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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 第2章 第二次革命未遂事件編

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第21話:第二次革命未遂事件(12)

 巨木のような四つの足でしっかりと地面を踏みしめる邪竜事象ファヴニール。黒燐に身を包んだソレは、背丈で言えば5メートルほどの体躯を誇っている。

 昔に作られた物語などでは二本足で立つ竜種ドラゴンもいるが、目の前にいる邪竜事象ファヴニールはそうではない。


 体格がでかい竜種ドラゴンは、その重量の都合で二本足で立つ事ができない。

 膨大な自重をわずか二本の足で支える事ができないのだ。だから前足を人間でいう手のように扱う事もできない。


 前々から知ってた話だが、実際に竜種ドラゴンに会いまみえてみると、自重を支えるために四つ足で立たなければならないと言う物理原則の話が本当にありがたいものであると痛感できた。


 先陣を切るレオに向かい、前足を片方持ち上げて振り下ろす邪竜事象ファヴニール

 だが、その動きは過剰に大きなものであり、かつ緩やかなものだった。


 ゆっくりと持ち上げられ、ゆっくりと振り下ろされる鋭い爪を持った猛々しい前足を、レオは息をするようにかわしてみせる。

 そして、振り下ろした前足が地面を踏みつける形になったところで、レオは邪竜事象ファヴニールの振り下ろした側の前足の裏に回り込み、ひかがみめがけて剣を振るった。


−ガギィン!


 と、金属同士が弾き合うような甲高い音が鳴り響く。

 レオの振るった剣が邪竜事象ファヴニールの膕にはじき返された音だ。


 …竜種の肌ってそんなに硬いものなのかよ。


 通常、人体構造において関節部と言うものは体躯を支える上で重要な噛み合わせを行っている部分であり、中でも膝や肘は、裏側である膕や肘窩ちゅうかが関節部に比べてものすごく柔らかく、もろい構造になっている。

 関節というものの機能を生み出す上で仕方のないものだ。

 裏も表もガッチガチになってたら関節部は動かねぇもんな。


 だが、邪竜事象ファヴニールはどうやら例外の部類に入るらしい。

 剣を弾くほど膕の部分の皮膚が硬化していると考えるのが妥当か…


「ッマジかよ!」


 レオの声が動揺の色に染まる。


「私が行くわ!」


 そう言うと、カレンは再び前足を持ち上げようと動き始めた邪竜事象ファヴニールの、その前足を駆け上って背に乗った。

 深呼吸をし、何かを物色するように剣先を泳がせるカレン。


 カレンが攻撃をどうしようかと悩んでいる間に、俺は邪竜事象ファヴニール腹下はらしたに潜り込み、思い切り突き上げるような形で剣を振った。

 

 腹部を地面に向けている状態の生き物は他の部分が鱗とかで頑丈に覆われていたのだとしても、腹部だけは案外柔らかい質感だったりするからな。

 亀とかオオトカゲとかもそうだろう。オオトカゲは知らんけど。


「うらぁあああああ!」


 と、全力で自身の上部へと放った俺の一撃は−


−ガギィン!


 と言う金属音とともに、当然のように弾かれる。


「これでも無理なのかよ」


 剣を握っていた手のひらに振動が来る。

 俺が剣に乗せた体重というか、俺が放った攻撃の威力がそのまま丸々返ってきた感じだ。めちゃくちゃ痛い。


 てか、本当に鉄を斬ろうとしたときの感覚に似ているぞ。

 腹に鉄板でも入ってんじゃねぇの?


 そうは思ったが、呼吸に合わせて腹部が上下している事から鉄板が腹に入っている事はないとわかってしまった。

 まぁ、そんなもの見なくても生き物の腹の中に鉄板が埋まってるなんてあるハズがねぇけどな。


「よし決めた!」


 俺の頭上。

 邪竜事象ファヴニールのせの上からカレンの声が聞こえる。

 そして、


−ガギィン!


 と言う金属音が当然のように聞こえてきた。



 そのまましばらく探るように戦ったが、状況が変わる事はなかった。

 邪竜事象ファヴニールのゆっくりで大ぶりな攻撃を躱す事はできるが、こちらの攻撃が全くもって通らない。

 ある種の膠着こうちゃく状態じょうたいだと言ってもいい。

 繰り返される攻防に…いや、互いの攻撃に意味などない。


 俺たちは一旦だが邪竜事象ファヴニールから距離を置き、民家の陰に隠れて作戦会議をすることにした。


「どうする?」


 息を切らせながらも、どこか楽しそうな様子でレオが聞いてくる。


「なんでお前そんなに楽しそうなんだよ」


「楽しいからだよ。勇者に選ばれて、魔王軍が攻めてきて、竜種ドラゴンと戦って。そんなの楽しいに決まってるだろ」


 レオのその感覚は俺には分かんねぇや。


「楽しいかどうかは置いといて、俺に考えがある」


「聞かせてくれ」


「あいつを倒す事はできないが、戦闘不能状態にすることなら一応はできる」


「一応はってどういうこと?」


 首をかしげるカレンは体のラインがくっきりと出る細身のドレスを身につけているが、そのところどころが破れていてチラリと白い肌が見えてしまう。

 足だとか…足だとか。


 俺は逃げるようにカレンから目を逸らした。

 逸らした視線の先でレオがジト目で俺のことを見てきた。なんだよ。


「一応はって言ったのは、まだよく邪竜事象ファヴニールのことが分からないからだ。戦ってみた限り、アイツはかなりの高度の皮膚を持っている。だから刃が通らないんだ。けどな、動きは大ぶりでゆっくりだろ? なぜだと思う?」


「そうか! 動けないからか!」


 パチンとレオが指を鳴らす。

 全く。格好つけやがって。


「正解だレオ」


 俺もレオを真似して指を鳴らしてみる。

 上手く鳴らなくて、ポコッという間抜けな音がした。

 

 うっわ恥ずかしい!

 二人とも可哀想なものを見る目で俺を見てくるし。


「と、とにかく、レオの言う通りで邪竜事象ファヴニールは頑丈な体を持つ代わりに素早く動くことや激しく動くことができないんだ。その正確な理由はわからないけど、鉄板を折らずに曲げるのが難しいのと同じ理由か自重を支えるのが難しいという理由か、まぁそんなとこだろ」


「で、戦闘不能にするってのだどうやるんだ?」


「転ばせるんだ」


「……そういうこと! もし、皮膚や体の硬さが理由で動きが鈍いのだとしたら、体の可動領域には限界があるものね…!」


「そうだ。で、もしカレンの言う通りに邪竜事象ファヴニールの体に可動領域の限界があるのなら、転ばせることさえできればアイツは起き上がることができない。自重が重すぎる都合もあるからなおさらだろう」


「なるほどね。じゃあ俺たちは邪竜事象ファヴニールを転倒させれば勝ちということだな?」


「ああ。そういうことだ」


面白おもしれぇじゃねぇかよ」


「どうやって邪竜事象ファヴニールを転倒させるの?」


「それなんだけど、やっぱり邪竜事象ファヴニールが攻撃のために前足を持ち上げた瞬間しかねぇと思うんだ」


「なるほどな。持ち上げた側と同じ側の後ろ足を攻撃してバランスを崩そうってことか」


 パチンと指を鳴らし、獰猛な笑みを浮かべるレオ。

 俺はレオの真似をしてもう一度指を鳴してみる。


 ……当然のように失敗した。

 っず!


「さ、冴えてるじゃねぇかよレオ。お前の言う通りだ」


「できねぇなら指鳴らさねぇ方が格好がつくぜ?」


 余計なお世話だ。


「でも、邪竜事象ファヴニールに私たちの剣は効かないわ。どうやってバランスを崩すの?」


「それに関しては俺に任せてほしい。作戦がある」


「わかったわ」


「…わかった。とりあえずはお前に任せる。ただ、無理だったらすぐに言えよ」


「ああ。わかった」


 二人にはおとりを頼み、俺たちは俺たちを探す邪竜事象ファヴニールの元へと戻った。


 正面から向かい合い、改めて目の前に立つ理不尽の権化の存在感を感じる。

 喉を震わせるような低いうなり声も、吐く息が吐き煙を巻き起こしているのも、何もかもが俺たち人類とは立つ土俵の違う生物であることを証明する。


「じゃあ行くぞ」


「ええ!」


「応!」


 今度は俺の合図で3人同時に走り出した。


 レオとカレンが先行し、邪竜事象ファヴニールの注意を引く。

 その隙に俺は邪竜事象ファヴニールの背後へと回った。


 短く吠え、邪竜事象ファヴニールがレオに攻撃をするために右の前足を持ち上げた。

 それを見て、同じ側の後ろ足へと駆け寄り、俺は‘魔術まじゅつ行使こうし’の準備を始める。

 本当は隠しておきたかったものだが、今はもったいぶっている暇はない。

 ケビンも言ってたじゃないか。全力でやらないと死ぬって。


切替スイッチ


 突然、ウィークの声が聞こえた。


−カチリ−


 それこそスイッチを押した時のような、軽快な音が響く。

 

 次の瞬間、ゆっくりと前足を持ち上げていた邪竜事象ファヴニールは持ち上げたその前足をものすごい速度で振り下ろした。


「なっ!」


 ズシンと重い音が響き、地面が揺れる。


 邪竜事象ファヴニールの右前足が踏みしめている場所は、わずか一瞬前までレオが立っていた場所だった。

 その大樹のような足の下から赤黒い何かが流れ出て、土を侵食する。

 辺りには焦げ臭い匂いに紛れて、濡れた鉄のような香りが充満した。


「い、嫌ぁぁああああああああああ!!」


 聞いたことのないような甲高いカレンの悲鳴が街へと響いた。


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