天使と悪魔の漫才コンビ01
「あれが彼の有名な覇者ジャックの孫か。気に入らない、気に入らないな」
覇王の血筋、そして因子武器保持者でありながら、ジャック訓練所への入所を蹴ってジャッカル訓練所に入所するなど、前代未聞だ。許しがたき暴挙にほかならない。その面の皮は、いつか俺が剥いでやろう。
「まーたサリパリは同じこと言うとん? ジャックの孫とは何回も会っとーとやろ? せっかくの飯なんやから楽しく食いましょー?」
「気に入らないものは、気に入らない。お前もそうだろう? ホリプリ」
「いや、別にそんなことなし。普通に親戚として仲良ぉやっとし」
本当に憎たらしく思っているくせに、いつも俺の神経を逆撫でしてくる。ホリプリのそういうところが気に入らない。だが、俺にはそれよりももっと気に入らないことがある。
「前々から思っていたのだが、俺はお前の身長が気に入らない」
「知っとるわ!! なんべん同じこと言うねん!?」
「俺に25cmばかり寄越せ、それでちょうどよくなる」
そうすればこいつも少しは女らしく見えるようになるだろう。そして俺は同世代の誰よりも長身となろう。この俺が覇者となるのだ。
「それだとあたしがめっちゃビーチーになるやんけー!? どこの天使並みに縮めばええのーん!?」
「うるさいな、少し黙れ、ホリプリ」
「誰のせいで大声あげてると思っとるん!?」
騒ぐも騒がないも個人で調整できる範囲だ。人のせいにするなど言語道断極まりない。こいつの飯に睡眠薬でもぶちこんでおいてやろうか? そうすればすぐに大人しくなるだろう。証拠隠滅などの後片付けが面倒だがな。
「ふむ」
「あわあわあわあわ……ジャンクの主席様だぁ……私なんかがペアを組むなんて恐れ多いぃ……」
こいつはハズレだな。俺が顔を知らないという時点で劣等生が確約されている。ジャンク主席の俺に、いったいどんなゴミを押しつけてきたんだ? 強い者は強い者同士でペアを組むのが常識だろう。国王――いや、覇王はなにを考えている?
「貴様、卒業した訓練所と自分の名前を言え」
「は、はい! じゃ、じゃっく訓練所です! な、名前は、ミカエル……です……恐れ多い名前をつけられてしまってすみません……」
「ジャック? お前が? ……質問が悪かったな。席次も教えてもらおうか」
「す、すみません!! じゃっく訓練所の十席です!! あまりにもしぶとく十席に生き残るので、十席の守護天使と呼ばれていました!! 大仰でごめんなさい!!」
なぜ謝罪をするのかがわからなかったが、聞けばジャックの末席か。どうりで顔を知らないわけだ。才能溢れるジャックの席次を持つとはいえ、正直あそこはピンキリだ。因子武器保有が必須条件なせいで門こそ高いが、実際に戦闘向きな者はそう多くない。稀にこういった雑魚が生き残ることもあるのだろう。
「で、でも、こんな私にもアリサちゃんは優しくしてくれるんです!! だからどうか同じ主席として仲良くしてあげてください!! お願いします!!」
「自己保身から、急に友人のPRに変わったな」
「ゆ、友人だなんて恐れ多い!! 私が哀れな天使なら、アリサちゃんは神です!! 女神です!!」
例のジャックジャンキーか。交流戦で幾度となく剣を交えてきたが、奴の戦闘センスはズバ抜けている。正直なところ、本物の覇王ジャックの孫よりも、偽者の孫のほうがよっぽど恐ろしい。あっちはいくらか攻略のしようもあるが、ジャックジャンキーに限ってはタイマンでは絶対に敵わないと断言できよう。奴に打ち勝つには、集団戦に持っていくほかない。つまり、少人数での戦闘が強いられる今回、奴は間違いなく大暴れをする。これは予言ではない、確定事項だ。