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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 第2章 第二次革命未遂事件編

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第19話:第二次革命未遂事件(10)

「オ前タチ 思ッテイタ ヨリ モ 強カッタ」


 呆然とした様子の俺たちを気にもせず、ゴブリンはぎこちなく言う。


「お前、どこから来たんだ?」


 俺たちの正面にどこからともなく歩いてきたゴブリン。そのゴブリンを、レオが警戒している。

 無駄に強気なあのレオがだ。


 まぁ無理もない。

 ゴブリンに知性があったとしても、それは言語認識やら言語使用にまで至るほどの知性では無いと俺たちは学んでいたからな。

 だから、ゴブリンが言葉を話す、ましてや人語を話すなんてのは俺たちが国王やら学校教育やらによって身につけた知識を根幹から覆すものであって、俺たちの理解の範疇を超える事象だ。


 一歩、レオが後ずさる。


「何処カラ キタ? オレ ハ ズット ココニ イタ」


「そういうことが聞きてぇんじゃねぇよ……」


 レオの返しに、ゴブリンが不思議そうに首をかしげる。


 なんとも、人間味のある行動だ……。


「お前、今何してたんだ」


「アア。 ソウイウ コト カ」


 ようやく納得したという様子で防具を身につけたゴブリンは答える。

 が、続きを語ろうとしてゴブリンはやめた。


「チョット マテ」


 手のひらを軽く持ち上げて見せ、待ってくれとジェスチャーをするゴブリン。

 その様子は異様としか言えなかった。


 ゴブリンは俺たちが動かないのを視認すると、かぶっていた兜を脱いだ。


「ア、ア。ア、アー。…ゴホン。 あ、あ。あー。あ。よし」


 ざらついた声質でぎこちなかったはずのゴブリンの声が、より人間に近しいものになったのがわかった。

 相変わらず声質はざらついたものだったが、それ自体はゴブリン本来の声質の問題だろう。

 問題なのはそこじゃない。

 今、俺たちの前にいて、当然のように人語を話してくるこのゴブリン。


「これで調整は終わった。悪かったな、聞き取りづらかっただろ?」

 

 まるで人間のように滑らかに人語を話すじゃねぇかよ。


 いや。もしかしたら、他のゴブリンも総じて人間のように人語を話すことができたのかもしれない。

 その事に俺たちが気付いていなかっただけで、俺たちの共通認識が間違っていただけで、本当はゴブリンも人語を話すものなのかもしれない。

 そう願うように思った。


 けど、そんな都合のいい解釈が正解だと言ってもらえるほど、世界は優しく無い。


 このゴブリンは他の奴らとは違う。


 そう感じずにはいられなかった。


 明確な根拠があるとかそういうわけでは無い。けど、うまくは言えないけど。なんとなく、直感的にそうなのだと感じた。

 このゴブリンだけは特別なのだと、そう認識した。


「コイツ…何か変」


「ああ。ちょっとヤバいぜ?」


 カレンとレオも俺と同じような根拠の無い確信みたいなのを感じたようだ。

 二人とも珍しく怯えたような表情だ。


「そんなにビビらなくていいって。俺は強くねぇから。だからさっきまでも民家の陰に隠れてたわけだし」


 顔を強張こわばらせる俺たちをみて、ゴブリンはカラカラと笑いながら言う。

 俺は弱いから、お前たちがビビる必要は無い。

 だから、「ちゃんと話を聞け」と。


 気づけば、俺とレオとカレンは3人そろって互いの距離を少しずつ詰めていた。

 摺り足で、靴底に土道をこすりつけながら、互いに守り合える距離へと近づいていた。


 隣で、レオとカレンが生唾を飲むのが聞こえた。

 多分だけど俺も同じように緊張をこらえるために生唾を飲み込んでいたはずだ。


 何を合図にしたのかはわからないが、ゴブリンはいきなり両手を大きく広げ、ニタリといびつにわざとらしく笑顔を作って見せた。


「じゃあ改めまして。お初にお目にかかります、今年の米国アメリカ代表の候補勇者様がた」


 ゴブリンは右手のひらを胸に当て、左足を少し引いてつま先を地面につけると、会釈程度の深さで頭をさげた。

 俺たちも、それに返す形で小さく会釈をする。

 必要は無いと思いはしたのだが、無意識に体が動いた。


「俺はウィーク・ドミネーター。主に雑魚の統率をしている魔王軍の幹部だ」


「な…」


 レオが何かを言おうとしたが、すぐに中断した。

 カレンは驚いた様子で額から冷や汗を垂らしている。

 俺はというと、この場のあまりの情報量の多さに頭がはちきれそうになっている。

 ろくに事象に対する反応なんてできないし、言葉すらでてこない。


「なんだよ。随分と反応が薄いじゃんか」


 ゴブリンが醜い顔の表情筋を使い、口を尖らせてみせる。

 ほんと、器用なもんだよ。


「もう一回言うぜ? 俺は魔王軍幹部、ウィーク・ドミネーターだ」


 得意げな様子で名乗るゴブリン…いや、ウィークに、今度こそ俺は言葉を返す事ができた。


「どうして…魔王軍の幹部なんかがココに」


「そんなもんは簡単な理由だ。今、この国に攻撃を仕掛けているのが俺たち魔王軍だからだぜ?」


「魔王軍による攻撃はこの国だけなの?」


 探るようにカレンが問う。


「ん? あー。いや、言い方が悪かったな」


 ウィークは悪い悪いと手刀で空を切って謝るジェスチャーをしてみせる。

 とてもゴブリンの言動には思えない。


「俺たち魔王軍の攻撃はこの国だけじゃねぇぜ? 今回は大盤振る舞いでさ、23のすべての国に同時に仕掛けさせてもらったよ」


 門出の儀における、すべての国への同時攻撃。

 これで、今回の出来事が第二次革命未遂事件だという根拠が手に入ったな。


「23だと? 何言ってんだよ、俺たち人類の国は20だけだぞ。都市の数とでも間違えてんじゃねぇのか?」


「ん? あぁ、そうなのか。それは悪かったな」


 レオの指摘にウィークは素直に謝ってくる。

 間違いを指摘された時の一瞬の硬直といい、自分が間違いを言っていたと認識した時の気まずそうな声の調子といい、何もかもが人間味に溢れている。


 これじゃあ…


「姿が違うだけでほとんど人間と同じじゃねぇかよ…」


 道具の有用性を理解し、その上で道具を活用する。

 集団の利を理解し、その性質を活用して隊列を組む。

 斬られれば痛いと言って涙を流し、襲われれば恐怖を感じて逃げ惑う。

 そして、カラカラと笑ったりバカにしたような表情になったり。


 何もかも、とても知性の無い魔族のものだとは思えない動きばかりだ。


「何言ってんだケイタ。こいつらが人間と同じなハズねぇだろ」


 レオが、俺を訝しむように見てくる。

 普通の人間が魔物を見る時のような表情だ。


 …コイツの中では、魔物よりも俺の方が魔物らしいってことなのか?


「ケイタ。何をどう感じたところで、あいつはゴブリン…、魔物よ」


 諭すような調子のカレンの言葉が耳に痛い。


「わかってるさ…そんな事」


 嘘じゃ無い。本当にわかってるんだ。

 俺たちの目の前にいる魔物ウィークが人間じゃ無いって事は。


「で、魔王軍幹部のウィークはどうして俺たちに自己紹介をしたんだ? まさか、戦う術が無いから見逃して欲しいとか、そんな事を言うためじゃねぇよな?」


 口から出る言葉はいつも通りの調子だが、相変わらずの表情の強張りや剣を握る手に異常に力が入っている事から、レオが極度の緊張状態にある事がわかる。


「まさかまさか。確かに今、俺は戦う術を持っていねぇけど、それでも敵に命乞いをするほど落ちぶれているワケじゃ無いぜ?」


「じゃあどうし「知ってもらうためだよ」」


 レオの言葉をウィークが遮る。


「俺たち魔族…魔王軍ってのは、お前たち候補勇者が思っているようなモノじゃねぇぜ? って事をな」


 …意味がわからない。

 どうして俺たちの魔王軍の認識を訂正する必要があるんだ?

 ましてや、人類総じてではなく俺たち候補勇者の認識を訂正する理由はなんだ?


 コイツ、何を考えてるんだ?


「じゃあ今回の革命未遂事件は攻撃自体が目的じゃなくて、俺たちとの対話が目的だったりするのか?」


「あ? お前今なんつった?」


 次の瞬間、ウィークは一瞬でレオとの距離を詰めた。

 10メートル弱あったハズの距離を一瞬でだ。


 いや、詰めたとは言ったが、あれは詰めたというよりは瞬間移動に近かった。

 またたきのに別の場所へと移動すると言う方が表現的には近かった。


 とにかく、レオの言葉で表情から笑みを失ったウィークは元いた場所から消え、次の瞬間にはレオの目の前に立っていた。

 そして、そのままレオの腹部を思い切り殴り、レオはそれで崩れ落ちた。

 力が弱いハズのゴブリンのパンチで、レオはあっさりと崩れ落ちたのだ。


「取り消せよ。今の言葉」

 

 蹲るレオの頭を踏むウィーク。

 その表情は分かりやすい怒りの感情に染まっていた。


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