ジャッカル唯一の問題児05
俺の母親は、俗に言う『教育ママ』だった。物心ついた頃には、ジャッカーとして成り上がるためのありとあらゆる習い事をさせられていた。そんな俺は、ジョーカー体質はおろか、ジャック訓練所の最低入所条件である因子武器すら持ち合わせていなかった。でも、いくらうちがジャックポット王国と呼ばれていても、その資格があるのはサイ国全人口のたった3%だ。因子武器なんて持ってないほうが当然だった。だから、俺は勉強をさせられた、体を鍛えさせられた。そして――ジャッカル訓練所に、楽々と好成績で入所できた。
『なにをぼーっとしているの? ちゃんとテストの問題を解きなさい』
『終わりました』
『は? まだほんの10分しか……………………100点、満点……? こんなに早く……嘘でしょう……?』
この一件があってから、俺は神童と呼ばれるようになった。ついでに、負けず嫌いのタツキから敵視されることとなり、幾度となく勝負を吹っかけられた。それがどうしようもなく面倒で、そのせいで俺は、入所一ヶ月という早さでグレた。神童から問題児へと、所長も驚くほどの急転直下だ。それでも俺は母親の視線を感じ、遅刻をしようと定期テストだけはしっかりと受けていた。その結果が七席という成績だ。もちろん、いままでの順位表から逆算して、ピッタリ七席に入れる点数を狙った。席次を取ることすらできずに退所していくその他大勢を見れば、酷いほど低いわけでもなく、かと言って高くもない絶妙な順位だと思っている。これが俺にできる最大限の反抗だった。母親は満足こそしていなかったが、これでジャッカーとしての生活は保証されたからと見逃してくれた。結局のところ、俺は金を生むための機械でしかなかったんだ。先行投資というやつだろう。別にそれが間違っているとは俺には思えないが、決して正しいことだとも思えなかった。
「はぁ……はぁ…………俺の人生の、邪魔をするんじゃ、ねぇ……」
「くぅっ……」
「おいおい、なに泣いてんだよ。お前が先に仕掛けてきたんだろうが」
ストレス解消ついでに何人もの女と付き合ってきたが、こういう真面目そうな女を泣かせるのは初めてだった。まったく気分が悪い。やはりこういう堪え性のない人間と付き合っていく気にはなれん。
「俺が好きなのは、タツキみたいに努力で才能のなさを補ってるような女なんだよ。ま、あいつ以上に頑張ってる女なんて見たことないけどな。もしタツキが女だったら、最低でも100回はアタックしてたかも」
「私だって努力してるわよ!! 才能も頭脳もないジャンクで……それでも役に立とうと研究して……新人戦なんかの人数固定戦で低コストの穴埋め要員としてならいくらでも枠があることが判明して……だからナイフだけを振るってきた!! 今日この日のために銃の扱いはすべて放棄してきた!! その結果!! 後天性の因子武器保持者というジョーカー体質以上の希少性を手に入れた!! 次席で卒業できた!! これ以上私になにを努力しろって言うの……? 教えてよ……どうすればあなたみたいになれるのよ……」
「…………ごめん、俺ばっかりが不幸なんだと思ってた」
そうか、こいつも抗ってたんだな。俺とはまったくの逆方向だけれど、ジャンクだからと腐るわけでもなく、必死に優等生を演じてきたんだな。タツキほどじゃないだろうが、こいつも頑張ってきたんだな。
「なら!! こんなところで油売ってる場合じゃないだろ!! 俺たちで勝つぞ、この戦い」
「私のナイフの出目が半減したっていうのに……どうやって勝てって言うのよ……」
「全部お前のせいだからね!? お前がいきなり俺にナイフ突きつけてくるからこうなったの!! わかる!?」
「あなたのせいよ!! タツキ様のことを悪く言うから!!」
「俺がいつタツキの悪口言いましたかー!? 最初からベタ褒めだったと思いますがー!? ぶっちゃけ俺あいつのこと愛してますけど!?」
「タツキ様は私のものよ!!」
「ほほーう!? やってみろよー!? 俺からタツキを寝取れるもんならやってみろよぉー!!?」
ちくしょう……こいつのこと、気に入っちまったじゃねぇか。ガチのマジで女にホレそうになった
のなんて、生まれて初めてだよ、こんちくしょうが。