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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 第3章 門出編

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第28話:門出(3)

「か…完全な再編って何だよ」


 また、考えていたことが口に出てしまった。


「いや、完全な再編って言ったら完全な再編だろ」


 まるで俺がおかしなことを言っているかのように、それを理解できないとでも主張するように、ケビンは顔をしかめる。


 他の付き人たち…ジョージ、アリス、ヒシギの3人もケビンに賛同するように頷いている。

 …国王もだ。


「まぁ時間もないことだし、最後まで話を進めるぞ」


 そう言うと、国王はジャージのポケットから小さな布袋を取り出して勇者リーダーであるレオに渡した。


「これは?」


 渡された布袋をつまみ上げ、レオが問う。


「見ての通り支給金だ」


 全然見ての通りじゃねぇ。


「いくらだ?」


「気持ち程度だ」


 そう言われ、レオはちらりと布袋の中を覗いた。


「こんだけか?」


生憎あいにくと街の復興に金がかかるのでな。それで我慢してくれ」


「支給はこれっきりか?」


「これっきりだ」


「マジか」


「そのために旅立ったあとの金の稼ぎ方も教えただろう?」


「あれって、そう言うことだったのかよ」


 いや、レオも言ったけどマジかよ。


 一体いくら渡されたのかは分かんねぇけど、レオが頬を引き攣らせていることから額がかなり低いのだろうと予想できる。

 ただ、俺がマジかと思ったのはそこじゃない。

 支給がこれっきりという点だ。


 それはつまり、今後は非干渉であるということの裏返しでもある。

 それはつまり、俺たちの今後の命やら生活やらの保証は一切しないということの裏返しでもある。


 旅立つということの厳しさみたいなものがより一層現実味を帯びた気がする。


 誰にも頼れない。

 誰も助けてくれない。


 頼れるのは一緒に旅立つ候補勇者だけで、まぞくだらけの世界で信用できるのも一緒に旅立つ候補勇者だけ。


 少しだけ、怖いと感じる。


 そうやって怖気付おじけづく俺の様子など気にすることなく、国王は自慢の髭を弄りながらなおも話を続ける。


「事前の説明でというか、一般常識として‘候補勇者の旅立ちは特殊国家である楔国トリガーを出発地とする’と定められているわけだが、楔国トリガーへは候補勇者が自力で向かうのではなくそれぞれの国が責任を持って候補勇者を輸送することになっている」


「まぁ常識だろうな」


 ケビンがヤジを差し込む。

 それが国王の話のテンポを整えるものであることは容易に分かった。


「うむ。しかし…な、昨日の事件が原因で米国アメリカは候補勇者を楔国トリガーへと輸送することができなくなってしまった。だから、4人には自分の足で楔国トリガーへ向かってもらう必要がある」


「それはつまり、私たちの旅立ちはこの街が…米国アメリカのオリジンが出発地スタートになるということですか?」


 確認をするようにカレンが問う。


「うむ。そう言うことになる」


「ハッ! じゃあ魔王城まおうじょうに直行しようぜ。それで俺たち米国アメリカ代表の候補勇者が魔王を倒して勇者役の俺が正式な勇者に成って全部終わりだ」


 犬歯をむき出しに、レオは獰猛に笑う。


 つーか、お前まじでそんな自信がどこから湧いてきてんだよ。

 邪竜事象ファヴニールにもウィークにも勝ててないだろ。

 勝ててないというか…一度……。


 まぁとにかく、その有り余ったような過剰な自信を俺にも少し分けて欲しいものだね。


 自信満々といった様子のレオに、国王は「それはダメだ」と返す。


「何がダメなんだよ」


「魔王城に直行というやつがダメなのだ。最初に必ず楔国トリガーへと向かえ」


「どうしてだよ」


「どうしてって、お前さんたちは目的地を知っているのか?」


「魔王城だろ? 魔王城って言うぐらいなんだから魔王はそこにいるはずだ」


 レオの言葉に賛同しようと、おれは頷く。

 見るとカレンも同じように頷いていて、ポーラは…あれ?

 ポーラは気まずそうにうつむいてるぞ?


 国王が呆れたようにため息を零す。


「じゃあ、その魔王城って言うのはどこにある? 正確な場所は?」


「……あ」


 言葉を返すことができず、レオが固まる。


「な? その辺りも含めて、お前さんたちは’何も知らない’だろう?」


 ハッとした。


 確かに、俺たちは何も知らなかった。


 魔王を倒さなければならないという漠然とした使命感と魔王を倒すという漠然とした目的だけは落とし込まれていたから知っていたが、それ以外の全てを俺たちは何も知らない。


 言われてみればずいぶんと酷い状況じゃないか。


「ようやく理解できたか?」


 自慢の髭を弄りながら、国王はドヤ顔で言う。

 ドヤ顔すんな。


「そう言うことだ。だから‘君たち’はまず、この街から旅立って楔国トリガーを目指せ。そこで欠けている情報を手に入れることができるだろう。魔王討伐の旅はそこからだ」


「旅立ちの日時は?」


 どうしても聞かなきゃいけない気がして、俺は聞いた。

 ビビってるのか、声が震えた。


「このあとすぐに決まっているだろう。何のためにこの場に全員が集まっているのだと思っているんだ」


 心臓が大きく高鳴った。

 命の危険を感じた時のような、ゆっくりとした大きくて力強い心臓の高鳴りだ。


「まぁ貴様も寝起きだからな。本当に今すぐ旅立てとは言わん」


 国王がちらりと時計を見る。


「今の時刻は10時だ。太陽が真南の空に高く昇る頃合いに出発ということにしようか」


 そこは普通に正午って言ってくれればいいだろ。


「おっさん。格好つけずに正午が門出の時間だって言っとけよ」


 3周ぐらい回って普通にダサいぜ? とケビンが俺の気持ちを代弁してくれた。

 ナイスだケビン。


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