覇王ジャックの孫07
「ちょいやああぁぁぁ!! ってなんで私だけ走ってるの!? ひょえっ!?」
敵を騙すなら、まずは味方からだ。馬鹿なこいつを囮にすれば、その分俺に勝機がある。一気に飛び出して低い姿勢で体と銃を固定、そして敵の上半身目掛けて最高速で撃ち込む――
「がぁっ!?」 「どわっ!!?」
「ふぅ…………なんとかなったな」
反撃されて危うく被弾しかけたが、腕に擦っただけで致命傷には程遠かった。危険な領域は抜けられた、これで一息つくことができる。
「ふぅ…………なんとかなったな。じゃないよ!! なんで一緒に飛び出すって言ったのに君だけ隠れたままだったのさ!?」
「そんなこと言ったか? 俺が?」
「言ったよ!! 君は記憶喪失のジョーカー持ちか!!」
ユーモアセンスの欠片もなさそうな奴だと思っていたが、案外キレのあるツッコミが返ってきた。記憶喪失のジョーカー持ち……か、皮肉が利いてるな。機会があれば俺も使ってみるか。
「ん、もう1時間か……」
「そろそろジャックポット出ないかなぁ…………うぉおおおお!!!!」
ロールテーブルに力なくサイコロを振るっていた野良犬の顔が、一瞬にしてパッと華やいだ。本来なら1/16の確率でしか出せないはずのジャックポットが、こいつの手にかかれば1/4――つまりは4倍の確率まで引き上げることができる。これが20年に1人クラスのジョーカー体質、そして――こいつがジャックジャンキーと呼ばれる所以。覇王ジャックの16倍には遠く及ばないが、その孫と呼ばれるだけはあって、きっちりクオーター分の確率をものにしているのが憎たらしい。まったく、才気溢れるジャック訓練所の主席様はいいご身分だな。記憶喪失のジョーカー体質しか持っていない俺は、劣等感に苛まれるよ。
「こっから30分は私のターンだよね!? 今度は君が私に従ってくれるんだよね!?」
「あ、あぁ……そう、なるな」
「E地区の中央、斬り込むよ!! ついてきて!!」
もうこいつに主導権を渡すつもりなんてなかったのに、これまでにない勢いで押しきられてしまった。トイレ前に見せたあの真剣な表情で、俺より先に駆け出していた。こいつのスピードについていくのはさして苦ではないが、さきほど俺が先行したときよりも高ペースで走っているのが驚きだ。これで本当に体力が持つのか?
「会敵!! いくよ――転移無法」
一見、刃のない刀の柄にしか思えなかった因子武器を振りかぶり、次の瞬間――姿を消して敵の悲鳴を響かせていた。きっちり2人とも処分してから、焦り気味に小走りで帰ってきた。
「次! どこに向かえばいい!?」
「あ……ちょっと待て…………このまま真っ直ぐでいい、好きなだけ斬ってこい」
「了解!!」
転移無法――距離という絶対の法を無視し、直接敵に斬り込めるレンジ内にまで転移できる超攻撃型のジャックポット……か。試合中に一度もジャックポットが出ないことなんてザラにあるってのに、これを1/4の確率で出せるなんて……チートすぎるにもほどがある。




