天使と悪魔の漫才コンビ06
「なんのつもりだ? そこをどけ、ジャッカルの問題児」
「駄目だ、ここは俺の名誉にかけても護り抜く――そういう約束だからな」
なんの冗談かと思ったが、問題児の目は本気そのものだった。どんな事情があるのかは知らないが、そんなの俺の知ったことか。無理矢理にでも通らせてもらおう。
「おい劣等生、貴様、俺がどういう状況なのか見てわからないのか? 頭からコーヒーをぶちまけられたんだ、ほかの誰よりも緊急なんだ、わかったならそこをどけ」
「駄目だ、ここは俺の名誉にかけても護り抜く――そういう約束だからな」
さっきと寸分違わぬ文言で、上から俺を見下ろしていた。気に入らない、気に入らないなぁ。エリート街道から転落しきれなかった半端者が、なぜそんな目をしている? なにがそこまで貴様を奮い立たせる?
「はぁ……ならいい、ほかをあたろう」
「駄目だ、ここは俺の名誉にかけても護り抜く――そういう約束だからな」
「壊れたレコードか、貴様は」
ドジにバカに呆れ果て、文字通りほかをあたることにした。やれやれ、なぜこの俺が劣等生どもに振り回されなければならないのか。まったく理解に苦しむよ。
「失礼する」
「えっ!? びっくりした、こっち女湯なんだけど?」
「すまない、緊急だ、コーヒーをぶちまけられた。申し訳ないが、ここを通らせてもらおう。あと15分ほどか、まだ男湯の時間で間違っていないだろう?」
「ちょい待てぇい!! なに平然と女子更衣室に侵入してんのジャンク主席ィ!!?」
同じ言葉しか話さなかった男が、焦った様子で俺と同じく侵入してきた。落ち着きのない劣等生の相手などするつもりはない、さっさと持ち場に戻ってなんたらかんたら繰り返し復唱していろ。
「あーはいはい、うるさいから問題児君は出ていって。こっちのジャンク主席君は私が面倒見るからさ」
「いやそういう話ではなくてですね!? いま入られるのは非常にまずい状況なのでございますよ!!」
「はぁ? なにが?」
「そ、それは言えな……あれ、もしかして、あなたはジャックの生徒さんですかな?」
「そうだけど?」
「そういうことなら……」
なにやらごそごそと小声で耳打ちしだしたかと思うと、次の瞬間にはともに風呂への扉の前で立ちはだかっていた。どうやら、女子の協力をこぎつけたらしい。まったく、つるむ人間どもは厄介だな。悪魔は1人のほうが向いているらしい。
「さっさとそこをどけ」
「駄目だ、ここは俺の名誉にかけても護り抜く――そういう約束だからな」
「駄目だ、ここは私の名誉にかけても護り抜く――そういう約束だからな」
面倒なのが無駄に増え、倍以上に騒がしくなっていった。こうなったらもう、本格的に諦めるしかないようだ。ジャックとジャッカルには、金輪際関わりたくないな。
カツヒコ「本日はご協力、本当にありがとうございました!」
サリィ「いえ、アリサのためなら協力は惜しみません! またなにかあれば、遠慮なく言ってください!」
カツヒコ「グッ」
サリィ「グッ」
ダブル(なぜこの私が男湯の見張りなどしないいけないのか……まるでわからん)