幕間の物語:少年と気まぐれ
楔国へ向かうため、北の方角へ歩き始めて数時間後。
故郷を取り囲む塀が無限に広がる草原に隠されるように、視界に映らないほど遠く離れた頃。
喉が渇いた俺は立ち止まり、水を取り出そうと荷物鞄を漁った。
すると、荷物鞄の中から丁寧に折りたたまれた一枚の紙が出てきた。
見覚えのない紙だった。
それを解いて中を見ると、そこには今はもう見ることの無くなった見慣れた筆跡でこう書かれていた。
『頑張れ!』
すぐにぐしゃぐしゃに丸め、道端へと放り投げる。
頭に…血が上った。
「あのクソジジイ…」
俺を突き放した祖父が今更なにを思ってこんな‘手紙’を?
そう思うと、腹が立たないはずがなかった。
「なにしてんだよ。行くぞ」
立ち止まっていた俺は前を行くレオから声をかけられる。
「ほら、早くしないと置いて行くわよ」
レオにつられて俺の方を見たカレンが呆れたように言う。
「えっと…あの、ほら、行きましょう?」
もじもじとしながら、ポーラは恐る恐る俺に手を差し出してくる。
こんなことをしているが、ポーラも俺と一緒で少しだけレオやカレンよりも歩くのが遅れている。
ポーラの頬はほんのりだけど赤く染まっていて、息も少し切れているな。
強がっちゃいるが、ポーラも疲れているんだ。
「ああ。ごめん」
俺は慌てて歩き出す。
レオとカレンに足を止めて悪かったと謝罪をするために「ごめん」と言い、歩き出す。
ふと、ポーラに差し伸べられた手をどうしようかと思った。
前のように「強がんなよ」と吐き捨てて手を払いのけてしまおうかと思った。
…けど、俺は思いとどまった。
「行くぞ」
そう言い、俺はポーラに差し伸べられた手をしっかりと握り、彼女の手を引いた。
「えっ、あの」
動揺するようなポーラの声が聞こえるが気にしない。
今の俺は少しだけ不機嫌なんだ。
機嫌を直すのに付き合ってもらうさ。
そんな俺たちの様子を、レオはつまらなさそうな顔で見ている。
レオだけじゃない。カレンもだ。
少しだけ視線が痛いが気にしない。
「疲れたら言えよ。負ぶってやるから」
自分でも自分の心境がわからないが、俺はなぜかそんなことをポーラに言っていた。
柄にもないことをしているなと思ったし、後々になって恥ずかしさがこみ上げてきて後悔したけど、たまにはこういうのも悪くはないんじゃないかとも思えた。
歩を進める先には、薄っすらとだけど木々の輪郭が見えはじめている。




