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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 第2章 第二次革命未遂事件編

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第18話:第二次革命未遂事件(9)

「……ゴー!」


 その声を合図に、俺たち3人は走り出す。

 レオとカレンが並んで先行し、俺が後を追う形だ。


 待っていましたとでも言うように、剣を持ったゴブリン達も俺たちを目指して走り出した。そして、それに継ぐ形で再び弦音が聞こえる。

 次はしっかりと避けないとダメージを受けることになる位置に矢が飛んできていた。


 矢が降り注ぐよりも先に、レオとカレンは落下予測地点を駆け抜け、通り越してゆく。

 二人とも早いな。

 俺はというと、二人みたいな化け物じゃ無いからそこまで早くは走れない。だから左右に移動して飛んでくる矢を素直に避けた。


 俺が何とか難を逃れる中、レオに3歩ほど先行する形でカレンが前に出た。

 何をするのかと思えば、カレンは構えていた片刃の長剣を地面と平行に振るった。

 剣を持ったゴブリン達はその攻撃に対応できているようで、先行してきていた5体が5体がかりでカレンの攻撃を受け止めようと、そのこけのような色合いの体躯の前に剣を構える。


−ガギィン!


 と、鈍い金属音が響いた。

 ゴブリン達が狙い通りに手に持つ剣でカレンの攻撃を受け止めたのだ。

 ただ、当然と言えば当然なのだが、カレンの方が原初の魔物であるゴブリンよりも上手だった。


 カレンはゴブリンに攻撃を遮られながらも、止まることなく剣を振り切る。それによって、ゴブリン達は皆、剣を持っていた手を弾かれて体制を崩す。

 もちろん。その隙を見逃すカレンでは無い。


 カレンは長剣を振り切った後に器用に手の内で柄を半転させ、長剣の刃と背を入れ替える。そして、僅かに体勢を低くして再び剣を振るい、怯んだ状態だった5体のゴブリンの足を太ももから切り落とした。

 5体同時に一振りでだ。


 こいつ本当に素人の候補勇者なのかよ。

 強すぎるだろ。


「次いくぞ!」

 

 足が無くなりまともに動くことができなくなったゴブリンを放置し、レオとカレンは先へと進んで行く。だが、そのまま戦闘不能のゴブリン達を放置していては後に何かしらの妨げになる可能性もある。

 俺は先行する二人の後を追いながら、二人が斬り伏せて戦闘不能となったものの命が残っているという状態のゴブリンを順に殺していった。


 1体1体丁寧に、その醜い体から醜い頭を落としていった。


 剣を振るい、ゴブリンの首を撥ねる度にその切断部から肌と同じような苔色こけいろの…鈍った緑色りょくしょくの体液が飛散する。


 それがゴブリンの血であることは知っていた。ひと月の準備期間で何度となく目にしたからだ。

 けど、俺はそれがゴブリンの血であることを認識しないようにした。認識すれば手が止まってしまうと思ったから。

 足が竦んで動けなくなってしまうと思ったから。


 だってほら。頬に散ってくるゴブリンの血はこんなにも暖かいのだから。

 自分が命を奪っているという事実を嫌でもわからされてしまう。


 手に伝う柔らかい肉を切り裂く感触も硬い骨を断つ感触も、何もかもが生々しくて。

 無抵抗な敵を殺しているという事実が、「魔族とやっていることは変わらない」と俺を責め立てるように襲ってくる。


 けど、そんなことで止まってはいられない。

 止まれば俺が命を失うことになる。

 だから、俺は感覚げんじつかんを鈍らせ、完全に割り切ってレオとカレンが切り捨てたゴブリンの後始末を続けた。



 立ち向かってくる剣を持ったゴブリンをレオとカレンは次々と倒して行く。

 

 ゴブリンによって振るわれた剣を自身の剣で器用に弾き、怯んだところで腕を切り落として行くレオ。

 ゴブリンが剣を振るうよりも先に片刃の長剣を横薙ぎで振るい、それを防ごうとしたゴブリン達を力で圧倒。動けなくなったゴブリンの足やら胴やらを切り裂いていくカレン。


 二人の戦いぶりは獅子奮迅ししふんじんという言葉がピッタリと当てはまる。

 まぁ、その言葉の正確な意味なんて知らないから本当にピッタリと当てはまるのかは知らないけどな。


 つーか。


「戦い方が逆だろ……」


 二人の戦いを見ながらそう思ってしまった。


 獰猛に笑い、荒ぶった様子を見せながらも繊細で技術的な戦いをするレオ。

 静かに表情を変えることなく、力任せに多数を同時に斬り倒すカレン。


 二人の性格からして、絶対に逆の方が合う。レオが好き勝手に暴れて、カレンが頭を使ってレオをサポートするように魅せる戦いをする。

 そっちの方がもっとうまく戦えるだろ。


 そうは思ったが、剣を持ったゴブリンが次々と突撃してきて、さらには遠距離型によって一定時間の感覚で矢が飛んでくるこの状況で言うべきことじゃない。

 とにかく今この状況を生き延びて後で言えばいい。



 ゴブリンによって振り下ろされる剣を自身の長剣で受けるレオ。その鍔迫つばぜり合いの中、レオは隙だらけとなる。

 ゴブリンも武器を持つ程度には知性があるのだから、当然その隙を見逃すことはない。


 まともに身動きが取れないレオに向かって他のゴブリンが剣を振るう。だが、そのまま「はいどーぞ」と切らせるほど俺たちは甘くない。


 俺はレオに向けられた攻撃を拾った長剣の腹で受け止める。

 驚くほど、ゴブリンの力は強かった。


 俺たち人間の子供ガキよりも小さな体で細い四肢をしているのに、受け止めたゴブリンの攻撃はひどく重い。

 どこからそんな膂力りょりょくが生まれているのだと不思議に思えるほどだ。


 レオが戦っていた個体ゴブリンの素っ首をカレンが刺し貫く。

 そのまま勢いよく剣を振り抜き、ゴブリンは胴と頭が文字通り首の皮一枚で繋がっている状態になった。


「次行くわよ!」


「おう!」


「ケイタは自分でなんとかして!」


 と、雑魚であるはずのゴブリンに苦戦する俺を置いてレオとカレンは先に進んでいった。


「ハァハァハァ…ハァ……ハァ」


 呼吸を整え、最後に一つ深呼吸をする。


 両手で剣を握ってゴブリンの攻撃を受け止めていた俺は、その深呼吸を合図に剣から右手を離した。

 利き腕ではない左腕ではうまく力が入らず、当然のように押される。が、左腕の二の腕に取り付けてある革製収納袋ホルスターから短剣を一本抜き取り、素早くゴブリンの首に刺した。


‘ゴチッ’と言う鈍い音が手を伝って俺の身に染みた。

 実際にそんな音が聞こえたわけじゃないが、音というのは空気の振動によって感じ取るものだ。だから、振動を直接感じた際にも音を誤認することがある。

 俺の聞いた鈍い音はそういった誤認の類のものだった。


 ……剣先が骨に当たった音だ。


「ガ…グアァ……ヘ…ハ」


 ゴブリンが苦しそうな声を上げ、力が幾分か弱まる。

 けど、それだけで息絶えるほどゴブリンもやわではないだろう。


 突き刺した剣をグリグリと動かし、ゴブリンの首の傷口を広げる。

 すると、ゴブリンは手に持っていた剣を落とし、俺の手を掴んでより一層苦しそうに悶えた。


「ア……アアァ! イデェ。イデェヨ。……たす…け、て」


 ゴブリンは目から人間と同じような透明な涙を流し、そのまま息絶えた。


「……は?」


 コイツ、今なんて言った?

 痛いって言ったか?

 助けてって言ったか?

 どうしてこいつは今、‘人語’を話したんだ?


 いや、そもそもどうして人語を話せるんだ。


「聞き間違い…だよな」


 ゴブリンの血を服で拭って落とし、短剣を革製収納袋ホルスターに収めると、ゴブリンの苦痛の言葉はただの聞き間違いだったのだと自分に言い聞かせて二人の後を追った。



 俺が雑魚であるゴブリン1体に苦戦している間に、レオとカレンは残りの剣を持った個体ゴブリンを全て倒しきってしまっていた。


 二人の元に辿り着いた時、完全に人類と魔族の関係が逆転した状況が広がっていた。


 逃げ惑う盾を持つゴブリンと弓を持つゴブリン達。それらを追い回し、カレンは澄ました顔のまま、レオは獰猛どうもうな笑顔でゴブリン達を次から次へと切ってゆく。

 急ぐ必要がなくなったのか、剣を持つ奴らとの戦いとは違って一体一体を確実に殺している。


「オラ! お前も手伝えよケイタ!」


 嬉しそうに、弾む調子でレオが誘ってきた。

 まぁ、本人は誘ってるつもりはなくて単に手伝えと言っているつもりなんだろうけどな。


 素直に言うこと聞いとくか。

 レオは俺たちの勇者リーダー様だしな。


 握る剣は今までよりも少し重く感じた。



_________



 盾を持つゴブリンはかなり厄介だった。

 どれだけ剣を振るっても盾で防がれるし、守っているだけだと油断していると盾に身を隠した状態で突進してくる。

 その衝撃がまた結構なものだった。

 俺が少し怯むほどだ。


 まぁ、俺が怯んだところでゴブリン達は攻撃を重ねてくるわけじゃなくて、ただ逃げるだけだから特にどうとかはないんだけどな。


 ただ、俺が盾を持ったゴブリン達を倒せずに苦戦しているのは事実で、そのまま粘って盾を持った奴に攻撃を続けても同じような展開が続くだけだろう。


 ……弓持った奴の方行くか。


 さっさと方向転換をして弓を持ったまま逃げ惑うゴブリンを追いかけた。


 結果、5体目の弓を持ったゴブリンを倒したところで辺りからゴブリンの姿は完全に無くなった。


「全部倒したか!」


「ええ。見た限り、弓を持ったのと盾を持ったのは全て倒したはずよ」


「そうか。ならよかった」


 よかったとは言うが、レオの口調はどこかがっかりとした様子だった。


「で、徒手と剣持った奴は全部倒せたのか?」


 俺を見ながらレオが聞いてくる。

 なんで俺に聞くんだよ。

 まぁ、把握してるからいいんだけど。


「全部倒せてたぞ。とりあえずひと段落だな」


いち段落な」


「別にそんなんどっちでもいいだろ」


「まぁな」


 カラカラとレオは笑う。

 その笑みは戦っている時の笑顔よりも偽物うそくさいものだった。


「……まって!」


「あ? どうしたんだよカレン」


「防具を身につけてるだけの個体はどこに行ったの?!」


 言われて辺りを見回すが、辺りには弓やら盾やらが散らばっており、それらに囲まれながら防具を身につけたゴブリンの死体が転がっている。

 防具を身につけているだけの個体がどうなったかなどわかるハズがない。


「私は倒していないわ!」


「俺も倒してねぇぜ? ケイタがやったんじゃねぇのか?」


「……いや、俺も倒してない」



 じゃあ…誰が倒した?



「生キテル カラ ナ。 誰モ 倒シタ 覚エ ガ ナイ ハズ ダ」


 俺たちの会話に割り込む形で、おぼつかない様子の人語が投げかけられた。

 ザラついた声質で、汚いとしか形容できないようなその声は−



 ふらふらとした足取りで俺たちの前に姿を現した、防具を身につけているだけのゴブリンの物だった。


 ニタリといびつにゴブリンは微笑む。

 背を、嫌な汗が伝うのがわかった。


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