第11話:第二次革命未遂事件(2)
長い髪を後ろで結んでいるその少女がカレンであることは、持っている長剣が特徴的である事からもすぐにわかった。
「あ…よ、よかった…です」
カレンが生きていると分かり安心して腰が抜けたのか、ポーラは瓦礫が転がったままの地面にへなへなと座り込む。
「おーい!こっちだ!こっちにケイタとポーラ嬢ちゃんがいるぜ!」
真剣な表情でキョロキョロと周りを見回しながら歩くカレンの方へと手を振りながら、ケビンが声を張り上げる。
その声でこちらに気づいたカレンは顔の緊張を解き、少しだけ笑みを浮かべながら駆け寄ってきた。
「よかった。二人とも無事だったのね」
「はい。ケビンさんが助けてくれました。カレンさんも無事でよかったです」
「危なかったけどね」
カレンはポーラを抱き寄せ、噛み締めるように「本当によかった」と言った。
「アンタも生きてたのね」
ポーラと手をつないだまま、カレンが素っ気ない態度で言う。
「ケビンのおかげだ。お前こそ、よく生きてたな」
「まぁね。私、それなりに強いから」
いや、あの高さからの落下をそれなりに強いからで乗り切れるはずがねぇだろ。
こいつどうやって生き残ったんだ?
もしかして、俺とポーラと同じように誰か付き人が助けてくれたのか?
「何よ」
思わずカレンをジロジロと見てしまって、カレンは嫌そうな顔になる。
「いや、どうやってあの爆発から生き延びたのかと思ってさ」
「それは企業秘密よ」
なんでそこで秘密にする必要があんだよ。意味わかんねぇな。
「何が企業秘密だ。隠す必要ねぇだろ」
「必要があるから秘密にするんですぅー!」
カレンが口を尖らせていると、カレンの後ろで瓦礫の隙間から右手が生えてきた。それはもう、ズボッという効果音が聞こえてきそうなほどの勢いで。
いや、まぁ腕が瓦礫の隙間から生えるわけが無いんだけど。
無数の瓦礫の下敷きになったであろう人間が脱出しようとなんとか腕を隙間から突き出したって感じだろう。
違う。そんな冷静になって観察している場合じゃ無い。
「大丈夫か!」
慌てて腕に駆け寄ろうとしたとき、
「ああああああああ!重い!」
そんな叫び声とともに、腕の生えていたところから瓦礫を持ち上げてレオが姿を現した。生えていた腕はレオの腕だったようだ。よかったね!魔物じゃなかった!って違う!
よく見ると、レオの腕は瓦礫の隙間から生えていたんじゃなくて大きな瓦礫を突き破って生えていた。つまり、レオは大きな瓦礫に腕を貫通させ、そのまま持ち上げたと言うことになる。
いや、何それ。バケモンかよ。
「バケモンかよ」
「あ?何がだよ」
また思っていたことが声に出ていた。
レオは不機嫌そうに転がっていた手のひらサイズの瓦礫を拾うと、右腕についたままの瓦礫を拾った瓦礫で叩いて割り始めた。
ものの5分ほどで腕にくっついていた瓦礫を割ってしまうと、腕をぐるぐると回したりしながら、肩やら体やらの調子を確認し始めた。
「これで4人が無事だってことがわかったな」
なんだかんだでこの場を離れるタイミングを失ったケビンが呆れたように言う。
「じゃあお前さんたち4人はすぐに安全なとこまで避難して、俺たち付き人が攻めてきた魔族を制圧したタイミングで旅に出発しろ。いいな?」
「よくないです。俺たちも一緒に戦います!」
今度こそ去ろうとしていたのにレオがケビンに反発をしたことでケビンはまたもやこの場から離れることができなかった。
「あのな。お前たちは候補勇者だ。国を守ることが役目じゃ無い。
魔王を討伐することが役目だ。だからこんなところで危険な目に遭う必要は無い」
「大丈夫です!俺、強いんで役に立ちます!」
ぐいぐいと迫るレオに、真剣な様子だったケビンが少し困ったような表情になる。
「いやー。えっとな、そういう話じゃねぇんだよ」
言おうか言うまいか悩むように、酸っぱいものを食べたときのように顔をしかめた後、ケビンは意を決したように「うん」と言葉を置き、ハッキリと言った。
「お前たちがいると邪魔なんだわ」
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「邪魔…。邪魔ってか。俺、別にそこまで弱くねぇハズなんだけどな」
ケビンが去った後、ショックを受けたようにレオはずっと項垂れている。
「あー。邪魔…かぁ。あ〜」
ずっとそんな調子で項垂れるレオにイラついたのか、レオの頭をカレンが思い切りどついた。
「煩い。静かにして」
ケビンのことにプラスしてカレンに怒られたことがショックだったのか、レオは素直におとなしくなる。…けど、街の入り口へと歩いて向かっているこの状況で静かになるとそれはそれで気まずさみたいなのがあって嫌だな。
クッソ悪い空気の中、無言で街の入り口へと向かって歩いていると、いろんな音が聞こえてきた。
それは悲鳴だった。どこから聞こえてきているのかはわからない悲鳴だ。小さな子供の悲鳴だった。
それは怒号だった。どこから聞こえてきているのかはわからないが、確かに怒号が聞こえた。冷静さを失っている大人たちのものだった。
遠く背の方で、爆発の音のようなものが聞こえた。それに次ぐ形で、無数の悲鳴が新たに生まれた。
うっすらと聞こえてくる「助けてくれ」と言う懇願の声。
それをかき消すような建物の倒壊する音。
全てを蹂躙するような血と土と燃える何かの香り。
決して、街全体が火の海に包まれていると言うわけではなかった。
けれど、度重なる爆発によって火薬の匂いが街の空気に染み込んでしまっている。
だから燃え盛っているわけでは無い街から何かがやけるような香りがしてくる。
ただ、所々で炎に包まれている場所もあった。燃えやすい素材を使った建物は燃え、そう言った建物の密集している場所は激しく燃えた。
不思議な光景だ。広い街の一角に、そこだけが激しく燃えていると言う場所がある。
まるで、何かで線引きをされて世界が分けられているようだ。
しばらく歩き続けると、頬に熱を感じた。それは、俺達が居る場所が炎に包まれているからだ。
しかも、これまで見てきた風景のように小範囲で建物が燃えているわけではなく、街のそのエリアが全体的に燃え、炎に包まれていた。
「そんな…ここは爆心地からかなり離れているのに」
絶望した様子でポーラが言う。その言葉を誰も否定しない。
皆が同じことを思っていたからだ。
俺たちは爆心地であるコロシアムから離れ、街の入り口を目指していた。だから、進めば進むほど安全になるのだろうと思っていた。けど、それは勝手な解釈だった。
普通に考えて、街の中心部からいきなり敵が湧き出すハズが無い。敵は空から攻めたりしてこない限りは街の端側から攻めてくるハズだ。
つまり、奴らは中心部であるコロシアムや米国王城から攻め入ってくるのではなく、街の入り口から進行してくる。
と、いうことは、俺たちが街の入り口を目指して進めば進むほど、それは今回の襲撃を行った魔族に向かって進んでいると言うことにもなる。そして、どこかのタイミングで魔族と鉢合わせをすることになる。
崩壊した街並みから抜け出し、通常通りの街並みにたどり着いた。そして、その普通の街並みを抜け、俺たちは燃え盛る街並みへとたどり着いた。
その事実が意味することはただ一つ−
「あれ…何?」
目を見開き、信じられないと言った様子でカレンが指を指す。
俺たちがカレンの指差す方を見ると、‘武装したゴブリン’の集団が街の人間を襲っている光景が繰り広げられていた。目の前わずか30メートルほどの位置だ。
あぁ。くそったれ。何がこれは知性の無い雑魚の襲撃だよ。バカ言ってんじゃねぇ。
これはれっきとした知性ある魔物による襲撃じゃねぇかよ。
−魔物との…、魔族との邂逅だ。




