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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 幕間の章 後日譚編

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幕間の物語:完治診断


「は? 何って? 聞こえなかったからもう一回言ってくれよ」


「ぁぁ……ぁあ?」


 ポーラの眠る病室で、俺は叫ばないように勤めながら、ロウの胸倉を掴む。

 寝たままのポーラはぼうっとした瞳で天井を見上げたまま、言葉とは言えない声を零す。


「……………………」


「あぁぅぁ。ぅぅぅ」


 言いづらそうに、今まで見た事ないくらいに顔を歪めるロウは、後ろめたさを隠そうともせずに俺から目を逸らす。

 その態度に俺は苛立ちを覚え、俺たちを他所にポーラは言葉の形を保つことが出来ない歪な声を零す。

 ポーラの瞳は、濁った光を灯している。その瞳は輪郭が不明瞭なまま、ぼうっと天井を見上げ続けている。

 俺たちにその視線が向くことは無い。


「……今の状態で、ポーラ・アクターは快調といえます」


 チラリとポーラを見て、観念したようにロウは言う。

 ただ、疚しさが隠し切れずに表に出ている。

 ロウの声は弱々しく、俺を見てはくれない。

 けれど、確かに言い切る。


「“これ”以上、ポーラ・アクターの体調が良くなる事はありません」


 その言葉に、俺はポーラへと視線を向ける。

 相変わらずどこを見ているか分からない瞳でぼうっと天井を見上げ、半端に開けた口からは涎が垂れ、言葉の形を持つことが出来ていない声が零れ続けている。

 この状態を見て、ロウは完治と言っているのだ。


「なワケねぇだろ! 今の状態のどこを見て快調何だよ! ポーラはまだ、俺の名前も呼んでくれてねぇんぞ!!!!」


 そんな状態で快調だなんて、これ以上体調が良くなる事は無いだなんて、“言わないで欲しい”。

 信じたくない。”コレで終わり”だなんて、考えたくない。

 だって、もしそうなのだとしたら……


「これで完治だとしたら……俺は……俺は…………」


 自分で自分を許せない。

 “失敗した自分”を、絶対に許すことが出来ない。


「私も……認めたくなかった。貴方のポーラ・アクターの蘇生を、失敗だなんて言い切りたくはなかった。けれど……もう、希望の余地は無いのです。ポーラ・アクターの体の傷は癒え、介助が必要とは癒え、自ら食事を摂ることができる。つまり、普通に生きる事が出来る状態と言える」


 これ以上良くなることは無い。

 なら、完治診断を出さざるを得ない。

 そして、言葉を話すこともままならない状態に落ち着いてしまった以上は_____


「貴方の行った蘇生は“失敗”です。“間違い”ではない。こうなった以上は失敗なのです」


「っ______!!!」


 第三者から明確に突き付けられた事実に、足場が崩れたような錯覚を覚える。

 立ち眩みがして、立っていられなくなって、俺はその場で座り込む。

 何を間違えた? どこで間違えた? どうして俺は失敗した?

 そんな思考が頭を埋め尽くす。視界を埋め尽くす。そうして俺を毒す。


「なぁ……教えてくれよ。失敗だって言うなら教えてくれよ!俺はどこで間違えたんだ? 何を間違えたんだ? どうしてポーラはこんな状態に……まともに言葉を話すこともできない状態になったんだよ! なぁ!俺はどうすれば良かったんだ? どうすれば…………どうすれば、俺は帝涼介みたいに大切な人を取り戻すことができたんだ?!」


 もう、ロウの胸倉を掴む気力もない。

 俺は座り込んだまま叫ぶ。

 誰でも良いから答えを示してくれと、誰でも良いから俺に正解を示してくれと、そう叫ぶ。


「……まず、ポーラ・アクターが何故このようになってしまったのかについてですが、こちらは原因がハッキリしています。気が狂うほどの痛みが根底の、過度なストレスを原因とした精神崩壊です。彼女は気が狂うほどの痛みから逃げる為に叫び、悶え苦しみました。そして、最終的にはその痛みのストレスから体を守るために、精神を犠牲にした」


 それが、ポーラが俺の名前を呼んでくれない原因なのだとロウは言う。

 虚ろな瞳で天井を見上げ、半端に開けた口から涎を零し、人ではない動物のような声を上げる事しかできないその原因なのだと言う。

 そして、これから先この状態から回復する確率は、限りなくゼロに近いのだと言う。


「ですが、なぜこうなってしまったのか、そちらの原因は分かりません。何度見返しても、どれだけ調べても、貴方と帝涼介の蘇生手順に差はありませんでした。使用した素材も差が無く、貴方は本当に正しく、帝涼介の行った蘇生を再現して見せたとのだと思います」


 調べれば調べるほど解らなくなる。

 何が違うのか、何故違うのか、その差が分からない。


「……」


 ロウの言葉に……いや、ロウの表情を見て、俺は固まった。

 今まで見た事が無いくらい、ロウは明確に悔しそうな表情をしていたから。


(…………そうか。ロウは本気で協力してくれてたんだな)


 だからこそ、悔しそうな顔をしてくれている。

 どうしてそこまでの感情を抱いてくれるのかは分からないが、ロウは俺側の人間だ。それだけは分かる。

 

「…………」


「……」


 そこから、俺もロウも互いに何を言えば良いのか分からなくなった。

 けれど、沈黙の時間は直ぐに切り裂かれた。

 今まで黙って話を聞いていたウィークによって。


「んなもん簡単な話だろ。あのバケモノとケイタの蘇生が全くの別モンだったってだけだ」


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