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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 第2章 第二次革命未遂事件編
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第17話:第二次革命未遂事件(8)


 睨み合うような。互いを警戒するような。相手を見定めるような時間は直ぐに終わりを迎えた。


 レオとカレンが構えてから1分とせず、つる弓身きゅうしんを叩くポコポコといった間抜けな弦音つるねが鳴り響いた。強い弓なら弦音はパコーン!といった感じの甲高い音だから、あの弓はきっと弱い部類の弓だ。

 まぁ、ゴブリンの筋力で強い弓が引けるとは思えないから弱くて当たり前なんだけどさ。


 弦音が鳴るなり、レオとカレンが無言のままスタートを切る。

 ロケットスタートと言うに足る、力強く素早いスタートだった。

 そして、レオとカレンが走り出すのを合図にしたかのように、徒手のゴブリン達が次々とこちらへ向かって走り出した。


 矢は当然のように俺のいる場所へと飛んでくるが、弱い弓で飛ばした矢の速度は比較的遅く、さらには飛距離が無い。

 飛来してきた矢は当然のように、俺が最初にいた位置よりも少しだけゴブリン側に落ちた。

 地面は硬くは無い土道であるにもかかわらず、地面に刺さる事なく弾かれてバウンドする。


 見ると、矢を放ったゴブリン達は後ろへと退いて、その後ろに並んでいたゴブリン達が少しずつ前進した。そして、弓を持つゴブリンの最前列の10体が既に矢を番えてある弓を構える。


 その様を見て俺は気がついた。

 ゴブリン達の陣形は、西暦の時代に人間同士が争う際に使われていたものの一つだ。


「どうしてゴブリンが人間の戦術なんて……」


 ゴブリンの戦術に俺が困惑している最中も、レオとカレンはどんどんと突き進んでゆく。

 走り、体当たり気味で突撃してくるゴブリン達を次々と斬り伏せてゆく。


 だが、二人も次から次へと攻めてくるゴブリンを全て相手できるわけでは無い。

 次第に二人の攻撃をかわすゴブリンが出てきて、そいつらは二人の背に背後から飛びついていく。


 ……これはマズいぞ!


 俺は慌てて二人の元へ向かって走り出した。


 ついさっきまで走った距離と比べれば、レオとカレンの元へ向かうための距離は全然短い。

 けど、もう既にかなりの距離を走った事で足がキツい。

 そうしている間にもレオとカレンの足やら腕やらにゴブリンが飛びついていく。二人の動きはかなり鈍くなり、最終的にはゴブリン達に地面に押し倒されてしまった。


 とてもゴブリンにそんな力があるようには見えないが、力こそパワーと同列くらいで数の暴力は確かだと言える。

 いくらレオやカレンが強いのだとしても、相手が雑魚なのだとしてもかなりの数でかかってこられるとどうしても物量的に圧倒されてしまう。


 ヤバいヤバいヤバいヤバい!


 息を切らして走る俺の頭には責めるようにヤバいと言う言葉ばかりが浮かんできた。

 てか、拾った剣が無駄に重くてとにかく邪魔。

 でも捨てるとそれはそれで俺に武器がなくなるから困る。


 焦る俺を嗤うように、タイミングを狙ったかのように再び弦音がなった。

 考えるまでもない。たったいま放たれた矢は俺を狙ったものではなく、ゴブリン達に取り押さえられたレオとカレンを狙ったものだ。


 飛来する矢は10本。どう対処するべきなのか。

 準備期間のひと月の間、俺がケビンから教え込まれたのは本能で自分が生き残るための術だ。

 有り合わせのものを使い、がむしゃらになってピンチと言える場面から‘自分だけ’が生き残るための潜在意識だ。


 だから俺は自分が生き延びなければならないとなれば簡単に生き延びる事ができる。けど、他人を生かすための術などケビンからは教わっていない。

 それ故に、今この場面で何を使ってどう行動するのかの最適解が見出せない。


 どうすべきか思いつかないまま二人の元に辿り着く。と、


「邪魔だ!下がってろ!」


 なんて風にレオに怒鳴られた。

 こいつマジで俺にだけ当たりが強く無いか?


 ただ、レオの俺に対する態度に不満を持ったところで俺がこの場をどうにかできるわけでは無い。

 レオにも何か考えがあるようだったし、俺は素直に下がる事にした。

 視界の奥では矢を放ったゴブリンが下がり、次の一列が弓を引き始めている。


 正直、仲間を信じているというよりは諦めに近いのかもしれないが、顛末を見守ろうと二人の様子を見ていると、レオは自分の腹にしがみついていたゴブリンの首を掴み、持ち上げてそいつを盾にした。自分の急所となる部分に矢が当たらないようにだ。

 一方のカレンは特に何もしていない。


「おい!お前!」


 危ないじゃ無いか。そう言おうとした時、二人の元に矢が降り注いだ。

 レオは自身に降り注ぐ矢を盾にしたゴブリンで容易に防いでみせる。

 

 本当、寝転がった状態でよくそこまでやるよ。

 俺にはやろうと思っても真似できねぇよ。


 

 ハッとした。

 カレンはどうなったと気がついた。


「カレン!」


 名前を呼びながら慌てて駆け寄る。


「うるさい」


 カレンの声で静かに言葉が返ってきた。

 よかった。なんとか無事だったようだ。

 けど、どうやって矢を防いだんだ?


 不思議に思いながらカレンを見ると、カレンの周りには一本たりとも矢が落ちていなかった。

 代わりにといえるのかはわからないが、レオが盾にしたゴブリンの背には矢が10本ほとんど同じ位置に刺さっている。

 どうやら、弓を持ったゴブリン達はカレンとレオではなく、レオだけを集中的に狙ったようだ。

 理由はわからないけどレオの方が戦闘能力が高いとかそんなところだろう。


 いや本当、二人が無事でよかった。

 …違う!そうじゃ無い!安心してる場合じゃ無いだろ!


 武器も防具も身につけていないゴブリンだが、俺たちの邪魔をしてくるワケだから厄介だ。

 だから早めに殺しておかないとまた今のように俺たちの動きを鈍らせてくるし、その度に俺たちは焦らなきゃならなくなる。

 二人に駆け寄り、二人にくっついているゴブリンを剥がして順に首を撥ねていく。

 わざわざ首を撥ねる必要は無いのだが、より確実に殺すにはむしろ首を撥ねるのが手っ取り早い。

 だから俺は無抵抗なゴブリンの首を順に撥ねて行った。


 レオとカレンにはそれぞれ8体と6体のゴブリンがしがみついていて、それぞれ半分ずつぐらい倒すと、二人は立ち上がって自分で自分にしがみつくゴブリンを処分し始めた。

 途中で再び弦音がしたが、その際に放たれた矢は俺たちのはるか後方へと飛んで行った。


 なんというか、ゴブリンの中にも物の上手い下手があるんだな。まぁ魔物なんだし当たり前か。


「剣20、防具のみ1、弓40、盾30。計91匹」


 これで徒手は全て倒したな。と、レオは息を切らせながら言う。

 流石のレオも少し疲れたようだ。

 仕方ない。すでに一度戦闘を終えてそこから今の何も持ってないゴブリン達の妨害を受けていたんだ。

 疲れない方がどうかしている。


「レオ。どうするの? さっき戦った奴らと仲間同士なら、弓を持ってる遠距離型の事を盾を持っている奴らが守って、さらにそいつらを剣を持っている近接型が守るって形で来ると思うんだけど」


「ああ。だろうな」


「作戦はある?」


「戦うだけだ」


「なら、変な意地張ってないでケイタも使いなよ」


 改めて剣を構えながら、カレンが俺の方へ向けて小さく顎を動かす。

 あれか。俺を指差す的な感覚でやってるのか。

 言われたレオはめっちゃ渋そうな顔してるぞ?

 だから何でそんなに俺を嫌がるんだっつの。

 まぁ、俺が男だから変に張り合おうとしてるって感じなのはわかってるけどさ、だとしても少し異常すぎるだろ。


「…わかった。ケイタも戦え」


 嫌そうな声でレオが言う。

 わぁ!偉いでちゅね!無駄なプライドを曲げてお願いできまちたね!

 何て風に煽ってやりたい衝動に駆られたが、今がそんな風に遊んでいられる状況じゃ無いことはわかっている。だから変に突っかかるようなことはしない。


「何をすればいい」


「お前、魔法は使えるのか」


「…使えない。てか、これ前に言わなかったか?」


「あ? そうだったか? まぁいい。じゃあ魔術は?」


「……使えない」


「一つもか?」


「…ああ」


 これも前に言ったことがある気がしたんだけどなぁ。

 何だろう。俺の勘違いなのかレオが忘れているだけなのか。


 レオが「お前使えねぇなぁ」とか言ってきやがったけど魔法使いとして使えないのは事実だから反論はしない。

 

「ならいいや。剣は使えるだろ?」


「お前ほどじゃねぇけどな」


おだてても何もねぇぜ?」


 レオの声が少しばかり嬉しそうなものになる。

 …こいつ。もしかして思っていた以上に単純か?

 扱いやすいタイプの人間じゃねぇかよ。


 再び、弦音が聞こえた。だが、なぜだかわからないが矢は当然のように俺たちの元までは届かず、もっと手前の位置で地面と接触し、バウンドした。


 もしかして、ゴブリンも疲れてるとか?…いや、ないな。

 こんな状況で何考えてんだよ俺は。


「剣が使えるなら話は早いな。俺とカレンがまた突撃していく。けど、敵の数はさっきの戦闘よりも多いし、何なら盾を持っている奴がいる分厄介だ。だから、お前には俺たちのサポートをしてもらうぞケイタ」


「サポート?」


「ああ。サポートだ。俺とカレンは好き勝手に暴れる。けど、その中でどうしても手が回らない敵が出てきたりするだろう。そういう奴らの相手をしてくれ」


 これまたザックリな指示だな。上手くいかねぇだろ。


「つまり、好き勝手にやれってことだろ?」


 わざと少しだけ違う解釈をして返してやった。

 俺の行動の制限を減らすためにも必要なことだったからだ。


 レオは呆れたようにため息をつく。


「まぁいいやそれで」


 そして−


「じゃあ行くぜ」


 相変わらず勇者せいぎのみかたとは思えないような不敵な笑みをその顔に浮かべた。


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