エピローグ最終話:それから(後編)
俺が洞窟を訪れた後、ポーラはクトゥブの手配で魔王軍の所持する医療施設へと移された。
氷の洞窟があくまでも自然界のものである事から、超長期間の間、体の腐敗を防ぎながら保管するには洞窟で保管するよりも医療施設の地下で人の手を加えながら保管したほうが良いと、クトゥブが言ったからだ。まぁ、他にも理由はあったが今は語る必要は無いだろう。
それから俺は、ロウに協力してもらって無数の"資料"を集めた。
何についての資料かは言うまでもない。
ポーラを生き返らせる為の、"人造人間″技術についての資料だ。
出版会社から正式に出版された本だけではなく、制作者不明のメモ書きやら学会資料やら、とにかく、集めることが出来る資料は片っ端から集めて貰い、俺は寝る時間も惜しんでそれらに目を通した。
時には俺自身が資料の収集にキノクニやヒノクニを練り歩く事もあった。
そして、今の今に至る。
何だか個人的な話しか書けていないな……
俺が書いているのだから身の回りの話が多くなるのは当たり前だが、流石に身の回り以外の話が無さ過ぎる。
少し、”世界はどうなっているのか”の話をしよう。
目覚めて直ぐにロウたちから聞かされた通り、人類の国は主に2つの国プラス特殊国家を残し、全てが壊滅していた。
滅んだ国に住んでいた人々は、全員が命を失ったわけではなく、魔物が各国の王城を陥落するまでになんとか逃げ出した人も居た。
その逃げ出した人たちのさらに一部は楔国やヒノクニに偶然ながらに辿り着き、保護されたワケだが、そういった“難民”が各国で保護され始めた頃、両国では別の問題がタイミングを見計らっていたかのように浮上した。
国民の中に、ある日突然“超常の力が使えるようになった”と訴える人々が現れたのだ。
それも、数人程度ではなく、数十人……数百人規模で。
最初に報告を受けた頃、楔国は崩壊した街並みの復興に忙しかったし、俺たちは旧日本の再構築に奔走していた。
だから、魔王軍の末端の方から上がってきていたその報告を、訴えている当事者たちの勘違いか何かだろうと思っていたし、報告が積み重なっても暫くの間は精神疲労による集団幻覚か何かだろうと思っていた。
けれど、ある日ふと魔王軍の魔物が連れてきた人間が、実際に俺たちの前で何もない空間から水を搾り取って見せた事で、勘違いしていたのは俺たちの方だったのだと気づかされた。
その時に俺たちの前に連れてこられたのは、6歳くらいの小さな子供だった。
その子供は魔物にかなり怯えている様子だったが、「あの水を出す奴をやってみてくれよ」と魔物に言われ、思い出したような表情を見せたかと思うと、虚空に手を伸ばし、ピンと肘が張ったところで開いた手のひらを閉じて見せた。
「ふんっ!!」
息を止めるみたいにして、子供は力んで見せる。
頬が一気に膨らんで、ゆっくりと萎んだ。
「……ほら」
そうして自信なさげに差し出された凹凸の少ない子供の手のひらには、喉を潤すこともできない程の少量の水が溜まりを作っていた。
「…………」
きっと、候補勇者として旅立つ前の俺だったら、これだけの事で“人間が超常の力を使った”などと信じる事は無かっただろう。
けれど今の俺は、もうそれほど純粋に無垢ではいられなかった。
俺は確かに見たのだ。いや、正確には俺たちは確かに見たのだ。
ウィークも、ロウも、クトゥブも、ニコラウスも。
俺たちの前に連れてこられた子供が、閉じた手のひらに力を籠めるその瞬間、小さな手のひらの周りの空間が、僅かにだがそれでも確かに、ぐにゃりと歪んだのを。
そこからは事の進みが早かった。
旧日本の再構築を進めるのと同時進行で、ロウと御家二十一家に手伝ってもらい、各々の領地で超常の力を発現したと噂された人たちを集めた。
魔王城に集めるのはさすがに厳しかったから、北日本と南日本をつなぐわずかな陸地____幕府領に在る、俺に与えられた御家当主としての城に集めたわけだが、そっちの城の話は今はしないでおこう。必要がない情報だし。
とにかく、俺たちは超常の力を発現したという人々を集め、その力の検証をした。
虚空から水を取り出す者、手のひらから火の玉を出す者、体の周りに雷を纏う者。
そんな感じで、集めた人々はその噂の通り、俺の目の前で超常の力を使って見せた。
超常の力を発現したという人々の共通点を探ったが、これといって目立った共通点は見つからなかった。
ただ、超常の力が発言した人々に共通点は無かったが、彼ら彼女らが超常の力を使う瞬間には明確に共通点があった。
そう。超常の力を使う際、周辺の空間が歪んだのだ。
手から火の玉を出すときは手の周りの空間が、体に雷を纏う時は体の周りの空間が、ぐにゃりと歪んだ。
それは、短い候補勇者としての旅路で何度も見た、魔法を使う瞬間のソレだった。
暫くすると、手のひらから火の玉を出していた青年が、体に雷を纏って見せていた。
それだけじゃない。虚空から水を取り出していた少年は自身から離れた位置で小爆発を起こせるようになっていて、体に雷を纏っていた少女は手で触れることなく金属を宙に浮かせる事ができるようになっていた。
さらに、今まで何てこと無かった一般人も、超常の力を使えるようになっていた。
複数の超常の力を使えるようになった人も、新たに超常の力を使えるようになった人も、皆、そのうち口を揃えて言った。
「何故だか分からないけれど、こう、力の使い方が分かるんだ」と。
そこまで来て、俺たち魔王軍幹部は魔王城でニシゾノハルアキが口にしていた言葉を思い出した。
再編という魔法を使って、誰もが魔法を使う事が出来るように世界を作り直した、というあの言葉を。
「“コレ”は、もう魔法と断言して良いのでは?」
最初に切り出したのは、ロウだったかクトゥブだったか。
調査を続けていくうちに、誰かがそんなことを言った。
正直、誰が言ったのかは重要ではなかったから誰も気にはしていなかったが、たぶんロウかクトゥブのどちらかが口にしたであろうその言葉に、俺たち魔王軍幹部は誰も否定の言葉を被せなかった。
皆が皆、「そうだな」と受け入れた。
同時期に楔国でも同様の結論に至っていたようで、ある日を境に一部の人々に宿った超常の力を魔法と呼称する事が旧日本で決まった数日後、カローンナから俺たち宛てに届いた手紙に、楔国側での超常の力に関する調査の長々とした報告に加え、楔国では今回騒動となった超常の力を魔法と断定して問題ないという結論が記されていた。
そうして、非日常の部類にあった魔法という超常が、俺たちの日常に混ざり込んだ。
人類の国は数えられる程しか残されておらず、人々と代わって無数の魔物たちが我が物顔で世界を闊歩する。
世界には7人の魔王が生まれ、残された人類はどうでも良いといった様子で国取りゲームをはじめ、俺たち人類の日常には魔法という超常が混ざり込む。
そうして、世界は再編を迎えた。
はい。これにて世界再編と犠牲の勇者譚、第一部『或る魔法使いの物語』が終了となります。
第一部は世界再編という物語の長すぎるプロローグにするつもりで書いたお話なので、こういった終わり方になっています。
コレは、ニシゾノケイタの物語でもありましたが、世界再編と犠牲の勇者譚の長い事前説明でもありましたので、ニシゾノケイタにフォーカスした終わり方はしていません。
彼の終着はまた別で決めてあるので、後々改めて書かせていただきます。
後日更新するちょっとした幕間はケイタについての幕間ですが、これは後々でやるケイタの物語の早めのプロローグになります。
ちょっとひどいお話になると思いますが、ケイタ達の行く末に待つのはハッピーエンドにするつもりなので、ご安心ください。
それでは、幕間の更新をお楽しみに。




