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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 エピローグ 或るいは誰かのプロローグ

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エピローグ最終話:それから(前編)

すみません。

ちょっとした後日談がちょっと長くなっちゃったので、前編後編の2分割で投稿します。

本当にごめんなさい。

 俺が魔王に就任して、王としての役割をクトゥブ達に丸投げしますと民衆(魔物たち)に宣言したあの日から、早いものでひと月が経った。


 このひと月の出来事について、何から話すべきだろうか。

 本当に沢山の事があったから、全てを事細かに話すことはできない。

 けれどまぁ、これは日記として書き記しているモノなのだから、少しずつ順に書いていこう。


 まず俺は、ロウとクトゥブから“キノクニのルール”を聞かされた。

 旧北日本(キノクニ)というよりは、“旧南日本(ヒノクニ)を含めた旧日本全体”のルール……いや、歴史についてなのだが、この国は俺が思っていたよりもずっとおかしな国だった。


 例えば、この国には21の(小国)があり、それぞれの國を御家二十一家と呼ばれる家系の人たちが統治しているらしいし、俺はあれこれの制度上、その御家二十一家というやつの1つの党首という扱いになるらしい。

更には勇者ルールもヒノクニ独自のモノがあるらしいし、勇者認定課で管理していた人類の国にはちゃんとヒノクニも含まれているらしい。


 どれもこれも、西暦時代のゲームの設定みたいというか、誰かが考えたような安易な創作物みたいな話で、現実味がなかった。

 けれど、ロウが用意してくれた勇者認定課の蔵書の数々を見る限りでは、聞いた話のどれもが真実だった。


 旧日本には21の國があって、それぞれを御家が統治していて、長くは無い三十数年の時間の中で“専用の勇者ルール”を運用し続けて、独自の文化や信仰(歴史)を積み上げていた。

 どれもこれも、公式の記録として残された事実だった。


 それから俺は、魔王軍の幹部たちと数日かけて顔を合わせた。

 ウィークは既に顔見知りだったが、ほかの面々は新任の幹部を除いて全員が初対面だった。

地下でウィークから聞いた通り、ピースは……アビゲイル・キャンベルは既に命を落としていて、彼女と顔合わせをする事は無かった。

 

 本人は否定していたけれど、ロウやクトゥブに聞く限り、アビゲイルを倒したのはニコラウスらしい。

なんでも、ニコラウスは本物の聖剣の欠片を使用して疑似聖剣を作ることに成功していたらしく、その力でアビゲイルを倒したそうだ。本人は否定していたけれど。


ただ、ニコラウスは疑似聖剣を作ったことに関しては事実だと言っていて、アビゲイルが命を落とした事で空席となった魔王軍の武器職人(ウェポン・スミス)の座に、アビゲイルの後釜として着く事になった。


最初はクトゥブやウィークの勧誘を嫌がっていてカローンナの元で働くと言っていたが、カローンナに要らないと言われて魔王城に戻ってきて、アビゲイルの後釜に着く事が決まったという課程があるが、その話はまた別の機会にしよう。


 魔王軍幹部との顔合わせが終わってからは、候補勇者による魔王城襲の被害実績に目を通した。

 別段興味は無かったが、魔王という役職に就いた以上は形だけでもやっておく必要があると言われて、ロウから渡された魔王軍側の損害をまとめた資料をはじめとしたいろいろな資料に嫌々ながら目を通した。


俺が真面目に見たのは候補勇者の死亡者リストと行方不明者リストだけだった。

 他のものには興味が無かったからというのもあるし、死亡者リストの中にレオの名前が無いことを確認して安心したい気持ちがあったから。


 結論から言うと、死亡者リストの中にレオの名前は無かった。

 それどころか、カレンの名前も無かった。

 俺は真白と相対する直前、息絶えたカレンに出会っていた。

 けれど、死亡者リストの中にカレンの名前は無かった。

 何かの間違いじゃないかと思って確認すると、2人の名前は行方不明者リストに載っていた。


 俺はレオの行方を探る為、レオが行方不明になる直前の映像をロウに観せてもらった。

映像はレオが米国(オリジン)で対峙したものよりも更にずっと強くなっていた邪竜事象(ファヴニール)と戦っている瞬間を映したものだったが、途中で強烈な爆発に飲み込まれるようにして映像が止まってしまい、最終的にどうなったのかは分からなかった。

その瞬間から、レオの消息は不明、死体も見つからない事から、行方不明者リストへと名前が入れられていた。

 

 カレンはと言うと、俺が真白の元へ向かって暫くして、ふとした瞬間に姿を消したらしい。

 こちらはレオとは違い、直前の映像が残されてはいなかった。

 ただ、俺が倒れた後にウィークが確認したときには、既にカレンの姿が無くなっていたらしい。

 

 ちなみにだが、アイラとアルデバランとダフネは無事に生きていた。

 まだ再会は出来ていないけれど、俺が寝続けている間にアイラとアルデバランだけは見舞いに来てくれたらしい。ただ、そこからの3人の足取りは知らない。


 次に俺がしたことは、ポーラを迎えに行く事だった。

 ウィークを護衛に大雪で真っ白に染まった八幡村へと行き、八条(かなえ)に真白が命を落とした事を伝え、アカミネと合流したあと、俺たちはアカミネに先導されてポーラを保存していた氷の洞窟に行った。

 

 氷の洞窟は俺たちが旧日本に辿り着いてから八幡村へ向かう際に超えた山の直ぐ近くにあった。

 ぱっと外から見た限りは雪に埋もれた山にポツリと姿を見せた普通の洞窟にしか見えなかったが、等間隔で明かりが灯された細く足場の悪い通路を進んでいくと、そのうち氷だけで作られた異様な空間に辿り着いた。

 

 山の内側の殆どが空洞なのではないかと錯覚するほどに拾いその空間は、足元も壁も、天井も、天井を支えるようにそびえたつ幾つかの太い柱のようなものも、全てが青く半透明だった。

 例えるまでもなく視界に映る世界は氷漬けだったワケだが、そんな氷漬けの空間からさらに奥へ奥へと進んでいくと、ふと氷に鉄の扉が埋め込まれた異様な光景に出くわした。

 

 アカミネがあり得ないくらい分厚くデカい手袋を身に着け、取ってを掴んで引っ張ると、パキリパキリと不安になるような音を立てながら、少しずつだが扉は開いた。


 開かれた扉をくぐると、四方を鉄で作られた広くは無い空間が広がっていた。

 四方が鉄で作られたとは言ったが、鉄が剝き出しになっているわけではなく、青く透明な氷で表面を覆われている。

 しかも、さっきの広い空間よりも圧倒的に寒い。

 俺はかなり厚手の上着を着ているが、それでも自然と体が震えるほどには寒かった。


 この氷の洞窟もそうだが、どこから突っ込んで良いか分からない。

 出来上がった経緯もわからないし、明らかに人の手が加えられているその理由もわからない。

 分からない事だらけだが、ひとつだけ分かる事があった。

 それは、氷漬けの空間には青く透明な棺がポツリと1つ置かれているという事。

 アカミネはその棺へと歩み寄り、重そうな蓋をゆっくりと持ち上げた。


「さぁ、お姫様との再会だ」


 出会ったばかりの頃からは想像できないほど穏やかな、どこか憐れむ調子のアカミネの声。

 そんな嫌な声に背中を押されて、棺に近づき、中を覗き込むと____


 ____そこに、ポーラ・アクター《愛しい人》は眠っていた。

 

「あ……あぁ…………」


 俺が最後に目にしたのは、両足を切り落とされ、舌も切られて両目も抉られている姿だ。

 その後、開いたままの瞼を閉じさせ、苦痛に歪んでいた表情は解いたが、それでもやはり、痛みや恐怖に歪められたあの表情が頭に焼き付いている。


 けれど、眼前に眠るポーラはそんな俺の記憶を破り捨てる様に、ごくごく自然に眠っている様にしか見えなかった。

 よくよく見れば、目のあたりは骨にそって陥没はしておらず、斬り落とされた両足はちゃんとくっ付いていた。

 縫った後が痛々しいが、それでも”あのように”なる前の形を保っていた。

 両手は腹の上で組まれていて、顔にはどのような苦痛も滲んでいない。

 だから、痛々しい部分はあるが、それでも自然に眠っているようにしか見えなかった。


「お前らが出て行った後にな、氷の洞窟にポーラちゃんを運ぼうとしたら、事前に事情を説明してあった鼎さんに言われたんだよ。もし本当に生き返らせようとしているのなら、斬り落とされた両足や舌、抉られた目なんかをくっつけて、怪我は可能な限り直した方が良いってな」


 ポーラと再会して言葉が出てこない俺に、アカミネは言った。

 けれど、俺はそれどころじゃなかった。

 鼻の奥の方がツンと痛んで、両目が熱くなって、本当にそれどころじゃなかった。


 俺は、ポーラと再会する瞬間の自分を想像して、たぶん泣く事だけは無いだろうと思っていた。

 それは彼女と本当の意味で再会を果たした瞬間に初めて許される事だろうと、どこかで考えていたから。

 けれど、そんなものは”その時”になってみないと分かるはずがない。


 だから、“その時”になった今、俺は涙を堪えるのに必死だった。

 いや、別に知った顔しかこの場に居ないのだから涙を流せば良いだろうと、今の俺を他人が見たらそう思うだろう。

 けれど、ダメだった。涙を流すわけにはいかなかった。

 今ここで泣いてしまえば、俺はひと区切りに安堵して足を止めてしまいそうだったから。


 せっかく、新たな旅路に向けて一歩を踏み出そうとしていたのに、それが出来なくなってしまう。

 だから、俺は必死になって涙を堪えた。

 そんな俺を他所に、アカミネは言う。


「なんでも鼎さん曰く、“帝家の当主はそうしていた”らしくてな、死んだ理由が大怪我だったりした場合は、その怪我を残したまま生き返らせると、なんか不都合があるらしいんだ。だから、鼎さんに頼んで医者を呼んでらって、なんとか両足と舌と両目をくっつけたってわけ」


 どうだ? 上手いもんだろう?と、アカミネは他人事の様に言ってきた。

 誇らしげにするわけでもなく、感情移入をするわけでもなく、本当に他人事のように、アカミネは凄いよなと言った。


 俺はそんなアカミネの言葉に気の籠っていない返事を返し、歪む視界から世界の欠片が零れ落ちないよう、必死になって堪えた。


暫くして涙を堪える必要が無くなると、俺は改めて人の形を何とか取り繕ったポーラの姿を見た。焼き付けるように。これから先の俺の旅への勇気を貰うために。

俺は、自らの罪を両の瞳へ映した。

そして________


「ただいま」


 言葉が返ってこないと分かっていて、俺はそう言った。


「___________」


 当然言葉は帰ってこない。

 背後でアカミネが何かを言おうとしてぐっと堪えたのが分かった。

 

「待たせてごめん。本当は今すぐにでも起こしてあげたいけど、まだ人造人間(ホムンクルス)についての情報収集が出来ていないんだ。だから、もう少しだけ待っていて欲しい」


 必ず起こしてあげるから、と。

 また一緒に買い物に行こう、と。

 今度こそ、美味しい紅茶を飲みに行こう、と。


 俺は継ぎ接ぎの言葉を紡ぎ、旅立ちの挨拶を告げる。

 眠るポーラの前髪に指先でそっと触れ、新たな旅路の序章の頁をめくる。


「じゃあ、行って来るよ」


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