昼下がり
椅子を引く音と、上履きが立てる靴の音。そして大半を占める、おしゃべりな声。
いつも通りの教室の風景を、いつも通りに受け取れない自分がいた。
「よーっす、シキ」
そんな心情を知ってか知らずか、扉からひょっこり顔を覗かせ、声をかけてくる奴の名前は進藤 徹也。
隣のクラスで、野球部所属。
厳つい体躯と厳しい顔つきは、周りを威圧するオーラを放っており、近づき難いことこの上ない。
だが一皮むけば人懐っこく、笑顔と軽い口調が印象的なイイやつに変貌を遂げる。
結果、彼を取り巻く人間関係は狭く深いものになっていた。
かくいう自分もその内の一人で、小学生からの付き合い。
色々とつるんでやんちゃをやらかした、言わば悪友のような関係だ。
それも今はなりを潜めて、真面目に学生生活を謳歌しているが。
「やあテツヤ。どうかしたのか?」
そんなやる気のない返答をするのは、自分こと鳥羽里 四季だ。
どこにでもいる普通の高校生。帰宅部。以上。
「どうかしたのはお前だぜ?様子が変だって聞いて来てみれば、なんだその顔。道端に生えてる草でも食ったのか?」
ひどい言われようだ。
「そこまで頭がおかしくなった覚えはないし、そんな上等なものは食しちゃいない」
そう、アレは少なくともマトモなモノでは無かった……。
思い出しそうになり、思わず顔を顰める。
「……?本当にどうしたんだ、お前」
さっきまでの冗談じみた雰囲気から一変。眉間に皺を寄せ、本気でこちらを心配する徹也。
心配してくれるのは嬉しいが、そこまで深刻なことが起きたわけでもない。
「なんてことは無い。ただちょっと、夢見が悪かっただけ」
そう、ほんのちょっと悪い夢を見ていただけだ。
別に心的外傷を抱えているわけでも、予知夢を見たわけでも何でもない。
「それよりもさ、早く購買に行こう」
ごまかすようにして話題を切り替える。
チャイムが鳴ってから10分経過。購買組は、とっくの昔に席を立っていた。
急がねば。そんなに美味くない売れ残りのパンと、微妙に高い炭酸飲料が俺たちを待っている。
「……大事ないなら、いいんだけどさ」