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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 第2章 第二次革命未遂事件編
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第12話:第二次革命未遂事件(3)



 魔物と言うのは魔の側にある物を指す言葉だ。そして、魔族というのはこの魔物の総称のことだ。



 一般的に、人外の化け物単体を魔物と呼び、人外の化け物の大群を魔族と呼ぶ。そんな感じのイメージだ。

 単体なら魔物、大群なら魔族、それだけ理解していればいい。


 まぁ、正直この言葉の選択に意味は無いのだから、理解する必要も覚える必要も無い。

 魔族であろうと魔物であろうと意味はほとんどが同義であり、そこに差は無いからだ。


 しかし、魔王軍の場合は少し違う。


 魔王軍の定義は魔族・魔物の中でも魔王が管轄する軍隊に属するものを呼称するものだ。

 そして、魔王軍の幹部は魔物であるにもかかわらず知性がある。かつてケビンがそう言っていた。



 

 武装したゴブリンの集団を見て、ケビンから聞いた魔物と魔族、それから魔王軍の定義の話を思い出した。

 いや、思い出したというよりは思い出してしまった。


 ゴブリンという知性が無いと言われる魔物が武装をしていることの意味を思い出してしまった。


「知性がある魔物と知性が無い魔物、どうやって見分ければいい?」


「そんなのわかるハズねぇだろ」


「お前、本当に学校教育受けたのか?」


「何が言いたいんだよ」


「馬鹿だって言ってんだよ」


「そりゃあ悪かったな」


「開き直るんじゃねぇ。真面目に考えてみろよ。知性があるってのはどういうことだ?」


「…考えることができるってことだ」


「そうだ。なら、戦う生物に知性がある場合、その生物は何を考える?」


「戦う生物に知性がある場合?あれか、どうやって戦おうかとかか」


「半分正解みたいなもんだな」


「正解はなんなんだよ」


「進化の速度よりも速い速度で強くなるにはどうするべきか。それを考えるんだ」


「つまり?」


「武器の有用性に気づく」


 だから、遭遇した魔物に知性があるか否かを確認するには、武装をしているか否かを確認するのが手っ取り早い。


 武装をしているのなら武器や防具の有効性を知っていることになり、武装をしていないのならそれらの有効性を知らないということになる。知ることができるのは知性あるものの特権だ。


 だから、武装した魔物がいれば気をつけろ。

 それは魔王軍の幹部の可能性が少しはあるハズで、そうじゃ無い場合でも魔王軍の幹部の息がかかっている可能性がある。

 つまり、端的に言えば武装した魔物はほとんどの確率で魔王軍なんだ。


 魔王軍は通常の魔物と比較して強い。だから、遭遇したら油断することなく、生き残ることだけを考えろ。

 これら全て、ケビンが俺に刷り込んだ言葉だ。


 だが、重要なのは魔物やら魔族やら魔王軍やらの定義でも無いし、武装したゴブリンに遭遇してしまったことでも無い。今回の襲撃が、魔王軍によるものである可能性があると言うことだ。


 それはつまり、


「革命……未遂事件…」


 その可能性が高いと言うことだ。


「んなわけねぇだろ」


 棍棒で人々に殴りかかり、曲刀で人々を切りつけ、弓矢で人々を射る。立ち向かってくる人間を集団で叩き、逃げ惑う人間を汚らしい笑みを浮かべながら追いかけ回し、無抵抗な人間を殺し、犯し。


 そんなゴブリンを見て、レオが恐怖を押し殺すように言った。その声はわずかだが震えている。


 きっと、レオも俺がケビンから聞いたような話をジョージから聞いているんだ。


「今回の襲撃は雑魚が勝手にやってることって話じゃなかったの?」


 声を潜めながら焦るようにカレンは言う。

 多分、カレンも俺やレオと同じことをヒシギから聞いている。


 ちらりとポーラを見ると、ポーラは目の前で繰り広げられる凄惨な出来事を信じられない様子で呆然と見つめている。多分、あのゴブリン達と戦うことになったらポーラは役に立たない。


 戦闘が始まったらポーラを安全な場所に避難させ、それが適わなかったら彼女を見捨てないとダメだ。


 そうじゃ無いと俺たちまで死ぬことになりかねない。


「レオ、どうする?」


 未だ鞘に収まったままの刀を持つ手に力を込め、カレンが確認をする。


「様子を見ながら少しずつ後退しよう。で、安全なところまで下がってから今後を考えるぞ」


 少し予想外の選択だな。

 レオはなんていうか、ものすごく突っ走りたがるタイプだから迷わずに攻撃を仕掛けようとかいうかと思っていた。


 けど、レオの選択は突っ走るタイプのレオが冷静に一時後退を考えるほどにこの状況が良く無いものである事の裏返しでもある。


 確かにこの辺りの建物は炎に包まれていて、隠れられるような場所も無い。

 レオの言う後退の選択は多分この状況で最も正しい選択と言えるだろう。幸い、ゴブリンはすぐ目の前の人々に襲い掛かることに夢中で、俺たちには気づいていない。


「俺も後退に賛成だ」


 必要は無いかもしれないが、一応は勇者リーダーに同意すると示しておく。


「よし、じゃあみんな、なるべく静かに音を立てないように下がっていこう。背を向けたら気付かれて襲われた場合にすぐに反応できないから、奴らには背を向けないように半身でだ」


「ああ」


「ええ」


 出された指示の通り、半身で武装したゴブリン達を警戒しつつ抜き足差し足で退こうとするが、


「きゃあ!」


 そんな可愛らしい悲鳴をあげながら、恐怖で足がもつれたポーラが転んでしまう。


 最悪だ。これはダメなやつだ。


 人々の悲鳴やら怒号、街を壊す爆発音、ゴブリン達の笑い声。

 そう言ったものに染められ、街は確かに騒がしかった。


 ただ、ほんの一瞬。


 全ての音が呼吸をするように止んだ瞬間。

 街が一瞬だけ静かになった瞬間。


 その瞬間にポーラは運悪く転び、悲鳴をあげてしまった。

 まるでパズルのピースをはめるように、ポーラの悲鳴はその一瞬の静寂に収まってしまった。


 結果、ポーラの悲鳴を聞いたゴブリン達が一斉にこちらを見た。その様は歪で、おどろおどろしいものだった。


 ゴブリン達は互いに顔を見合わせて何かを話し、その後、剣を持ったゴブリンのうちの一匹が切っ先でこちらを指した。そして、それを合図にするかのように、弓を持ったゴブリン達が矢を番え始めた。


 距離的に矢が届く範囲に俺たちはいる。

 それはつまり、俺たちが危険範囲内にいることでもある。


「…どうするんだレオ。やばいぞ多分」


「言われなくてもわかってる。多分っていうか、普通にやばいだろ」


「このまま全力で走って逃げるか?」


「いや、それは悪手でしょ。私はいっそのこと迎撃したほうがいいと思うわ」


「迎撃って、お前とレオは戦えるからいいかもしれないが、俺とポーラはほとんど戦力にならない。迎撃なんてできないだろ」


「…いや、けどそれは俺とカレンが頑張れば大丈夫ってことでもあるだろ?」


 追い詰められているはずのこの状況で、レオはなぜか笑っていた。犬歯をむき出しにして獰猛に笑っていた。


「カレンの案の採用だ。迎撃するぞ」


 武闘派二人が鞘から剣を抜き、構える。


「ポーラとケイタは私の後ろにいて。私が矢を切り落とす」


 切り落とすってマジかよ。飛来する矢を切り落とすとかマジで脳筋の権化みたいな事言いやがるな。

 とりあえず、腰が抜けて動く事ができないポーラをお姫様抱っこでカレンの後ろへと連れていく。


「あ、えと、ありがとうございます」


 恥ずかしそうに目をそらすポーラを見て、俺も少しだけ恥ずかしくなる。


 この熱い街で熱以外を理由として赤くなる俺とポーラを見て、レオがつまらなさそうな表情をした。が、すぐに元の獰猛な笑みに戻り、剣を握る手に力を込めた。


「じゃあ、俺はひとまずあのゴブリンの集団に突撃して行って何匹か倒してくる」


「ええ。お願い。真っ先に弓矢を持っている奴を倒してくれたら私は防衛から援護に切り替えるから」


「弓あるのか?」


「無いけど剣がある。だから加勢に向かうわ。レオは好きに戦ってくれていい。私はレオが戦いやすいようにサポートするから」


「オッケー。じゃあそれでいこう」


 左手に剣を握り、左足を引いてわずかに前傾で姿勢を低くする。右手で探るように地面に転がる幾つかの瓦礫を拾う。


「棍6、剣8、弓6。計20匹。じゃあ行くぜ」


 ゴブリン達が矢を放つなり、レオは地面を力強く蹴った。

 そして、10メートルほどの距離まで一気に近づいて手に持っていた瓦礫を力任せにぶん投げた。

 投げられた細かい瓦礫は散弾のように飛散し、駆けてくるレオを警戒していたゴブリン達に襲い掛かる。


 弓を持っていたゴブリン2体それぞれの目と目の間を射抜き、その2体は悶えながら崩れ落ちた。

 それ以外の瓦礫は、ゴブリン達の急所では無い部分に当たる程度かゴブリン達が身につけていた甲冑やフェイスアーマーに弾かれる程度に終わった。


 レオは悔しそうに舌打ちをしたが、それでも十分だろう。

 なにせ、レオは瓦礫の投擲だけでゴブリンを2体仕留めたのだ。

 しかも、人間の力では到底かなわないであろうにも関わらず、投げた瓦礫をゴブリンに貫通させ、穴を開けて殺して見せた。


 なんつー力してやがんだよ。もう人間かを疑うレベルだろ。


 一方、飛来した6本の矢のうち、カレンの正面に来たのが4本。

 それだけを凌げばとりあえず1射目を生き残る事ができる。


 カレンは長い剣を上段で構えると、一歩左にズレ、俺とポーラを矢の到達点に晒した。


「ちょっ!何してんだよ!」


 思わず声を荒げてしまった。


 けれど、カレンは俺の動揺する声など気にする様子もなく上段に構えた剣を振りかぶり、無言で飛来する矢3本を叩き落とした。

 一振りでだ。

 カレンは飛来する3本の矢の矢尻を的確に一振りで叩いて見せたのだ。


 初期位置から見れば当たる位置ではなかった矢が一本、カレンの背をかすめて地面へと突き刺さる。

 もう一本の逸れた矢は俺たちとは全く関係の無い位置にだらしなく落ち、地面に刺さることもなく跳ねた。


 レオも大概だが、こいつもなんだかんだで人間離れしてるよな。


 いや、違う。そうじゃ無い。感心している場合じゃなかった。


 カレンが落とした矢は3本、当然、あと一本がポーラではなくポーラを庇う位置にいた俺へと向かってくる。


 どうする?カレンを真似て飛来する矢の矢尻を腰に携えてある短剣で叩き落としてみるか?


 いや、多分それは無理だ。

 俺にはあんな超人的な芸当ができるはずが無い。



 だったら−


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