幕間の物語:国王と勇者の成り損ない
候補勇者達が旅立ってすぐの事。
他の付き人を先に米国王城へと帰し、ケビンと国王は二人きりで巨大な塀を間近で眺めていた。
「あの子さ、あの赤髪の彼」
自分の左手に立つ国王が肩を小突きながら言ってくる。
小突かれたのは怪我を強引に治して樹脂製補助固定布で変に動かないように固定してある方の腕で、痛みを感じてケビンは顔をしかめた。
「やめてくださいよ。そっちの腕は痛いんですから」
「あ、ごめん」
しゅんとする国王。
こんなにわかりやすく感情が起伏する男が自分の暮らす国の国王だと思うと、少しだけ頭が痛かった。
ましてや自分が忠誠を誓った相手なのだと思うとタバコの煙が恋しくなってしまう。
ただ、ケビンは上司が隣にいるからとタバコを控えるような人間ではない。
胸ポケットからタバコの箱を取り出し、中から一本を抜き取って口にくわえた。
「で? レオがどうしたんですか?」
ズボンのポケットからライターを取り出し、タバコに火をつける。
染みるように口に広がる主流煙は旨かった。
「あの子さ、君と同じようなことを言ってたよね」
楽しそうに笑いながら、国王は言う。
とてもついさっき娘を死地へ送り出した人間の表情には見えなかった。
いやはや。素でその表情になっているのか作っているのか。
国王はつくづくわからない人間だ。
「同じ…と言うと?」
「俺は勇者だってやつ」
「ああ。あれっすか」
雑に言葉を返しながら、ケビンは自分が旅立った日のことを思い出した。
旅立つ前から仲間が全滅し、一人で旅立ったあの9年前の同じ日のことを。
「俺が言ったのはレオとは少し違いますよ」
「あれ? そうだっけ?」
「ええ。そうです」
「じゃあ何って言ったんだっけ?」
ほとんどが灰になり、短くなったタバコを足元に捨てる。
それをグリグリと革靴の先で念入りに踏みつぶしながら、ケビンは深く息を吐いた。
肺に押し込められなかった白い煙がもくもくと口から溢れ、空へと溶ける。
「内緒っす」
わざとらしく笑みを作り、ケビンは言った。
それは俺だけの秘密だと言葉の裏に言葉を隠し。
忘れたのならそのまま忘れたままでいろと遠回しに国王へと吐き捨てた。
「ほら行きますよ。街の復興が残ってるんです。いつまでもこんなところで油を売ってちゃダメでしょ」
友人に冗談を言うような調子でケビンは吐き捨てる。
虚言をつらつらと口から吐き出す。
俺はもう勇者でもなんでもないんだと自分に言い聞かせ、そんなことはよく分かっているさと自分で自分の言葉に吹き出しそうになる。
車のエンジンをかけ、未だに塀を眺め続けている国王に今一度声をかける。
「ほら。早くしろよ国王。あんたの仕事はそこで立ってることじゃないだろ」
「分かってるよも〜。もう少し優しく言ってくれてもいいんじゃないの?」
「へいへい。分かりました分かりました」
国王の言葉を雑に流し、ケビンは空を見る。
「……あ、鳥」
ケビンの視界には空を優雅に飛ぶ2羽の鳥が見えた。
2羽は片方の羽を重ね合わせるように飛んでいる。
「え、なんだって?」
急いでケビンの元へ来た国王は耳ざとくケビンの独り言を拾った。
ケビンは今度こそ本物の微笑を国王へと向け、
「なんでもないっす。ほら、行きますよ」
そう誤魔化しながら暖房が効き始めの車に乗り込んだ。
ケビンの瞳に、空は青くは映らなかった。
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