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その手で掴み取る未来05

「すまん……大声はよしてくれ……。さっきから頭痛が酷くてな……休ませてもらえるか……?」


「わ、わかった!! なにしたらいい!? 私魔術師の家系じゃないからヒーリングは使えないし……そうだ!! 王様にお願いして魔術師の人に来てもらえるようにお願いしてくる!! 孫の一大事なら特急でなんとかしてもらえるよね!?」


「やめろッ!!」


「え……?」


 急いで部屋を出ようとした私の耳に届いたのは、怖いぐらいの怒声だった。じっとしているだけでもつらそうなのに、タツキ君は体を起こして私を睨みつけてきた。


「はぁ……はぁ…………王に俺の容態が伝わったら、明日の試合に出られなくなる……。新人戦が大事な試合だっていうのは、いくらお前でもわかっているだろう?」


「で、でも……」


「でももだってもねぇ!! いいから大人しくしててくれよ……頼むからさぁ……」


 泣きそうなほどのかすれ声で、頭を抱えて懇願していた。私はベッドに戻って、少しでも痛みが消えるように、タツキ君の体を抱きしめてあげた。


「ごめんね、なにもしてあげられなくて」


「いいよ……誰かになにか期待するほど、俺は落ちぶれちゃいねぇ……」


 タツキ君の強がりが、私の心を絞めつけた。つらいときは、誰かに頼っていいんだよ? 泣きたくなったら、我慢しなくてもいいんだよ? ――そう教えてあげたいのに、うまく言葉にならなかった。私には、激痛を訴えている頭をなでてあげることしか……できなかった。



--


「…………んん」


「あ、ごめんね、起こしちゃった? なるべく静かに入ったつもりだったんだけど……」


 カツヒコがなにかイタズラを企んでいるときのような開閉音で目を覚ますと、ジャックの主席がなにか食事のようなものを部屋に運んでいるところだった。


「…………すまん、迷惑をかけた。俺は、何時間ぐらい寝ていた……?」


「えっと……2時間、ぐらいかな?」


「そうか……」


 さすがに人が寝ているときぐらいは空気が読めるようで、可能な限り静かにしてくれていたようだ。カツヒコ相手じゃこうもいかなかっただろうから、その点では助かった。


「あ、あの……おなか、鳴ってたから…………食堂のおばちゃんにお願いして、おかゆ……作らせてもらったんだけど……食べられる?」


「ん……あぁ、すまん。そこまでしてくれるとは……」


 そういえば、さっき俺は遅めの朝食を取るために部屋から出たんだったか。だいぶマシになってきた頭を起こすと、額から濡れたタオルが落ちてきた。こいつ……ずっと俺の介抱をしていたのか……?


「あ、起き上がって大丈夫? 無理しちゃダメだよ?」


「大丈夫だ、すまん」


「いいって、カツヒコ君からタツキ君のお世話頼まれてるんだし。お礼ができて幸せ……なんて言ったら、不謹慎……かな?」


 いくらあいつでもここまで計算に入れていたとは思えないが、結果として丸く収まっているのが恐ろしい。お礼ができなかったからと無駄に付きまとわれるよりは、ずっといい。これで終わりにしよう、すべてを。

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