好奇
この町にはバケモノがいる。らしい。
曰く、膂力は尋常のソレではなく。
曰く、昼は身を潜め夜に活動し。
曰く、主に人を標的にしているという。
要するに、人知の及ばないナニカが、この辺をうろついている。らしい。
夜の街に、人目を忍んで。密やかに、秘めやかに。
路地裏で怪死体が見つかったというニュースが、話題になったとかならなかったとか。
非常に気になる。
具体的にどこが、と聞かれると返答に困るが、とにかく気になって仕方がない。自分でもよく分からない。
――だから、そいつらを一目みてやろうと思った。夜に、人目を忍んで。密やかに、秘めやかに。
―――
七月上旬。午前2時。
夜の街は暗く、蒸し暑かった。
街灯は数える程もなく、その光も強いとは言い難い。
結果、路傍に転がる闇がより一層引き立っていた。
「はてさて。出るとすればどの辺り、か」
一目見てやろう、なんて意気込んではみたけれど、ぶっちゃけ存在しているのかすら怪しい。
それもそのはず。情報源が、自分の家の地下に眠っていた、やけに古いノートだったからだ。
長年にわたり使い古されてきたのか、ひどくボロボロのそれには、この町に棲むバケモノについて示唆されていた。
怪しさ満点である。
実は誰かの黒歴史じゃなかろうか。
「……疑っても仕方ない、か」
何にせよ、自分はもう外に出てきてしまっている。
このまま帰っては、夜更かしのし損になってしまう。
後には引けないのだ。