幕間の物語:信じて
「なぁ、ポーラ。気分はどうだ? 」
「ぁぁ……うぁあ……ぁぁ…………ぁ?」
「うん。うん。大丈夫。大丈夫だよ。ちゃんと聞くから」
だから、ゆっくり話そうとポーラに伝える。
ポーラはベッドに寝たまま、天井を見上げている。
瞼は持ち上げているが、その瞳は焦点が定まっていない。
声を掛けると反応するが、俺の方を見ることは無い。
「ポーラ。今日は天気が良いんだ。少しだけ肌寒いけど、もしよかったら少しだけ外に出ないか?」
「ぅぁ……ぁあ」
「ほら、起こすよ」
そう言って、ポーラを起き上がらせる為にその体に触れる。
背とベッドの間に手を挿し入れ、腕全体を使ってポーラの体を持ち上げる。
その時だった……
「ぁ……ァぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ぼうっと開けていた両目を突然見開き、ポーラが叫び出した。
「ああぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!」
叫び、悶え苦しむポーラ。
何かを訴えかける様に歪んだ表情で俺を見る。
「…………ポーラ」
そんなポーラの表情を見て、俺は居たたまれない気持ちになる。
俺は、今のポーラにどのような言葉を掛けてあげれば良いのだろうか。
相変わらず、ポーラは苦しそうに顔を歪めながら叫び続けている。
その声を聞いた誰かに呼ばれてか、ロウが扉を空けて部屋の中に入ってきた。
「ポーラ・アクターは薬で痛覚を鈍らせているとは言え、無理に体を動かせば鈍った痛覚を貫く痛みに襲われます。それこそ、耐え難い痛みを濁しているのに、その耐え難い以上の痛みに襲われる事になります」
だからむやみに体に触れたり、無理やり体を動かさせたりはしないでほしいと。
ただでさえ分からない事が多いのに余計な事はしないでほしいと、ロウに怒られる。
「今から鎮痛剤の量を増やし、睡眠薬を投薬します。そこから暫く経てばポーラ・アクターはまた落ち着きを取り戻すでしょう」
貴方はまた余計な事をするかもしれないから、部屋の外に出ていてくださいとロウに追い出される。
少しだけ、ロウはキレているようだった。
それもそうだ。ロウは最近、なぜ俺がポーラの蘇生を間違えたのか、その原因を探ってくれている。
何か手順に間違いがあったのではないか、準備に不足があったのではないか、その他に現状で観測が出来ていない要因があるのではないか。
帝涼介の残した記録を何度も何度も読み込み、帝涼介が誰かを蘇生させた時の映像を何度も観て。
そして、どうやって入手したのか、俺がポーラを蘇生させた時の映像を何度も観返して。
寝る間を惜しんでロウは調べてくれている。
どうしてそこまでてくれるのかは分からないが、ロウはポーラの蘇生を間違いから成功へと軌道修正するために尽力してくれている。
そんなロウに申し訳ないと思っている俺が居る。
だから、ロウに邪魔だから外に出ていろと言われてしまったら、それには従うしかない。
今はロウだけが頼りだ。俺の間違いの原因を探るための、そして俺の間違いを正すための。
「無事に眠りにつきました。私は調査に戻りますが、くれぐれもポーラ・アクターの体に触れることが無いようにしてください」
1時間ほど経った頃、ロウは少しだけ安心した様子で部屋から出て来た。
ローブで顔を隠していないから、その表情が良く解る。
「投薬のおかげで大人しくしていますが、彼女の体に不用意に触れれば、体に負荷がかかります。使用している薬剤は、その負荷には対応していないのですから、貴方が本当にポーラ・アクターを大切に思っているのでしたら、貴方は何もしないでください。何もしないで、彼女を信じてただ待ってください」
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待った。俺は待った。
ポーラを信じて、ロウを信じて、それからカミサマを信じて。
信じる事が出来るものはすべて信じて、縋る事が出来るものすべてに縋って。
そうして、さらに幾らかの月日が経ち、季節は夏に差し掛かっていた。
ポーラはもう、投薬により痛みを誤魔化す事はなくなった。
理由は単純。ポーラの体の傷がかなり癒えたからだ。
もちろん、いきなり投薬を止める事はしなかった。
少しずつ薬を弱いものに変えて、薬の量を減らして、先週ごろから投薬を止めているが、以前の様にポーラが痛みに叫び悶える事もなくなった。
ロウに許可を貰ったうえでポーラの体に触れてみたが、特に痛がる素ぶりも見せなかった。
しかも、他人に手伝ってもらう必要はあるが、ポーラは問題なく食事を行えるようになったのだ。
事のつまり、ポーラは順調に回復している。
もう少し。もう少しだ。もう少しでポーラに会うことが出来る。
正しい意味で、ポーラと再会を果たすことが出来る。
そんな希望が潰えたのは、たった今の事だ。




