覇王ジャックの孫09
「お隣失礼しまーす」
「…………お前、俺の意識に入ってくるなって言ったよな?」
「え、意識に入るってなに? 新手のジャックポット? それともヤバい系のジョーカー体質?」
はぁ……俺に話しかけてくるなと、簡単な言葉で言ってやればよかったか。変に気取った言い方をするんじゃなかった。やはり馬鹿の扱いには向いてないな。俺と代わってくれ、カツヒコ。お前なら喜んでダイブしてくれるだろう。
「いやー、いい湯ですなー」
「どっか行けよお前……」
「湯船ひとつしかありまっせーん」
野良犬が調子に乗って俺の顔に湯をかけてきた。あのときのように脅してやろうかと睨み返すも、イタズラ坊主のようにケラケラと笑っていた。
「…………お前、女だったんだな」
「え!? 私男だと思われてたの!? ふぁっくゆー!?」
「風呂で女を犯す趣味はねぇよ」
「え、いきなりなに言ってんの? 犯罪するの?」
睨みついでに視界に入ってきたが、見ればいちおうは女らしい体付きをしていた。スラッと伸びた成熟した肢体に、戦闘時は邪魔にならないよう髪を上げて固定いるから気付きにくいが、とても長く赤茶色で、紅葉地帯での迷彩色として使える。胸は……なくはないか。タオルで隠されているせいで正確に判断はできないが、少なくとも真っ平らではなかった。ジャックポットは男女の数を同数にしなければならない絶対の制限があるが、こいつならその制限がなくても平気で男集団の中にエントリーしてくるんだろうな。この体のどこにあんな走力を出す秘密があるのか、興味深くなくもない。
「……なに? どうかした?」
「この際だ、お前に常識ってもんを叩き込んでやる」
「え?」
ぽかーんとマヌケな顔を浮かべる野良犬に、少し嫌がらせをしてやりたくなった。たしか、『座学はぜんぜん』だったよな?
「まずはひとつ、ジャックポットの競技理念を言ってみろ」
「あー!! やめて!! せっかく卒業したのに先生みたいなこと言わないでぇー!!」
「ふたつ、ジャックポットに存在する出目の数字を全部答えろ。と言いたいところだが、どうせ知らないだろうから言ってやる。1、2、4、6、8、10の6種類。ちなみにジャックポットは20だ」
「やーめーてー!! 数字に呪われるー!!」
「みっつ、因子武器の有無やジョーカー体質は先天性であることで知られているが、後天的に取得することは可能か、否か」
「え……ジョーカー体質が激レアなのは知ってるけど、因子武器ってみんな持ってるんじゃないの? ジャックのみんなは全員使えるよ?」
「そりゃ、ジャック訓練所は因子武器の保有が入所条件だからな」
「へー……そうだったんだー、知らなかったー」