その手で掴み取る未来06
「ど、どうかな? おいしい……?」
「あぁ、充分いける」
「ほんと!? はぁぁ…………よかったー、お口に合わなかったらどうしようかと……」
ベッドの前で正座していたシェフは、安心したのかそのままぐでーっと俺の足元に上半身を放り出してきた。どうにもスキンシップが過剰な野良犬だ。
「食堂のおばちゃんに作り方教えてもらったから……まずいわけはないんだけど……私が作ったので大丈夫かなぁって……」
「大丈夫だ、問題ない」
ベタな飯マズということも考えられたが、そもそもおかゆでは失敗のしようがないか。プロに教わったのであればなおさらだ。むしろ、レシピを教わって帰りたいぐらいだ。
「そっか……なら、よかっ……た……」
「おい、そんなところで寝たら風邪引くぞ」
「だい……じょぶ……寝ないから……ちょっと目……閉じる、だけ……」
人はそれを睡眠と呼ぶのだとツッコミを入れる隙さえなく、あっさりと寝息を立てて眠ってしまった。仕方ない、俺のベッドで悪いが寝かせてやるか。あとで文句を言われても、俺の知ったことじゃない。
「触るぞ」
「ん…………」
軽……くはないか。実戦主義のジャック主席というだけはあって、しっかりと鍛え上げられている。この引き締まった体なら、因子武器の性能とあいまって、ずいぶん小回りが利きそうだな。あるべくしてこいつの手に転移無法が渡ったことがよくわかる。これが20年に一度の才能……か。覇王ジャックの血筋のくせに才能に恵まれなかった俺からすれば、羨ましいことこの上ない。
「お疲れさん。しばらく寝てていいぞ、まだ奴らが帰ってくるまでには時間がある」
「ん…………かれーぱん…………」
「わかったよ、食堂から貰ってきてやる」
「ん…………」
寝言と会話をしても意味がないことはわかってはいるが、介抱してもらった義理を感じて返事をしてしまった。やれやれ、これじゃどっちが世話をされているのか、わかったもんじゃないな。
「あ……新人戦……」
短く12時を知らせるブザーが鳴り、俺は急いで中継映像を表示させた。