1ー16.ヒューイット城へ!
出発の朝、俺たちはドーガの武器屋にきていた。
武器のメンテナンスをいつもお願いしていたので、
ここには定期的に通っていたのだ。
「短い間だったんですが、お世話になりました」
「いやいやこちらこそ。お前さんらが日に日に成長していく様を見れて
わしは嬉しかったぞ」
「いえいえ。武器をよく壊しては直してもらっていたので」
「そうじゃな。イヨとコテツの武器はよく直したな。ただ、
お前さんの武器は直したことがない。オーラの使い方が常人離れしておるからな」
武器の周りにオーラを纏わせることで、通常よりも切れ味を鋭くさせることができる。
最初はオーラの使い方が下手だと武器をよく壊すが、上手くできるようになると、
武器はほぼ半永久的に壊さずに使い続けることができるし、弱っちい武器でも
凄い切れ味にもなる。何でも使い手次第なのだ。
「そうじゃ。ヒューイットにいくんなら、ゴードンの武器屋を頼りにしろ。
あいつは年は若いが腕はいい。わしの名前を出したらよくしてくれるじゃろう」
「最後までありがとうございます。ゴードンの武器屋、探してみます。」
「ああ、元気でな」
ギルドにも顔を出すと、宿屋の野中亭で仲良くなった冒険者らに
たくさん声をかけてもらった。
受付のシーナさんとは軽い挨拶程度だったが、ちょっと寂しそうだった。
イヨは最初シーナさんには人見知りだったが、次第に慣れてきたようで、
ギルドに報告に来るたび、シーナさんとは仲良く話をしていたようだ。
それにシーナさんはコテツの関西弁がツボだったようで、
コテツが何か話すとクスクスと笑っていた。
ギルドマスターのガジンは3階のギルド室にいた。
ガジンは武器屋のドーガとは旧友らしく、昔は2人とも
有名な冒険者だったらしい。
最近は、俺たちの話を酒のアテに2人でよく飲んでいるそうだ。
「ドーガはお前さんらの事をえらく気に入っておったから、ここを出ると
聞いて寂しそうにしておったわ」
「ドーガさんにはすごい世話になりました。イヨとコテツがよく
武器を壊しては直してもらっていたので」
「ああ、それも聞いておる。最近はちょっとマシになってきたようじゃが。
あいつら腕を上げたな」
「ええ。こう見えて一次転生は終わってますからね」
「どんな魔法を使えばこんな短期間で強くなれるのか、参考程度に聞かせてくれんかな」
「美味しい食事と適度な運動」
「ハッハッハ!なるほどなるほど」
ガジンは嬉しそうにイヨとコテツの肩をバンバン叩いて大笑いしていた。
2人は苦笑いしながらも少し誇らしげだったのが俺は嬉しかった。
俺たちが部屋を出る時にガジンに呼び止められた。
「ヴァン、ちょっといいか」
「ええ、なんでしょう」
「知っとると思うが、ヒューイットは年に1回ある感謝祭がもうすぐある。
タイミング的に、そこを魔族が狙ってくる可能性は高い」
「ええ、わかっていますよ」
「死ぬなよ」
「ええ、気をつけます」
ガジンはフッと笑ったかと思うと、何やら満足げにニヤニヤしていた。
心配している素ぶりをみせている割には楽しそうじゃないか。
俺もこのゲームにおいて魔王に関する情報は未知数なんだから不安で
あることには間違いない。イヨとコテツもまだまだレベルが足りない。
が、俺自身は魔王やら四大帝王ってやつがどんなやつか楽しみで仕方ない。
武道家のジョブをメインで使うやつは大抵戦闘狂だからな。
◇◆◇◆◇◆
こうしてギルドを出た俺たちは、ミストラルの外門まできた。
イヨとコテツから、どうやってヒューイットまでいくのかと聞かれた。
普通に徒歩で歩いていくと1週間くらいかかる。
町から町への移動は、普通馬車を使うのが常識だ。
さあ、俺の秘密道具の登場である。
「じゃあイヨとコテツはこれつけて」
渡したのは「ローラースケート」である。
おれは「スケボー」をマジックボックスから出した。
現実世界では珍しくないものだが、このゲームの世界では
相当なレアアイテムである。
過酷な争奪戦を経て、何とか手に入れたもので、どちらも使い方は一緒である。
これは装備者のオーラに合わせて動くマジックアイテムで、
スケボーの方が操縦が難しい為、
2人にはローラースケートを履いてもらうことにした。
これは車くらいの速度が出るもので、通常歩いていくと
急いでも7日はかかる道のりを、1日で行ける。
一次転生が終わった2人なら、オーラを回復させながらであれば
今日中にヒューイットまで行けるだろう。
「なんっすかこれ凄い楽しい〜!」
「めっちゃおもろいやん!ヴァンはんええの持ってるや〜ん!」
イヨとコテツには好評のようだ。
乗り物にオーラを纏わせる修行にもなるし、一石二鳥だろう。
「じゃ、ちょっくらヒューイットまでひとっ飛びしようか」
ローラースケートとスケボーで移動するという、ファンタジーな世界から
ちょっとかけ離れた絵にはなってはいるが、とにかく俺たちは
ヒューイットまで向かうことになった。