポーラの体の熱が伝ってくる。

 その感覚は、まるで命が俺へと移ろっているようだった。


 言葉としての形を為していなかった声がより形を失っていく。

 徐々にか細く弱々しいものになりながら、散っていく。

 虚ろな瞳に宿る濁った光が虚構へと溶けていく。




 やがて、ポーラは動かなくなった。

 




 少しの抵抗も見せる事なく、”俺の手によって”。





はい。これにて本当に世界再編と犠牲の勇者譚 第一部 或る魔法使いの物語が終了となります。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。


幕間の内容は、本当は第三部以降でゆっくりと時間をかけて、ケイタが疲弊していく様子を書いていきたかったのですが、ケイタの物語には必要な話である一方、世界再編と犠牲の勇者譚という物語には不要な話でしたので、かなり省いた内容を幕間として公開させていただきました。


ケイタがこれからどうなっていくのかは、またいずれ書いていきたいと思います。

その時までぜひお待ちください。



それでは改めまして。第一部にお付き合い頂きありがとうございました。

世界再編と犠牲の勇者譚を今後もよろしくお願いします。


第二部 鬼ノ國二生マレタ少女の更新開始まで今しばらくお待ちください。

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