幕間の物語:報告会
帝涼介の残した研究結果と、彼から贈られてきた”素材”のおかげで、ポーラは無事に目を覚ました。
けれど、目を覚ましたポーラは三日三晩の間、暴れながら奇声を上げ続けた。
いや、暴れているとは言っても、力は非常に弱弱しいもので、何かに危害を加える事は無かったワケだが、それでも狂った様に奇声を上げ、手足を悶えるようにバタつかせていたのは事実だ。
ポーラのそんな様子は、俺の目には苦しんでいるように見えた。
だから、どうすれば良いかとロウに相談した結果、ロウが原因を探りながら様々な投薬を行い、最終的にポーラは寝息が聞こえない程に大人しく眠りについた。
最初、あまりに静かなものだから少し不安になったのだが、心臓は問題なく動いていた。
「結論から述べますと、ポーラ・アクターの蘇生は間違いなく成功しています」
ポーラの蘇生から4日目の晩、俺とニコラウスとクトゥブはロウからポーラに関しての報告を受けていた。
「じゃあ……なんで、あんな様子だったんだ? 少なくとも、前はポーラがあんな様子を見せる事は無かった」
「それについては、根本的な理由が分かりません。推測が多い報告となってしまいますが、それでも良いですか?」
暗に分かる正確な情報が多くは無いという事をロウから告げられる。
けれど、俺はロウができる推測が出来ない状態だ。
どうしてポーラが奇声を上げながら暴れたのか、俺の言葉が届いている様子が見られなかったのか、それが何も分からない状態だ。
だから、藁にも縋る思いで「今はどんな些細な可能性でも情報が欲しい」と返す。
ロウは少しだけ考えるような素ぶりを見せると、ローブのフードを目深に被り直し、「分かりました。それでは順に報告をさせていただきます」と前置いた。
「まず、この数日間、私はポーラ・アクターの症状の原因を探りながら投薬を行いました。最初は鎮静剤を投薬し、効き目が無いことが分かると、薬が抜けきるのを待ってから次は睡眠導入剤を投薬しました。しかし、それも効き目が無く、今度は鎮痛剤を投薬しました。すると、予想外にも薬が効いたようで、いくらか彼女は声を抑えてくれました」
それぞれ、投薬には意図があるらしい。
鎮静剤は感覚を鈍らせて意識を低下させる事で、ポーラの意識活動の低下を図るつもりだったが、まずはそれが効かなかった。
次に睡眠導入剤で強制的に睡眠状態に落とし、意識活動を強制遮断させるつもりだったが、それも上手くいかなかった。
だから、次は試しに鎮痛剤を導入してどのような反応が見られるかを試したところ、想定はしていなかったが薬の効き目が見られた。
「あくまで推測にはなりますが、ポーラ・アクターは鎮静剤や睡眠導入剤が効かなかったワケではなく、その効き目が別のナニカで搔き消されてしまう状態だったのではないかと思います」
そして、唯一効き目を見せたのが鎮痛剤だった。
つまり……
「彼女は、”叫び続けながら”悶え苦しんでしまうほどの激痛に襲われ続けている可能性があります。試しに鎮痛剤をより強いものに変えたうえで睡眠導入剤も併せて投薬した所、昨晩から今朝にかけてポーラ・アクターは少しずつ大人しくなっていき、最終的には眠りにつきました」
事のつまり、ポーラは奇声を上げていたワケでなく、自我を失うほどの激痛に悲鳴を上げていたという訳だ。
そんな激痛をどうして感じているのかと少し考えて、俺は直ぐに心当たりに辿り着いた。
「あ……そうか、ポーラって…………」
両足を斬り落とされ、舌を斬り落とされ、両目を刳り抜かれ、惨殺された。
彼女の死因は老衰や病気ではなく、身体の損傷だ。
しかも、一度命を落としているほどの痛みだ。
たとえ斬り落とされた両足を繋げ、目を瞼の内側に押し戻し、舌を縫い付けた所で、それはただ継ぎ接いでいるだけだ。
ただ形をもとに近づけただけで、傷がいえた訳ではない。
痛みの根本原因を解消したわけではない。
俺はそんな状態でポーラを蘇生した。
いや、そんな状態でポーラを“蘇生してしまった”。
事のつまりは____
「俺……“間違えた”のか?」
吐き出した言葉は震えていた。
頭の仲がぐるぐると回って、思考が自分の手元から遠くに離れ去ってしまった錯覚を覚えた。
足元の泥砂混合化合物がドロドロになって溶けて、今いる場所に確かな足場が無くなってしまうような感覚を覚えた。
俺は、この感覚を知っている。
これはアレだ。丁寧に積み上げたものが崩れた時の、頑張りが空廻ってしまったときの、全ての取り返しがつかなくなった時の、それを頭が、心がどこかで理解してしまったときの感覚だ。
「違う……まさか…………違う……そんな」
頭が痛む。じんじんと、頭の奥側から外側に書けて染み出すような痛みだ。
俺は、その痛みを誤魔化すために、理解したくなかった事実を誤魔化す為に、頭を掻き毟る。
「貴方が間違えたのかどうか、正直、私にはわかりません。少なくとも、勇者認定課に残された記録を見る限りでは、貴方が行った人造人間技術を用いた死者の蘇生は、過去に帝涼介も確かに行っています。そして、彼は成功させています」
故に、帝涼介が俺に教えた人造人間の技術は確かなもので、その手順に従って執り行ったポーラの蘇生は確かに成功していたのだと、ロウは言う。
「ですが、ポーラ・アクターは蘇生後、主な死因となった傷の痛みに叫び、苦しんだ。少なくとも、帝涼介がアヤセ・ユウカを蘇生した際には、そのような症状はありませんでした。ポーラ・アクターとアヤセ・ユウカ、2人の蘇生の手順自体に違いはありませんでした」
「でも、それは帝涼介が蘇生させたっていう人の死因がポーラと違ったからじゃ____」
「はい。ポーラ・アクターとアヤセ・ユウカは確かに死因が異なります。より、“アヤセ・ユウカの方が惨い死を迎えています”」
「…………は?」
俺の言葉を遮りながらのロウの発言に、俺は固まる。
帝涼介はポーラよりも惨い死に方をした人間を蘇生させただと?
だとしたら…………
「アヤセ・ユウカは、私の記憶が正しければ、ポーラ・アクターよりも損壊が激しかった」
その記憶が正しいものなのかを確認する為か、ロウはクトゥブへ目配せする。
クトゥブは俺を少しだけチラリとみて、ゆっくりと頷いて見せた。
「勇者認定課に残っている記録上も、そうなっている。君の記憶に間違いは無いよ、ロウ」
「待てよ……それじゃあ……」
やっぱり俺、失敗してんじゃん。
そんな思考は普通に言葉として口から零れ出ていた。
「もう一度言います。貴方が間違えたのかどうか、正直、私にはわかりません。」
わざわざ先ほどと同じ前置きをして、ロウは繰り返す。
少なくとも、勇者認定課に残された記録上は、俺の行った人造人間技術を用いた死者の蘇生は、過去に帝涼介が行った物と全くの同一である事を。
そして、帝涼介は俺がやった手法と全く同じ手法で、死者の蘇生を成功させている事を。
結局この時の報告会で得られた情報は、多くは無かった。
まず、ポーラの蘇生自体には成功している事。ただし、ポーラは死因となったケガたちのせいで、耐え難い激痛に常時襲われており、その痛みを堪える為に叫び、悶え苦しんでいるそうだ。
次にポーラが感じているというその痛みは、苦しみは、薬物の投薬で何とか誤魔化す事が出来なくもないという事。
そして、俺に人造人間技術を提供した帝涼介は、問題なく同じ方法で死者を蘇生させていたという事。
結論として、事実情報を整理する限り、俺はポーラの蘇生を“間違えた”という事。
失敗じゃない。間違いだ。
だから、ポーラの心臓は脈動を取り戻し、その体には血が再び巡り始めた。
そう、身体的な機能としては蘇生に成功したのだ。
だが、俺は間違えた。
何をどう間違えたのか、その詳細は一切分からない。
けれど、確かに間違えたのだ。
故に、ポーラは直接の死因となった負傷の痛みに苦しめられ、苦しめられ、苦しめられ、そして__




