覇王ジャックの孫04
(こいつ……女のくせに、やるな)
いくらジャッカルが座学専攻だからといって、歴代でも最上位の成績を残してきた俺の足に遅れることなくついてこれるとは。うちで俺と並走できるのは、七席のカツヒコぐらいのものだというのに。
「ストップ!」
「ん」
小声で力強く停止を求められた。てっきり体力が尽きたのかと思い振り返ると、野良犬が地面に耳をつけて他チームの動向を探っていた。邪魔はするまいと、俺の本能が体の機能を可能な限り停止している。習慣というのは恐ろしい。こいつを接待してやる義理なんて、これっぽちもないのにな。
「…………よし、離れた。ここからは歩いていこう」
「なんだ、もう体力切れか?」
「ううん、まだ大丈夫。心配してくれてありがとう」
さっきまであっけらかんとしていたのに、いまのこいつは真剣そのものな顔付きをしていた。平時と戦闘時で性格やテンションが変わる奴はそれなりにいるが、ここまでのギャップは中々見られたものじゃない。
「ねぇ……」
「なんだ、今度はどうした?」
「緊張したら、おトイレ行きたくなっちゃった」
「お前っ…………そういうのは転移前に行っとくのが常識だろうが」
「大丈夫だと思ったんだけど! ごめん!」
さっきの真面目な顔はどこ吹く風、戦闘前のふざけたテンションに戻っていた。ひとしきり俺を拝み倒すと、木々を走り抜けてあるはずもない便所を探しに向かった。中身は子供だと思っていたが、こういう恥じらいは一人前に持っているらしい。
「あっ……待て! 互いに感知できない距離まで離れるとペナルティを喰らうぞ!」
「え!? マジで!?」
「あぁ、新人戦は即興コンビでのコンビネーションを試される場だ、ソロ活動は厳しく罰せられる。ワンペナで所持コストが1/4減少、悪質だと判断された場合は一気にツーペナ、コストを半減させられるぞ」
「じゃ、じゃあ……ここでしちゃうからあっち向いてて!!」
「お、おう……」
それなりに距離はあるが、会話が通じる範囲であればペナルティには取られないだろう。なにより緊急時だ、審判サイドもその分甘く見積もってくれるはず……だと思われる。いや、そうであってくれないと困る。こんなこと些末事で俺の所持コストを減らされるわけにはいかない。
「お、お待たせ」
「……おう」
尋常じゃなく、気まずい。なぜこいつは一人前に恥ずかしがっているんだ……こっちまで赤くなってしまうではないか。どこまで俺の調子を崩せば気が済むんだ、こいつは。




